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宿に泊まることにしました。

「お前、ここに泊まっていくつもりか?」


 村の中を二人で歩いていると、そんなことを言われた。


「あ、はいそのつもりです」


「そうか。宿はあそこにあるのでな」


「あ、ありがとうございます」


 俺が頭を下げると。


「いや、構わないぞ。それでは、私は警備に戻るのでな」


「ありがとうございました」


「礼儀正しいなお前は」


「い、いえ……」


 少し笑った後、警備に戻っていく門番さん。


 異世界人って少し怖かったけど、意外とそうでもないのかもな……。


「えっと、宿ってここだったっけ」


 えっと……なんだこの文字は……。


 読めない、全く読めない。こんなふにゃふにゃした字、日本じゃ見たことも無いぞ……。


「えっと、こういう時はほら、魔法でどうにか……」


 頭の中で念じてみる。


「あ、読める読める……えっと、宿屋銀っていうのか」


 見知らぬ字が読めたことに少し感動を覚えていると。


「あ、あの、宿にお泊りになられるんですか?」


 見知らぬ女の子に声を掛けられた。


 腰まで伸ばした銀色の髪に、整った容姿。服装は……なんていうか、これぞ村娘! って感じの服装。


「あ、はい」


「そ、そうですか、久しぶりのお客様なのですね」


 と、俺に向き合って。


「私はミーアと申します。この宿の娘です」


「あ、はい、俺は安藤進っていいます」


「あんどー? めずらしい名前ですね」


「いや、名前は進のほうです……」


「そうなんですか。すすむさん、ですね。どうぞ、宿の中へ」


「あ、ありがとうございます」


 ミーアさんに連れられて、宿に入っていく。


 中は意外と広くて、日本の旅館を沸騰とさせた。


 トコトコとカウンターに向かうミーアさん。


「お母さん、お客様がいらっしゃいました」


「ん? ほんとかい、珍しいね」


 と、俺が目に入って様で。


「いらっしゃいお客さん」


「すみません、お世話になります」


「なあに、それが仕事なんだから構わないさ」


 おかみさんが足元から何か袋を取り出して。


「一泊5レイベルだよ」


「れ、レイベル……」


 おそらくお金の単位なんだろうけど、残念ながら俺には理解ができない……。


「と、とりあえずこれでいいですか?」


 腰に下げてある包みからコインを一枚取り出す。これ、多分お金だよね?


「はいはい……えっ」


「なにかあったんですか?」


 もしかしてお金じゃなかったとか!? だとしたら俺無一文なんだけど……。


「これ、偽物じゃあないんだね?」


「あ、はい」


 神様から貰ったやつだから偽物ってことはないと思うんだけど……。


「こ、これ、ちょっとオーバーすぎるよ」


「えっと、オーバーって……?」


「これがなんなのか知らないのかい!? これ、一枚で千万レイベルだよ!」


「……え?」


 いや、これはお金の単位とか関係なくやばいってわかるんだけどさ。


 半端じゃないよね!? 神様ちょっとオーバーすぎるよね!?


「あんた、そうとう金持ちなんだね……でもあいにく、これのおつりを払えるほどのお金は無いよ」


「ああ、えっと……おつりは大丈夫です、こんなにありますし」


 と、包みの中を見せる。


「うっわあ……あんた本当に金持ちだねえ……いや、金持ちとか言うレベルじゃあないよ」


「あはは……」


 と、自分でもやばいと思うほどのお金をおつりなしで払ったところで。


「あの、お聞きしたいことがあるんですが」


 と、ミーアさん。


「なんでしょうかお嬢様」


「お、お嬢様はやめてください! いえ、その……」


 押し黙るミーアさん。


「いや……ここで聞かないと、もしかしたら村が……」


 ぼそぼそと何かを言っているミーアさんに違和感を覚えながらしばらく待っていると、意を決したように、


「あの、レイジスト領の領主様でしょうか!?」


 そんなことを聞いてきた。


「……そう、なのかい?」


 おかみさんの目が、鋭く俺を突き刺す。


 な、なんだ? 意味が分かんないんだけど!?


「いや、領主とかじゃないですし、そもそもレイジスト領って……?」


「いえ、人違いならいいんです……」


 どこかほっとしたような表情を浮かべるミーアさん。


「ああ、ごめんね。人違いならいいんだ。さあ部屋はあっちだよ」


 鍵を渡されて、そのままミーアさんに押されるようにして部屋に向かう俺。


「え? え!?」


「いいんですいいんです、気にしないでください!」


「あ、うん……」


 そんなこんなで部屋に着いたわけだけど。


「ご飯の時間になったらお呼びしますので、部屋でゆっくりとくつろいでください。あ、お外に出ててもいいですけど夜には帰って来ててくださいね」


「あ、はい……」


 遊びに行く子供に親がかける言葉のテンプレをぶつけられて困惑している俺を置いて、「それでは~」と部屋から出ていくミーアさん。


「いや……え? どゆこと?」


 残された俺は一人、何をすればいいのか分からず棒立ちしながらも。


 あのときにおかみさんが見せた、冷たく鋭い目つきが頭から離れなかった。

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