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僕の家には秘密がある  作者: 玖龍 眞琴
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04_黒竜歴511年12月28日

薄暗い、不穏な雰囲気の広い部屋

大きな六角形のテーブルに、椅子が6つ

その椅子のうち、4つには誰かが座っており

空席の二か所を除き、そこには

その近くにもう1人づつ、立っている


ここは魔界の奥

魔界を統べる6人の魔王が集う集会場

いわば『魔王城』である


「まだ来んのか…六騎魔王会議を行うという通達は出しておるはずじゃが…」


一番扉から遠い位置に座っていた角の生えた老人が話し始める

集合時間が過ぎ、30分ほど立っているが

来るべきはずの2人がまだ来ていない

後ろに控えているものに目くばせをすると、深く頷いている。


席についている、見た目16歳程度の女性だが、角をはやし、緑色の肌をした者が

その言葉に返すかのように、つぶやく


「何やってんだ?炎と氷は…?誰か何か聞いてねーか??」


残る二人に目くばせをするが、どちらも目を合わせようとはしない

ローブをかぶっている者が女性の抑揚のない声で、1人が淡々と返事をする


「私は何も聞いていない…珍しい。彼らが遅刻するなどとは」


テーブルをダン!と殴りつけて、筋肉質のような金属質のような

マッチョな男が声を荒げる

座っていない4人がその行動に体をびくりと震わせる


「我々を舐めているのだ!今日が今年の締めだというのに!」


「やめんか、光の…たかが30分程度じゃ…そう騒ぎ立てるほどでもなかろう」


「ふん!土のジイさんよ。アンタみたいにのんびりのんびりと耄碌してるのは性じゃねーんだよ」


「なんじゃと??…もういっぺん言ってみろ、若造……潰すぞ…」


一瞬で空気が沈み、濃厚な魔力が部屋中に充満する

部屋全体に重圧がかかり、直接宛てられている光の魔王以外の魔王は平然としているが

付き人の4人は立っていることができなくなり、跪く

また、光の魔王も土の魔王の魔力に呑まれて、息を呑みこむ


「誰が耄碌しとると??」


「す、すまない…!気が立っていた…!」


息を吐きだしながら光の魔王はかろうじて謝罪を行う

その瞬間に、部屋中の魔力がふっと軽くなる


「…言葉に気を付けるんじゃな…長生きできんぞ?」


付き人の4人がほっと一息し、立ち上がり直すと同時に音を立てて部屋の扉が開く

4人が扉のほうに目を向けると、青い氷を身に纏った氷の魔王が姿を現した


「すまない、遅くなった…!!」


「遅い。氷の…何をしていた? 遅れるなら連絡くらいするべき…使い魔を飛ばすくらいできる」


ローブの女が、立ち上がることもなく、淡々と質問をする。

声に抑揚がなく、はたから聞くと怒っているようにも聞こえるが

普段の彼女通りの話し方だ

氷の魔王は、当然に知っているため、席に座りつつ返答する


「ああ、すまないな、闇の。孫が生まれてな…年明けに向こうに行くのでね…その準備に追われていたのだよ」


「へぇ、孫かい!!それはめでたいな!!知らなかったぜ!次の次の氷の魔王も安泰ってか?!男かい?女かい?」


緑の肌の女魔王がにこやかに祝いの言葉を言う

土の老人も、驚いた顔をしつつ祝いの言葉をつづけた


「知らなんだ…そのくらいは言っておけ…魔王一同から祝いの品でも出すかの…」


土の老人の反応に、残る3人も乗っかった

特に先ほど重圧を受けた光の魔王が口火を切って反応する。


「お…おっ!いいじゃねーか!!この前俺が作った光の魔石とかどうだ?!結構質のいいのができたぞ?」


「私の闇の羽衣…子供の寝つきにいい…」


「じゃあ、俺は風の魔王らしく…風で動くおもちゃとかどうだ??これから作るから2週間は時間がほしいけどな!」


4人の食いつきに、氷の魔王はなぜか少し慌てた様子で返答する。


「い、いや…!気持ちだけで結構だ!俺の息子が『魔王に頼りたくない』『家族だけで育てたいんだ』って言っててな…そういうのを断られてるんだ」


「そうもいかんじゃろう…なぁに、そんなに天地が狂うようなものを送るわけではないんだからのぅ…」


「いや…魔王の作った物の時点で天地が狂うレベルの代物だ…と、とにかく、気持ちは受け取った。ありがとう」


