相談を受けることになりました。
「君、相当強いじゃない?」
机上のペンを俺に渡しながらそう言うギルド長。
「ステータスからもう化け物だけどさ、さっきの戦いで確信したんだ。君はここにいるだれよりも強いって、ね」
ギルド長の言うことに、否定はできない。俺は聖騎士が二人がかりでも倒せなかった火竜を一人で倒したわけだから。
そして、この依頼を断るつもりもない。俺自身できるだけここに居る村の人たちを守りたいと思っているし。ただ……
「あの、なんでそういうことになったんですか? 正式な依頼って……要するに、お金が発生するってことですよね?」
字面から想像すると、だけど。
「まあそういうことだね」
「あの、俺としては別にそういうのはいらないんですけど……」
「どうして? 君としてもお金が貰えた方が嬉しいでしょ?」
「いや……」
お金に関しては、ありすぎて必要ないってのが本音なんだけど……そんなこと言えないよね。リリアさんの時みたいに変に疑われたくないし。
「まさか『俺は村の人たちの安全のためならお金なんて必要ありません!』なんて言うんじゃないよね?」
「あ、えっと……」
と、どういったものかと俺が口ごもっていると。
「……まさか本当にそうだったとか?」
「え?」
「いやあまいったなあ……君がそこまで聖人だったとは」
「いや、えっと」
「うーん、世の中本当にこういう人が居るんだねえ」
なんか勘違いされたんですけど。俺別に何も言ってないんですがそれは……。
いやある意味そうなのかも……? まあいいや、とにかく今はそう言うことにしておこう。
「ま、まあそういうことです……」
「こっちとしては村の外からふらーっと来た君に頼み込むのはどうかと思ってねえ。一応依頼ってことにしようかなって思ってたわけなんだけど」
「いえ、そういうのは気にしないでください」
「君がそういうならありがたくお願いするよ。よろしくね」
と、ギルド長が俺が持っている紙を指さして。
「それ、契約用紙って言ってね。正式に契約するときに使うものなんだけど、もういらないよね」
自分に契約用紙とペンを渡せ、と手をクイクイさせるギルド長。返さない理由もないので、素直に手渡す。
「ん、ありがと。じゃあ、とりあえず今回の話は終了だね。依頼を受けるどころか無償で引き受けてくれてありがとう」
「いえ、そんな」
「それじゃ、私は一仕事しないとねえ……」
そう言って立ち上がるギルド長。一仕事ってなんだ……?
と、疑問が顔に出ていたのか、
「今回のことと、これからのことを村の人たちに離さないとね。みんな混乱してるだろうから」
そう説明してくれた。なるほど……いや、よくよく考えたらそれしかないよね……。
なんか俺アホになったか? と疑いながら二人でテントから出る。
と、出た瞬間村の人たちの声に包まれる。
「さっきのってどういうことなんですか!?」「あの人だれなんだよ!?」と、どうやらかなり荒れているっぽい。
「あ、いやえっと」
「まあまあ落ち着いて、ちゃんと説明するから」
俺がテンパっている中、ギルド長が村の人たちを落ち着かせる。さすがですギルド長さん……。
「とりあえず広いところに行こうか。こんなテントが立ち並ぶ中じゃ狭いしね」
ぞろぞろと、ギルド長を先頭に広いところ……なんか語呂が悪いから広場って呼ぼう、広場に向かって行く。
そんな中、俺もついて行こうとすると。
袖をクイクイと引っ張られる。
「ん?」
振り向くと、ミーアが。
「あの、少しいいでしょうか……?」
「あ、うん別にいいけど……」
何か用事があるらしく、俺を呼び止めたらしい。
俺なんかしたっけ、と思いながらミーアに付いて行く。
着いたのは臨時宿屋銀のテント。ミーアに続いて中に入る。
「えっと……あの、相談があって」
まじかよ、相談かよ。俺いい答えをだせる自信がないんだけどな……。
「うん」
「その……この村って、私以外子どもがいないんです。私と一番年が近いのが進さんなぐらいで」
