武器を買うことにしました。
外に出てもいいと言われたので外に出たものの。
「……なにすればいいのかが分かんない」
今まで目的がないのに外に出たことなんてなかったからなあ……。ブラブラする、というのがよく分からない。
うーん……とりあえず、お店を一軒一軒回ってみよう。
と、一番端のお店に足を進める。
記念すべき一件目は、どうやら武器屋のようだった。
「し、失礼します……」
中にはずらっと武器が並べられていて、その奥には店主らしき女性が、一人。
「ああ、いらっしゃい。買うんならそこらから適当にどうぞ」
短髪の赤い髪で、くっきりとした目鼻立ち。スレンダーなモデル体型が目を引く女性だ。
「あ、いや……その、下見っていうかなんというか」
「ん? めずらしいね、こんな店の下見なんかする人」
「い、いえ……」
と、少し屈んで武器を取り出す店主さん。
「私はリリア、見ての通りこの店の店主だ。どうぞごひいきによろしく」
「あ、いえ……俺、別に戦ったりしないので」
「ん? じゃあなんでこんなところに来たんだ?」
「いや、この村に来たのは初めてで、一軒一軒回っていこうかなって」
「へー。ま、護身用に一本武器は持っておいてもいいかもね」
と、壁にかけてある剣を取るリリアさん。
「最近は物騒だからね、自分の身を守るのは自分って思っとかないと」
「物騒? 魔物……とかですか?」
この世界にもやっぱり魔物はいるんだよね。そりゃ異世界だしいないとおかしいし。
「それもあるんだけど……最近の一番の敵は人だよ」
「人!?」
「そ、人。レイジストってところの領主がここを攻めに来るんだよ」
レイジスト……? どこかで聞いたことが……。
ああ、あの時ミーアさんが言ったんだった。そうか、そう言うことか。
おかみさんのあの目は、この村を攻めに来ている敵にむけた目だったのか。
「どうした? そんな顔して」
「いえ、少し考え事を」
うーん、俺はこの世界のことはよく分からないけど……。
魔物とかから身を守るためにも、やっぱり一つぐらい武器を持っておかないといけないよね。
「あの、せっかくなので一つ武器を頂けませんか?」
「ああ、いいよ。決まったらカウンターに持ってきてくれ」
とりあえず目に入った物を見に行ってみる。
刀身が長い、よくRPGとかで勇者が使っているような剣だ。とりあえず手に取ってみよう。
「うわ、重い」
残念ながら俺の筋力じゃこんな大きいのは振り回せないな……。
その横に合ったひと回り小さい剣も持ちあげてみる。
「これなら俺でも使えるのかな?」
さっきの剣と比べるとすごく軽くなった。振り回しやすそうだし、もち運びにも便利そうだし……。
「えっと、じゃあこれにします」
「まいど。三十レイベルだよ」
「はい、えっと……あ」
ここで自分が持っているお金に気づく。
……いや、これしかないしこれで払うしかないよね?
「えっと、その……これで大丈夫ですか?」
「ん? ……え?」
「あはは……」
二度見、三度見、四度見……。
十回は見直したかなというところで、遂に声をあげるリリアさん。
「ええええええ!? ちょっとこれどういうこと!?」
「すみません……それしかなくて」
「それしかないって! うーん、ちょっとくらくらしてきた……」
「ちょ、大丈夫ですか!?」
「あ、ああなんとか……」
持ち直したリリアさんが俺を見据えてもう一度。
「えええええええ!?」
「いやもういいですって!」
「ああすまない、ちょっと驚いてしまってな」
と、コインをしげしげと見つめて。
「うーん、偽物じゃなそうだ。こんなものを持っているとは、君どっかの国のお抱えなんじゃ?」
「いやいや違いますって! ただの旅人ですから! 放浪者ですから!」
「うーむ……」
疑いの目を向けるリリアさん。
「ま、疑っていてもしょうがないな。……でもこんな大金のおつりは払えんぞ?」
「あ、おつりは大丈夫です」
「『あ、おつりは大丈夫です』って、君は本当に何者なんだ……」
と、壁にかけてあった小さい剣を取り出して。
「んじゃこれもつけておくよ。本当なら店の武器を全部売っても足りないんだがな」
「いえいえ! そんなことしなくていいですから!」
「そうか。ふふ、君は礼儀正しいな」
にこりとリリアさんが笑って。
「では追加でこれもつけておこう。効果は薄いが、若干体力をあげてくれる魔力がこもった指輪だ」
「あ、ありがとうございます、こんなにいただいて」
「なに言ってるんだ、君はとんだ大出費じゃないか。これぐらい当たり前だ」
かくして、俺の手元には中ぐらいの剣が一本と小さい剣が一本、それに魔力のこもった指輪が一つ集まった。
「剣の持ち運びにはこれを使うといい」
リリアさんから渡されたのは、剣を腰にさせるようにできているベルト。
「ありがとうございます……こうか?」
腰に巻きつけて、剣を二本さしてみる。
……かっこいい。めちゃくちゃかっこいい! 若干、いや結構テンションあがる!
「ふむ、喜んでもらえたようで何よりだ」
「こちらこそ……。また来ます」
「ああ。当分、いや数年はこのお金だけで生活できるような気がするがな……」
と、手に持っているコインを見るリリアさん。
「では、また」
「ああ」
かくして俺は、これから旅のお供となる二つの武器を手に入れたのだった。