56 CONFIDENTIAL - Carry That Weight
その超高層建築からは、雨に濡れる第三地区が見渡せた。
人の立ち入らない、改装中のフロア。密会にはこの上なくうってつけの場所。
「連絡が遅い。なぜすぐに連絡を寄越さなかった?」
沈黙。煙草を燻らせる。漂う紫煙に敵愾心が溶け込んでいる。
「刻一刻を争う状況なんだぞ。わかっているのか?」
「うるさい。いわれなくてもわかっている」
説教はいいとばかりの、ぶっきらぼうな返事。
「どうするつもりなんだ?」
「全力で動いてもらうさ、あんたらには。さっさと情報を解析して、こっちに寄越すことだ」
「手がかりは掴めている」
「なら、さっさとしろ。刻一刻を争うんだろう?」
憎たらしい顔。互いに苛立ちを募らせる。
「くそっ。こちらの依頼も忘れてないだろうな?」
「わかっている。情報を流しておく。上手くいけば、あの男を消せるかもしれない」
「それが目的でもある」
「こっちの依頼も忘れるな。最終的には、派手な騒ぎになるぞ」
「すぐにも手配しておこう。こちらといつでも連絡が取れるようにしておけ。すぐに駆けつける。ただし…」
「それもわかっている。第三者には漏れないようする」
「ならいい」
「ところで疲れているようだな?」
不意の発言。憎たらしい顔。憎たらしい笑み。
「お前に心配されるいわれはない」
「せいぜい苦しむといい」
人間性を疑わざるを得ない、残酷な笑い。
「もう十分に苦しんでいるさ」
「いや、まだ足りない。あんたは地獄を見たことはあっても、地獄を歩いたことはない。いつだって手を汚さずにきた」
「私を自分の手は汚さない卑怯者だと罵りたいのか?」
「いいや、あんたはもっと苦しむべきだといっている」
「いつになったら楽になれるのか」
「一度地獄に落ちてしまえば、終わりなど存在しない。無間地獄とはよくいったものだな」
「お前も私も、終わりなく苦しむわけか」
「そういうことだ。あんたは自分の業にふさわしいだけの苦しみを味わうべきだ。多くの人間を地獄に引きずり込んできただろう?」
「そうだったな」
「だからあんたはもっと苦しむべきなんだ」
「苦しみの果てに死んでしまったらどうする?」
「あんたの業は深い。簡単に死ぬことも許されないだろう」
「ふん、預言者にでもなったつもりか?」
「いいや、そういうわけでもない。ただ感じるのさ」
「たまにこう思うときがある。人生でもっとも輝いていた瞬間で死ねたならば、どれほど幸せだったろうかと」
「あんたの過去になぞ興味はない」
「素晴らしい仲間、素晴らしい友に囲まれていた時間があった。いまではその多くが死んでいった。私は取り残されたような気持ちになる」
「いっただろう? それがあんたの業なのさ。その苦しみを抱えたまま、この先ずっと過ごしていくのさ」




