聖騎士様を見物するはずでした。
「え!? これ……え!?」
何度もカードを見直している受付のお姉さん。
「これ……ああ、ちょっとクラクラしてきた……」
「だ、大丈夫ですか?」
「……はい、なんとか」
と、もう一度カードを見て。
「……逮捕していいですか?」
「なんでだよ! なんで急に逮捕されるんだよ!」
「だってこれなにかずるしてるでしょ!」
「しないから! 目の前で見てたでしょ!」
「そうですけど……これはおかしいんじゃ」
いやまあそれは俺も思うけど……。
でも俺のせいじゃないから。神様のせいだから。そんなこと口に出したらやばい奴扱いされるから言わないけども。
「と、とにかく一旦預かりますので」
「あ、はい」
「一応、個人情報は守っておりますので、安心しておあずけ下さい」
「あ、ありがとうございます」
「それでは」
と、俺のカードを持ってカウンターに戻るお姉さん。
「びっくりしてましたね」
「うん……俺もかなり驚いてたけど」
この世界のステータスのことはよく分かんないけど、1000万ってやばいよな? 神様やりすぎです。ありがたいけども。
俺がそんなことを考えていると、ミーアが時計を見て。
「あ、もう六時になりますよ!」
「え? ああ、確かにそうだけど」
「ここで待っていましょう、ベストポジションのはずです」
「ペストポジション……?」
何が何だか分からないんですけど。
と、何故かわらわらと村の人達がギルドに集まってくる。
「え? 何かあるの?」
「あ、言ってませんでしたっけ」
「いや1mmも聞いてないけど」
と、わくわくした顔を俺に向けるミーア。
「今日、来るんですよ」
「来るって……何が?」
「聖騎士様です!」
「な、なんだってー!」
と、空気を読んで合わせてみたものの。
「いや誰だよ」
まったく分からんわこんちくしょう。
「この村、レイジスト領の人たちに襲われているじゃないですか。ですから、聖騎士様たちがここを守りに来てくれるのです」
「なるほど」
「それで今日の六時にこの街に到着するんです! 門で待つ人もいますけど、ここに聖騎士様が来ることは確実なのでここがベストポジションなのです」
「あー、そういうこと」
朝早く起こされてここに来たわけがそう言うことだったとは。まあ聖騎士さんが見られるならそれでいいか。
と、遠くで歓声が上がる。
「あ、来たみたいですすすむさん!」
「あ、うん」
ぴょんぴょん跳ねながら喜んでいるミーア。
……可愛い。背が低いから子ども見てるみたいで。
いやロリコンではないから。断じて違うから。
俺が一人で脳内の敵と戦っていると、周りから歓声が上がる。
「来ましたよ!」
「ああ」
カツカツと足音を立てながら歩いてきた人物。
ギルドに入った瞬間、大歓声に包まれる。
一方は女で、もう一方は男で、どちらも金髪。どちらも頑丈そうな鎧を身にまとっていて、腰には一振りの剣が差してある。
めちゃくちゃかっこいい……! 鎧も剣も、シンプルな見た目に程よい装飾が相まってさらにかっこよくなっている。
「どうも、聖騎士のライトです! この街を守るために誠心誠意頑張ります! よろしくお願いします!」
爽やかな声でそう言葉を発したライトさんが、拍手で包まれる。
「聖騎士のレイだ。しばらく街の警備を担当させてもらう。よろしく」
これまた拍手に包まれるレイさん。
「ん、よろしくねー」
と、二人に頭を下げる女の人。
……いや誰だよ! この流れで誰だよ意味わからんわ!
「なあミーア、あれ誰?」
「ああ、あの方はギルド長ですね」
「あれがギルド長……」
ああ、あの汚いSEを鳴らしてた張本人か……。
服装は周りの村人たちと同じだけど、首に高そうなネックレスをかけ、腕には金色の腕輪をはめている。
赤色の髪はショートカットで、その小さ目な身長も相まってどこか幼い印象を受ける。
「ギルド長、よろしく」
「ああ、この街は頼んだぞ」
三人が握手を交わすと、またもや歓声が上がる。
俺も空気を読んで、拍手。
「すすむさんすすむさん」
「ん?」
「すみません、よく見えないので肩車してください」
「ああ、背低いもんね」
「む、今なんて」
とてつもない殺気を感じて、首を横に振る俺。
「よろしい。ではお願いします」
「はいはいお嬢様、了解しましたー」
しゃがんで、ミーアを肩に乗せて立ち上がる。
「おお、よく見えます!」
「なら良かった」
顔はよく見えないけど、きっと目をきらきらさせてるんだろうな……。
と、そんなことを思っていると。
「すまない、この街に私たちが来る必要があったのだろうか」
突然そんなことを言い出すレイさん。
「というと?」
「いや、見た感じ私達よりもはるかに強い者がいるのだが」
ギルド長の質問に答えるレイさん。
聖騎士よりも強いって相当だよな? そりゃそんなのがいたら聖騎士が来る必要もないわな。
「それは僕も思っていました。僕たち二人でかかっても倒せないほどの強さですし、そんな人が居るのになぜ僕たちが呼ばれたのだろうと」
「ん? そんなのいる? この街、言っちゃ悪いけどみんな弱いよ? 私も含めて」
途端に村人が笑い出す。そして小刀を取り出す。
……おいおい嘘だよね? やめてよ? ここで大乱闘とかやめてよ?
と、冗談だったようで小刀をしまい「俺もレベル上げすっかなー」と各々呟く村人。お願いですからそういう冗談はやめてください、心臓が止まります。
「いえ……一人だけ」
「うむ」
と、二人そろって指さした場所は。
「「あいつ」」
……いや待ってくれ。ほんと待ってくださいお願いします。なんで俺がここにいる全員に見られているのでしょうか。
……あ、そういや俺なんか強かったわ。神様にバフかけてもらったんだったわ。
「ん? あの男が? 本当に?」
「うむ、レベルも計り知れんぞ」
信じられないという目で俺を見るギルド長さん。
「いや、いや俺はただの放浪者ですので」
「いやそんなはずはない。私達聖騎士が相手の実力を見誤ることなどないからな」
何も言えなくなる俺。いや何言えば良いんだよこんな状況で。
と、横から受付のお姉さんがやってくる。
……やばい、なんか悪い予感がする。
お姉さんが持っているのは、カード。
……いや待って、俺のじゃないよね。俺のじゃないよね!?
あんた個人情報を守るとか言ってなかったっけ!? 言ってたよね、安心しろって言ってたよねええええええええ!!
そんな俺の心の叫びも虚しく、カードを見せびらかすお姉さん。
次の瞬間。
「「「はああああああああああああああああ!?」」」
デジャヴを感じるような三人の叫び声が、ギルド中に響き渡った。