慌てたまま、深く頭を下げて4人に礼をする。

4人は納得してない顔をしつつも、しぶしぶ理解したように腰を下ろす


「そう…残念…せっかくのお祝いなのに」


「っても、そこまで言われて無理やり渡すのもちょっとどうかとは思うしな…」


「せめて祝いの手紙くらいは出させてもらおうかのう…どの辺に住んでおるんじゃ?」


「おう、顔くらい出すぜ?お前んとこの坊ちゃんにも最近会ってなかったしな」


氷の魔王は、4人がわいわいとし始めると同時に

青い顔をより青くする。


「いやいや…気持ちだけで…本当に大丈夫…なんだ…」


「遠慮するでない…しかし、わしらより先に孫の代ができるとはのぅ」


そうこうしているうちに、再び部屋の扉が音を立てて開く

赤い肌と燃え上がる炎のような髪の毛をした魔王が佇んでいる


「各々方、大変申し訳ない!!遅れに遅れました」


「…おお、炎の。ようやく来たか…待ちくたびれたぞ」


「ぬしも遅刻したではないか、氷の」


後ろから光の魔王にツッコミを受けながらも

ほっと息を撫でながら、氷の魔王が声を出す。

炎の魔王も『氷の魔王の遅刻』を聞き、ふっと溜息を吐きながら席に座る


「なんだ…氷のも遅刻か…人のことは言えないな」


「や、やむにやまれぬ事情ってやつだ…お前こそなんで遅刻したんだ」


「私もやむにやまれぬ事情というやつだ…娘に子供ができたものでな…娘の見舞いの準備をだ」


炎の魔王が答えた途端、他の魔王、付き人の全員が目を見開く

最初に口を開いたのは氷の魔王だった


「何…?お前のところも孫…か?」


「…も?」


「驚け、炎の。氷のところにも孫ができたらしいぞ」


風の魔王の一言に炎の魔王も目を見開く。


「ほ…ほぅ…珍しいこともあるもんだな…知らなかったぞ?どこのご令嬢と婚姻を結んだのか…噂のファバール家か?」


「い、いや…普通の平民だ…俺は息子の好きにさせようと思っていたからな。お前のほうこそどこに嫁がせたんだ?」


「う、うむ…あまり有名ではないが…な。なかなかに見どころのある青年らしいからな…娘の自由にさせてるよ」


「炎の娘さんのお眼鏡にかなったということか…な、なるほどな…」


二人して微妙にしどろもどろな会話にほかの4人は首をかしげる

この二人は若くして六騎魔王に所属した強者であり

いつもの会議然り、お互いの腹の探り合い然り

老獪の土の魔王ですら手玉に取るときもあるほどの者たちだ

それが、今目の前ではお互いに姑息な手段で話を続けているような振る舞いをしている

まるで、自分の腹を探られないようにお互いに気になるところをうまく突っ込まないようにしている

そんな気がしてならなかった。

光の魔王と土の魔王は目くばせをした。念話では盗聴される可能性もあるため

完全にアイコンタクトだけで会話をした


「めでたい話はいいけど、時間もだいぶ過ぎちまってるから、始めようぜ」(何かを隠している…な…二人とも)


「そうじゃな…おぬしらの孫の話はさておき、ようやくそろったんじゃ…本日の会議を始めるぞ」(あまり突っ込まないほうがよさそうじゃな…)


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『氷の魔王のところにも孫ができた』

会議が終わり、ふと帰り道にその話を思い出す。


「なんでうちの娘は人間なんぞと…」


付き人にも聞こえぬよう、ぼそりとつぶやく

娘に万が一ばれたら孫に合わせてもらえない

そう思いながら、帰りの馬車で一人準備の続きをしていた。


「人間界に『旦那を連れて帰るための実家』を作れ…か…無茶をいう…」


多数の書籍がその場に転がっている

一冊を取り、ページを開きながら中をじっくり読みつつため息をつく


「この炎のプライドが…どうしてこんな目に……ええい、どうもこの言葉は分かりにくい…

とはいえ『創っ』たらダメと言われてるからなぁ

これはテーブルか…?木製だな…ずいぶんと脆そうだが…人間どもはこれで大丈夫なのか…」


その書籍の表紙には「家具のカタログ」のタイトルが書かれていた

ただし、その文字は魔界公用語ではなかった

転がっている書籍に書かれている文字は人間の公用語

人間の世界の常識を学ぶため、炎の魔王はこの一週間、人間の文字を学んでいた。


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