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僕の家には秘密がある  作者: 玖龍 眞琴
6/10

05_黒竜歴521年1月1日

「あけまして、おめでとーございます!」


「はい、あけましておめでとう」


「ふふ、あけましておめでとう。今年も元気ね。シウゴちゃん」


今日はお正月

お母さんの実家に、年末年始での初のお泊り

おじいちゃんとおばあちゃんに新年のご挨拶をする。


「さぁ…きょうはお正月だからね。御節食べましょう」


「お雑煮もあるぞ?」


この地方では年明け前に『御節』を用意して

『お雑煮』を食べるという風習がある。

実際は魔界の風習なんだけど、それが最近になって人間界にも

『正月くらい楽したい』というお母さんたちの言葉から風習が広まったらしい

もっぱら広めたのはどこかの有名な商人さんだとのこと。

魔界に行き来する人なんて勇者様か変な商人さんしかいないから当たり前だよね。


「あら、シウゴ起きたのね。おはよう。あけましておめでとう」


「あ、おかーさん。あけましておめでとうございます」


母が大きな皿をいくつもテーブルに置いている

皿の上には色々な料理が所狭しと並んでいる

共通して日持ちする料理で、一口サイズにされている


「おっ、おいしそうだな…お雑煮も…これはジェシーが作ったのか?」


後ろからお父さんが顔をのぞかせて、お雑煮の中身をみる

お雑煮は里芋と小松菜をスープで煮詰めて

そこにお餅を入れる

このお餅に味がしみ込んでいて、おいしい

去年もおととしも、いっぱい食べておなかが苦しくなったのを思い出す。


「これはお母さんが作ったのよ。張り切っちゃって『座ってなさい』って怒られちゃった」


「義母さんがか。こりゃあすごい…おいしそうですね」


「ふふ、褒められたってお餅しか出ないわよ?」


「うちのかみさんの料理は人が食っても満足できる味だぞ?心して食えよ?」


「それは楽しみですね!…ささ、うちの子も我慢できなさそうにしてますし、食べましょう!」


「おぞうに!おぞうに!!」


お父さんも椅子に座って、目の前のお酒の瓶を開け、おじいちゃんとおばあちゃんとお母さんのグラスに注ぐ。

僕も朝からジュースをグラスに注ぐ。

一瞬びくっとしたおばあちゃんとお母さんだけど、何事もないかのように席に着いた。

僕の頭を撫でながら、お父さんが話し続ける。


「お年玉は後であげような」


「無駄遣いはしちゃだめだからね?シウゴ」


「それじゃあ、みんな。いただきます」


「「「「いただきます!」」」」


-------------------------------------------------------------------------------------------


