08_黒竜歴_520年6月11日
朝、村の広場でゼファー先生と話をしていたら村の外から随分と強い魔力を感じた。
しかもそれは1つじゃなく3つ。
魔力の波長から魔族や魔物ではなく、人族・・・おそらく人間かエルフあたりだろう
先生も魔力を感じ取ったらしく、僕と同じ方をみている」
「おや・・珍しいですね・・・強い魔力持ちの・・・人かな?」
「・・・誰か有名な人でも来るのかな?何しに来るんだろう?」
僕は首を傾げつつ、村の外に意識を向ける。
この何もない辺境の村に遊びに来るような人はさほどいない
極まれに旅の商人が来たり、医者の先生が呼び寄せた薬剤師って人が来たり
後は手紙を届けてくれる人とか
そういう人が来るくらいだ
しかも、そこそこに魔力が強いのにそれを隠そうともしないなんて
よっぽどの自信家なのか、それとも馬鹿なのか・・・
「んー・・・村長のじいちゃんに話に行くかな・・・」
「いえ、私が行ってきましょう・・・シウゴ君は他のみんなに声をかけて、広場に集まってもらっておいてください」
「広場に?どうして??」
「悪い人間だったら・・・危ないですからね」
子供をさらいに来たのかもしれませんよ、と言いながら先生は村長のじいちゃんの家のほうへと駆け出して行った
・・・このくらいの魔力なら、僕が攫われたりしないとは思うけど
警戒はしておいたほうがいいよね
「えーっと・・・パセラばあちゃんだと危ないし、父さんも森だしな・・・母さんは・・・あ、今日は魔界に行ってるんだっけか・・・・・・畑のほうに行ってみようかな」
近づいてくる人たちに気が付かれないように魔力を足に込めて、畑のほうへと駆け出して行った
今日はたぶんみんな畑仕事してるもんね・・・
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村の手前、旅の冒険家と思われる四人の若者たちが話をしている
足は村を向いており、どうやら村が目的地のようだ
足取りもけして重くはなく、何らかの思惑があるようだ
「随分と田舎のほうまできたが・・・話の通り村があったな、勇者」
「そうだね・・・これだけ田舎だからこそ目立たなかったのかもしれないよ?戦士」
「さすがに三日間歩き通しは疲れたわ…お風呂くらいあるかしら??」
「お風呂、入りたいですわね・・・魔術師」
「そうも言っていられないかもしれんぞ?僧侶。僕たちの目的は?」
勇者は僧侶のほうに顔を向ける。
顔を向けられた僧侶もため息を一つすると、口を開く
「ここ最近頻発する、謎の魔力感知の大本を探る」
「しかも、特大の・・・ね」
横から魔術師が口を挟む
それに合わせるかのように、戦士も口を出してくる
「俺は魔力感知ってのがわからんからなんも言えないけどよ、お前らほどじゃないんだろ?」
「いいえ、私たちどころじゃないわ」
戦士の質問に、僧侶が回答する
「前に王国を襲ってきた魔王ソルトに匹敵・・・いえ、それ以上の魔力が何度か感知されたって話よ」
「うげ・・・あれ以上か・・・感知ミスとかじゃないのか??」
回答を聞き、顔をゆがめる戦士
「王国にある隠ぺい魔力も検知できる最新の魔力感知装置が拾った結果だからな・・・恐らくは間違いはないだろうね」
「ってことで、気を引き締めなさいよ?戦士」
「へいへい・・・わかってますよ、姫さん」
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「はぁ・・・勇者様、ですか」
僕がみんなに声をかけて、一度広場に集まった後
先生が村長のじいちゃんに頼まれて
勇者さんたちを村長さんの家にお招きすることとなった
畑仕事を今日は打ち切り、村のみんなはそれぞれ家へ戻る
僕は、いそいそと勇者さんたちの案内をする体で村長さんの家についていき
そのまま一緒に上がり込んだ
「ようこそ、このような田舎村へ・・・勇者様のお噂はかねがね」
「いえいえ、そんな・・・僕たちはまだ若輩者でして」
「そんなご謙遜を・・・ささ、小汚いところですが腰かけてくだされ」
そんな勇者さんたちと村長がやりとりをする
村長さんちの女給さんがお茶を出し、みんなが一息をつく中
訪れた4人の若い旅人たちに質問をする。
「で、このような田舎村に勇者様がどのような御用で??」
「はい、こちらに村の裏にある森と山の調査にまいりまして・・・」
「これが国王からの調査依頼の令状よ」
勇者の後ろにいた魔法使いさんっぽいのがとりだしたのは王国の印が印されている書状
正真正銘の王国印・・・国王勅命だ
そんなもの出されたら、この村の村長さんだったら
「ははぁ・・・!」
頭を深く下げて、座ったままの最敬礼
そりゃ、こうなるよね
「そ、そんなに畏まられても困るのだけれど・・・」
「まぁ、王様の勅令なんてめったに見ないからしょうがないといえばしょうがないよね」
そう話していると、僕の横にいた先生がじっと彼らの顔を見ていることに気が付いた
あれ?ちょっと怖い顔している・・・どうしたんだろう?
「ふむ・・・」
書状を見て、首をかしげる先生
何か気になったのかな??
