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アナザー・グリーン・ワールド  作者: ENO
第1部 誘拐
22/87

21 Kuroki - Premonition

 スギヤマの情報がクロキのもとに入ってきた。

 それはクロキの予想通りであり、諜報員と決めた予定通りであった。諜報員がある小物に仕込んだデータを解析する。データの中身は、書類と図面だった。

 内務省の会議室に、慌ててフクシマ、フジイ、ハギノが駆け込んでくる。

 クロキは解析したデータの説明を彼らに対して行った。

 スギヤマの襲撃に必要なありとあらゆる情報がそろっていた。スギヤマのその日の行動予定、警備の状況、さらにはどの時間帯が襲撃に適しているかを、諜報員は詳細に分析して情報を送ってきていた。

「この情報を基にすれば、すぐにでも行動できるか?」

 クロキはまるで睨みつけるように、フジイ大佐を見た。

「はい、これだけの情報があれば、襲撃は可能です」

 直立姿勢のまま、フジイは答えた。

「送られてきた情報に基づくと、明日十六時からスギヤマは第十三地区最前線、第六街区から第十街区を視察する予定となっております。装甲車両にて各街区を巡回する模様です。ここです。ここが奴を襲撃する好機です」

 ハギノは提示された情報を読み込みながら、興奮気味にいった。

「どういう作戦でいきますか?」

 フクシマはフジイ大佐を見る。

「ヘリを使った上空からの攻撃が有効でしょう。それで車両ごとスギヤマを吹き飛ばしてしまえばいい」

 フジイはいった。

 するとクロキが、待て、と声をかける。

「諜報員がスギヤマに帯同している可能性がある。ミサイルによる爆撃だと諜報員にも危害が及ぶ」

「その時間だけ、場を離れることはできんのですか?」

 フクシマはいう。

「それができれば苦労はしない」

「ならば、こうはどうでしょう。ヘリから機関砲による攻撃で車両を足止めし、その間に部隊を降下させ、地上で奴を仕留める」

 フジイが提案する。

「わかった。その線でいこう」

「襲撃に気づいた付近の敵部隊が駆けつけ、目標を取り逃がす恐れはありませんか? 襲撃場所は最前線だ。多くの部隊が展開しているはずだ」

 フクシマは懸念を示した。

「作戦の時間を区切って対応するしかない。敵が駆けつける前に、スギヤマを消すしかない」

 クロキはいった。

「襲撃を行う地点をより絞り込みましょう。部下にもその地点の地形などを読み込ませ、速やかな展開ができるようにします」

 フジイはそのようにいって、クロキの言を補足した。

「そこからの詳細はフジイ大佐たちに任せよう。敵も急襲には動揺するはずだ。こちらの動きに対応し切れんだろう」

 クロキがそういうと、フクシマはまだ懸念が捨て切れない様子ではあったが、最終的に了承した。

「わかりました。とにかく好機は好機です。やってみるしかない」

 フクシマも了承したことで、フジイとハギノは作戦の詳細を練るため、討議を始めた。二人は会議室に地図を広げ、それと睨みあう。

 クロキとフクシマは一度席を外した。誰もいない休憩室に入り、電気をつける。

「令嬢のほうはどうします?」

 フクシマはそう切り出した。

「令嬢の襲撃も、予定では明日の十八時だ。スギヤマも同時刻になにかを企んではいませんかね? それこそ我々のような極秘裏の行動を」

「君の懸念もわかる。だが、監視を続けている軍からも、私の諜報員からも、明日明後日でスギヤマが部隊を動かすという情報はきていない。そういった動向も読み取れない」

「敵部隊の前線への集結はどう説明がつきます? あれは令嬢の襲撃と関連がないということですか?」

「それらは連動していない、そういう可能性もあるだろう」

「私には嫌な予感がします」

「嫌な予感は常に私もしている。だが、ともかくも我々はスギヤマの暗殺に集中すべきだ。令嬢も守り抜く」

「令嬢襲撃に関して、内通者の特定はどうなりました?」

 フクシマが鋭く尋ねると、クロキはため息をついた。

「まだ特定には至っていない。味方にさえ姿を晒す気はないらしい」

「もう時間がありません。襲撃計画を公にして、警備を増強し、万全の体制を敷かねばなりません」

 フクシマはクロキに詰め寄った。

 クロキは少し苛立ったように答える。

「それはわかっている。明日の朝、警備増強を発表する。監察には、監視対象の人間から絶対に目を離すなと伝えておけ」

「わかりました。こちら側の諜報員の安全は、大丈夫なのでしょうか?」

「それだから明日、襲撃当日の朝に発表するのだ。どこから情報が漏れたのか、敵に考える暇を与えない。そこで慌てて不審な動きを見せた者が、我々の内部に潜むもぐらだ」

「内務省内のもぐら…」

「敵はスパイ網を形成しているはずだ。個人どころか、もしかすると軍関係者なども含めた寄りあい所帯かもしれん」

「考えたくもない話だ」

「残念ながら、そういう話は遥か昔から腐るほど存在する」

 クロキはいった。洋の東西を問わず、組織内部の裏切り者の歴史は古くから存在する。諜報を生業にしている以上、裏切り者の存在を考えたくないなどとはいっていられない。

「そろそろフジイたちのところへ戻ろう」

 クロキはそういってフクシマを促した。

 スギヤマ襲撃の案を、より煮詰めなければならない。会議室に向かっていると、フクシマの部下たちやフジイの部下たちも続々と会議室に入っていくのが見えた。

 その光景を見て、クロキはわずかながらも寒気を感じた。事態が緊迫している。それに体が反応しているのだ。

 フクシマの表情もどんどん険しくなっていくのがわかる。

 クロキは昂りつつある心を抑えようと、ゆっくりと息を吐いた。



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