「…お父さん。何が言いたいかわかるかしら?」


息子と夫が寝静まった後、テーブルに座る私、母、そして父

静かに、淡々と、怒鳴りそうだけど……抑えて抑えて


「私も焦りましたわ…貴方、なかなかの失言でしたわよ?」


「いや、面目ない…が、まぁばれなかったのだからよいではないか」


「良いわけないでしょう。もう少し反省してくれるかしら?シウゴ連れてこれないわよ?これじゃあ」


拒絶の言葉を聞き、顔色を暗くしながら、ジェットは顔を上げる


「待て待て!シウゴにはもう教えているんだろう!?それなら大丈夫じゃないか」


「馬鹿を言わないで。嫁が実家に帰るときに夫無しなんてありえないわよ!別れるんじゃあるまいし!」


ダン!とテーブルを叩きながら顔を上げた父に説教をする

日中に話していた会話の中で幾度となく口を滑らせ

『人間は』『人は』『人』『ヒト』と繰り返す。

…よくもまぁ、夫も何も言わないわね

違和感くらいは感じてたのかしら…


「いい、私は『人間の娘』でお父さんは『人間』なんだからね!いい加減に慣れてよ…もう8年になるのよ?お母さんを見習って」


「ぐぬぬぬ…どうして俺がこんな目に合わなければならないのだ…それもこれもお前が『人間』なんぞに嫁に行くから」


「それはもういいっこなしでしょ?あなた…往生際が悪いわよ?炎の魔王ともあろうものが」


母にピシャリといわれてしまい、ぐうの音も出せなくなる父

夫婦の力関係が微妙に変わったのはシウゴが生まれたあたりからだった気がする

『人間』の生活に慣れ、今や人間界にいるほうが多い母

なんだかんだ魔界の仕事が多く、いまだに『人間』に慣れない父

シウゴや夫の前では、母はほぼボロを出さない。

それどころが、私よりも人間界のことに詳しい始末だ。

そんなことを考えていると、父がボソボソとつぶやいていた


「なんだ、二人して…この家も準備したのは俺だというのに…」


私は今『人間の娘』である。

当然、両親も『人間』であるから、人間界に住んでいる。

本当の実家はもちろん魔界だが、そんなところにシウゴはまだしも

夫を連れて帰るなんてことはできない。

そこで、私は父と母に『人間界の実家』を作るように話をした。


「何をおっしゃいますやら。最初は魔界の家具や道具を持ち込もうとしていた人が」


「人間が作ったものが脆すぎて危険だからしょうがないだろう!!このテーブルや椅子もいつ壊れるか分かったもんじゃない!」


「そんなもの、魔法で保護かければよいではありませんか。良い年してビビリすぎてどうするんです」


「ビビ…!お前!俺は仮にも炎の魔王だぞ!だれがビビるか」


「はい、そこまで。喧嘩は魔界でやってね。こっちだと異常気象起きちゃう。

炎の魔王とその妻の夫婦喧嘩なんてケルベロスでもしっぽ巻いて逃げるわよ…」


喧嘩を始めそうな両親に、手を差し出しつつ

話を元に戻すため、コホンと咳をして椅子を引きなおす。


「お父さんももう少し自覚して。シウゴが知っているからって油断しちゃダメなのよ?どこからバレルかわからないのに…

それに、魔族だなんてバレたらあの子だってイジメられちゃうわよ…わかった?私たちは平和に過ごしたいの」


「イジメ…?人間ごときにか?あのシウゴが遅れを取るわけないだろう…潜在魔力は俺から見てもバケモノクラスだぞ?すでに」


「そういう問題じゃないの!あの子には普通の『人間』として幸せに生きてほしいんだから!」


母が私と父の会話を聞きながらため息をはく

最近、母のため息をよく聞くようになったのはきっと気のせいだとは思う


「あなたのそういうところがダメなのよ…もう少し柔軟になさいな。まだ573歳でしょ??」


--------------------------------------------------------------------------------------------------------


「で、ベルガリオ…シウゴたちはうちにはいつ来るんだ?」


「今年は来ねぇって言ったろ…」


魔界から超緊急の呼び出しがあって何事かと思ったら、帰省の要求だった。

新年あけて、家族を置いて急いできたってのに…


「えーっ!シウゴちゃん来ないのー?ベルー!」


ソファーに寝そべってごろごろしているダメ姉が大きな声で話に入ってくる

あの赤い顔…すでに酒入ってんな、ありゃ


「こねーよ!酒飲んでベロンベロンに酔ってる姉さんにうちの嫁さん合わせられるか!!

すぐ変身解いちまう癖が治ってからにしろ」


「いーじゃないのー…だいじょうぶよー」


「大丈夫じゃない、確実に卒倒するわ…」


魔族の姿を見る機会がある人間なんてそんなにいない。

しかも、氷の魔王の血筋だ。

確かに禍々しい魔族のイメージからかけ離れた、氷の彫刻のような見た目をしていて

頭のツノと、体中がクリスタルでできているという以外は、比較的人間に近いスタイルだ。

とはいえ、いくら姉が温厚な魔族で、実は今まで人ひとり傷つけたことがないといっても

そんなもの人間が信じられるわけがない。


「シウゴちゃんにあいたいー!頭なでなでしたいー!!お年玉あげたいー!!」


「酒を入れずに、遊びに来ればいいじゃないか。うちの嫁さんも別に追い返したりしないだろう」


「ヤダ。なんもない田舎じゃないの…こっちの都会に来ればいいのに…遊ぶところいっぱいよ?」


魔界に呼べるわけがないだろ…と突っ込もうとしたが

たぶん言ってもわからないだろう。

人間と魔族は相いれない、という感覚は俺以上に姉の方が希薄だ

生きとし生けるもの、みんな同じじゃないの。と子供のころに幾度となく姉が言っていたのを思い出す。


「ベルガリオよ…こちらに呼べ、というのは無理なのはわかっておる。だが『人間界の実家』のほうで準備をしていたのだぞ?」


父は魔力を発しながら、こちらに圧をかけてくる

子供のころはビビって声も出なくなっていたが、さすがにこの年になれば

魔力で対抗するくらいはできる…仮にも親父の子供だからな


「今年は嫁のほうに行く、って話し合ったからな。大体去年一昨年と連続してうちだったじゃねーか」


そう、去年一昨年と続けてこちらの家族と正月を過ごしていた

嫁から『来年はうちにしましょうか…流石に義実家だと肩こっちゃうわよ』と泣きの一言が入ったため

今年は嫁の実家にしたわけだ

こういう時、夫は嫁に従う。これが平和な家族の一歩というわけで…


「情けない…情けないぞ、ベルガリオ…人間の娘に振り回されて…」


「嫁に人間も魔族もないだろ……夫は嫁を立てるもんだ。母さんからは耳にタコができるくらい聞かされてたからな」


そういうと、ぐうの音も出なくなったのか、父は口を閉じる。

…まあ、あんまりイジメるのもやめるか


「安心しろよ。来週くらいには顔出すって…こっちにもな」


そういいながら、ニヤリと笑いつつ、父と姉の顔を見渡す


「だから、うちの息子に。お年玉よろしくな」


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