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アナザー・グリーン・ワールド  作者: ENO
第1部 誘拐
6/87

5 Nate - Captured


 突然に響き渡った腹の底が震えるような銃声と、鼓膜が破れてしまうほどの子どもたちの悲鳴。

 それらがきこえた瞬間に、ネイトは気が動転し、もはやなにも考えることができなくなった。本能的に、身を伏せて、周囲を見渡した。

 目に飛び込んできたのは、ネイトと同じく気が動転して、銃を構えたままその場に突っ立っていた仲間のセイジの小さな頭に散弾が直撃し、血しぶきとともにその頭が破裂した光景だった。

 あまりのおぞましさに身が竦んだ。声は枯渇したように、なにも言葉が出ない、出せない。

 薄暗闇による、視界の悪さ。悲鳴と銃声と死の情景が、混乱に拍車をかける。

 仲間の悲鳴がきこえる。助けてくれ、と仲間は叫んでいる。その仲間は手を撃ち抜かれ、大量に出血し、汚れた床でのたうち回っている。

 ネイトの体は、動かなかった。動かすことができなかった。

 旧水道処理施設の六階。もとは事務所として利用されていただろう二つの大部屋からなるフロア。片方の部屋にはこれまで盗んだ物資を置き、片方の部屋は自分たちの塒にしていた。

 薄暗い部屋を敵のフラッシュライトが照らす。三つの光の筋。スリーマンセルで敵は行動している。

 ネイトが敵の光に当たりそうになったとき、レナがネイトの体を無理やり物陰に引き込んでくれた。

建物の柱や廃棄されたオフィス用机を利用して、レナとネイトは敵のライトから逃れた。

 遮蔽物の陰で、ネイトは仲間に声をかけようとした。

 その瞬間、銃声が再び鳴り響く。

 五人の仲間が、敵に向かって発砲するのが見えた。ネイトたちとは、敵を挟んで反対側の位置だ。

「やめろ」

 ネイトは叫ぶが、声はけたたましい銃撃の音にかき消される。

 乱れ飛ぶ弾丸が床や天井を突き抜けていく。生々しく、恐ろしい貫通音が耳に届く。仲間たちの必死の形相が目に焼きつく。仲間たちは容赦なく銃弾に撃ち抜かれ、一人、また一人と倒れていく。レナの妹のレオナでさえ、喉を撃たれて倒れた。

 仲間が殺されていくたび、激しい怒りがネイトを突き動かした。無意識にレナから銃を奪い、それを強く握っていた。

 レナを置いてネイトは物陰から飛び出した。まだ銃撃戦は続いている。敵の背後を取ろうとした。

 敵の姿を捉えた。三人組の兵士。彼らはいまだネイトに気づいていなかった。

 銃の照準をあわせた。あとは引き金を引けばいい。放たれる銃弾は敵を射抜き、死へ導くだろう。

 仲間を救え。これ以上、仲間を死なせるな。この身に疼く怒りに身を任せろ。

 しかし、それでも手が震えた。狙いが定まらない。

 唾を飲み込んだ。もう一度、照準をあわせようとした。

「とんだ腰抜けだな」

 女の声がした。

 振り返ろうとした。その瞬間、頭部に衝撃が走った。銃把で、殴りつけられたのだ。床に倒れ込む。手にした銃を蹴飛ばされ、腹部や頭部に何度も蹴られた。

 片目だけ開けて、女を見る。赤毛の女で、猫のような目。銃を撃てない間抜けを嘲るような顔で、ネイトを見くだしている。

 女は開けた目に蹴りを入れたあとで、ネイトに唾を吐きかけた。

 そのときにはネイトは意識を失っていた。


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