……あ、そういえば。ミーア以外の年下の子、見たことがないな。こんな状況、日本はあんまり、というかほとんどないんだけどな。異世界は当たり前なのかな。
「みなさん大人で、私だけ子どもなんです。なので、その……ちょっと、疎外感と言いますか」
「ああ、なるほど……」
「ど、どうしたら大人になれるでしょうか……?」
おっとかなり難しい質問がきたぞ。ええ、どうしたら大人になれるかって聞かれても……。
「……やっぱりわからないでしょうか」
「いや、分かる分かる。ちょっと待ってね……」
割と人生で何番目かになるほど悩んだ末俺が出した結論は。
「経験を積む……とか?」
「な、なるほど」
「ほら、大人と子供で何が違うかって言ったら、もちろん年の差とか身長の差とかもあるけど知識の量が大きく違うでしょ? だから経験を積んで知識を豊富にすれば、大人にも負けず劣らずになるんじゃないかな」
ミーアが「なるほど、さすが進さんです……!」と感嘆している。どうやら俺の答えは間違ってなかったっぽいな、良かった。
「やはり進さんに聞いて正解でした! さすが戦闘力が半端じゃないだけあります!」
「それは関係ないと思うんだけど」
俺のツッコミは耳に入ってい無いようで「経験を積まないと!」とさっそくやる気になっている。
喜んでいるミーアを見て、さっきギルド長から頼まれたことをしっかりとこなそうと、気持ちがより強固になる。
一歩間違えば死ぬかもしれない状況にいたんだ。そんな経験一度でいい。
絶対に、村の人たちを……ミーアを守りぬく。そう俺は、固く誓って
「それと、もう一つあって」
俺がかっこよく決めようとしたところを邪魔される。
「ん?」
「あの……火竜から守ってくれて、ありがとうございました」
「ちょ、別に頭下げなくていいから!」
小さい割にしっかりしているミーアは、このことに責任を感じていたようで。
「怪我をしてまで私を助けてくれて、本当にありがとうございました」
「いやいや、俺はただ当たり前のことをしただけだから。ほら、頭上げて」
俺に言われて頭をあげるミーア。と、目から涙が零れ落ちる。
「す、すみません……」
急に泣き出してしまうミーア。いや、そりゃそうだよな。あんな状況で、しかもこの年で。トラウマにならないほうが不自然だよな。思い出して泣くのは当たり前っちゃ当たり前だよな。
とか冷静に考えるものの、目の前で泣きじゃくっているミーアにどうすることもできずにいる事実。すいません、こういうときどうすればいいんですかね……?
うまい人なら言葉巧みに落ち着かせられるんだろうけど、俺は口下手と言うかなんというかなので……。
今回二度目の熟考の末俺が出した結論は。
「……」
子どもをあやすようにとりあえず頭を撫でてみる。いや俺何やってんの!?
「えっとさ。その年だし、怖い目に合って泣いちゃうのは仕方ないと思うよ。それにその様子だと、しばらく泣くの我慢してたんじゃない?」
体を震わせながら泣いているミーアに、なお頭をなでながら声を掛ける。
「俺の前ぐらい我慢しないで、楽になってもいいよ」
「…………っ……!」
俺の言葉に安心したように、声を上げて泣き始めるミーア。
良かった、俺の答えは正解だったみたいだ。となんともデジャヴのようなことを考える。
まあこのセリフ自体過去の俺が言ってほしかった言葉だからなあ。絶対に大丈夫だとは思っていたけども。
自分で言ってて悲しくなってきたので思考を切り上げて、ミーアをなでることに集中する。といってもただ撫でるだけなんだけど。
そのまましばらくして、俺もちょっと手が付かれてきたぐらいの頃に。
「んん……」
と、俺に寄りかかってくる。びっくりして受け止めると、どうやら泣き疲れて寝てしまったようで。
シーツをかぶせて寝かせる。よくよく考えると、布団みたいだなこれ。
ミーアの寝顔を見て、この子は俺みたいにならないでほしいなと思う。それと同時に、さっき決意したことがさらに強固な思いになる。
村の人たちは、ミーアは絶対に守り抜く、と。
俺は、心に誓った。