「どうしたの?先生・・・」
「いえ・・・ちょっと気になることが・・・って、いたんですね?シウゴ君」
「うん・・・気になることってのは?」
「森と山の調査と言ってましたが、何を調査するのか・・・少なくとも魔獣の類がいることは今更ですし」
「ああ、そうか。先生も父さんから話聞いているんだっけ?」
森や山は魔獣、魔物が住んでいることもあり、
秋の収穫に向けて
春、夏に父さんを中心に村の腕っぷしが魔獣、魔物を狩ることがある
(最も、よほど強いのは人知れず父さんが片付けているけど)
去年は大型のトラの魔獣が出たこともあり、結構騒ぎにはなったけど
父さんが狩って、王都まで売りに行ったこともある。
だから、そういう意味でもこの森と山で
わざわざ腕っぷしの強い勇者さんたちが【調査】することに若干の違和感がある
という先生の意見もわかる
「・・・!ねぇねぇ!勇者様!」
「ん?なんだい?・・・えっと・・・何君かな?」
「あ、ゴメンナサイ。シウゴっていいます」
「シウゴ君ね・・・何かな?」
「調査って言ってたけど、何の調査??」
「ああ・・・えーっと・・・」
こういう時はストレートに聞いてみるのが一番だよね!
きっと勇者さんたちが来たってことは
かなり重要で危険なことの調査なんだと思う・・・
「魔獣の調査よ」
後ろにいた魔法使いさんが口を挟む
「魔獣・・・ですか?」
キョトンとした顔で長老のじいちゃんがさらに口を挟む
「ええ。何か気になることでも?」
「いえ・・・魔獣なら森にも山にもわんさかいますしな・・・今更調査といわれてもとんと・・・」
「この前はトラの魔獣がでたんだよ?僕の父さんが退治したんだ」
「トラ?!災害レベルCじゃないか!・・・坊主の父ちゃんつええんだな??」
戦士さんが声を張り上げる
トラは災害レベルではC。兵隊が最低でも三部隊は必要で
無傷で勝つならば魔法兵団などの遠距離攻撃も必要とする
王国の騎士団でも副団長クラスでようやく一人で戦えるレベルといわれている
「うん!自慢の父さんなんだ!」
「ねぇねぇ・・・シウゴ君? お父さんは魔法は使えるかしら?」
勇者さんの隣にいた僧侶さんが話しかけてきた
顔を僧侶さんのほうに向けて、僕はにかっとしつつ、胸を張る
「剣の方が得意って言ってたけど、魔法も使えるよ?」
・・・本当のことはもちろん言わない
だって、【人族】にとっちゃ
魔族がこの村にいるだなんて知っただけでも大変なことなのに
まかり間違っても戦争の火種になっちゃう
「ねぇ、勇者・・・もしかして?」
「うーん・・・かもしれないなぁ・・・」
勇者さんと魔法使いさんが顔を向かわせて、難しい顔をしている
置いてきぼりを食らっている村長のじいちゃん
じいちゃんの反応を待たずに、先生が追い打ちをかける
「どうかされました??」
「いえ・・・災害クラスCの魔獣がいるならなおさら、少し調査させてくださいませんでしょうか?」
「何日か滞在したいのですが・・・休めるところとかはありますかしら?」
「部屋という意味でしたらワシの家でいかがでしょう?お食事などは多少お金をいただければご提供できますが・・・」
「おう、ありがたいこって!」
「ええ、お願いできますか?村長さん」
「お任せください。お疲れでしょうからお荷物をお部屋においてからまたお話の続きでも。ヤナ。ご案内を」
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「ってことがあってね?」
「それで村長さんとこからうちに話を聞かせてくれって来たのか」
夕食、父さんと母さんに昼間あった話をする。
母さんには軽く話したものの、父さんは今日は森で魔物狩りをしていたから話せなかった。
母さんに話をした時にはちょっと顔が強張ってたけど
「僕が見た限りだと、母さんが出なくても大丈夫な魔獣しかいないよ」と言っておいた
母さんは「シウゴ。あなたも当分魔法を使うのはやめておきなさい。魔力を隠ぺいしててもわかる時はわかる物よ」となぜか叱られた。
僕は魔力隠ぺいした上で、魔力放出はできる限り避けているからバレないと思うけどなぁ・・・
「んー・・・勇者か・・・面倒くさいな」
苦虫を潰した顔で、父さんがぼやく
・・・魔族としては煮え湯飲まされているからわかるけどね
魔界側としても
別に侵略する気も争う気もないからほっといて欲しい
ってのがおおよその総意だったりするし。
「まぁ、明日にしましょ・・・あなたがお話に行くのでしょ??」
「ああ、森や山にも同行するさ。素人判断で荒らされちゃあ困るからな」
「僕もついていってもいい?もう8歳だよ!魔法だって頑張って覚えたのに!!」
「ダメだ。まだ8歳なんだからな。それにまだ魔力を隠すのができてないって母さんから聞いてるぞ?」
「うっ・・・それはそれで・・・明日は魔法使わないから・・・」
「ほーら、お父さんを困らせないの!・・・9歳になるまではダメって約束でしょ?」
「9歳になったらちゃんと連れてってやるから・・・もう少し練習を頑張るんだな」
ガシガシと頭を撫でる父さん
練習・・・それは魔力を抑える練習
魔力隠ぺいだけじゃなく、総量を隠す技術
父さんにも母さんにもそれぞれ言われている
だいぶ慣れたと思うんだけどなぁ・・・
練習してる場所が母さんにたまにバレちゃうのは確かなんだよね・・・
「うう・・・わかった・・・」
「明日はゼファー先生も一緒に行くって話だろ?アリアちゃんとしっかり自習してるんだ。いいな?」
「そうそう、二人して後を追いかけるとかしちゃだめですからね?」
父さんにも母さんにも念を押されて、僕はぐうの音も出なくなってた
「はーい・・・」
そうか。アリアも一人か
・・・アリアが行きたがるのを止めるのは僕のお役目ってことか
勇者さんたちにバレないようにするより大変そうだ。