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僕の家には秘密がある  作者: 玖龍 眞琴
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02_黒竜歴515年7月20日


「なあ、おやじ…もう少し年上になれないか?」


「ン…もう少し…か?」


20代くらいの男と30代くらいの男が酒場のカウンターの端っこでひそひそと話をする

周りの喧騒によってかき消されているが、どうやら秘密話をしているようだ


「俺くらいの年齢だと、俺の親父はあのくらい…よりちょっと上の年齢なんだってば」


目くばせした先には50代程度の白髭の生えた老人がいる

背筋を伸ばして、酒場で酒をたしなむ姿は

どこぞの貴族の老執事を思い浮かべるほどだ

だが、30代くらいの男がそれを見て、もうひとりの男をじろりと見る


「あんなジジイになれと?!わしはもうこの姿で500年ほど生きてるんだぞ!」


「普段はいいから、俺の家族と会うときは姿変えろ!ってんだよ。俺だってそろそろ『35歳』で通すんだからよ」


「ふん!あんなジジイになるのはわしのプライドが許さん。ファブラの名がなくわ」


そういうと、ぐっと酒をあおり、ダンとグラスと机に置く

ため息を吐く20代の男は注文票に新しい酒を描き、カウンターにそれを置く


「ならないってなら、シウゴに会わせるわけにはいかねーぞ?」


それを言われた途端、30代の男はグッと息を詰まらせる


「卑怯じゃぞ…?5歳の誕生日は人間にとってかなり重要な意味があるらしいではないか」


「卑怯もくそもあるか。『人間』の息子の5歳の誕生日だ。5歳の孫がいるような年齢になれって言ってんだよ」


「ぐぬぬぬ…」


苦虫をつぶしたような顔をした30代の男の顔を見ながら、新しく渡された酒をグラスにつぐ


「妻の家族に『違和感を与えないように』してくれればいいんだからよ…おふくろはさっさと60代くらいに変身したぞ。

『初老の淑女向けのアクセサリーもなかなかいいわね』なんて言いながらいろいろ買って帰ってったし」


「何だと…!最近人間界にしょっちゅう買い物に行くと思ってたら…」


「なぁ、おふくろに合わせる形で、さっさと変身してくれよ。大体これから『父親の田舎に帰る』時にどうやってごまかす気なんだよ」


「ぬぬぬ…わかった…まったく、お前はなぜ人間と結婚をしたのか」


再び酒をあおり、肉をほおばりながら、顔だけ『60代』に変身する


「こんな感じでよいか??…こんなところをあのジェットのアホに見られたらクソほど笑われるわ」


「ん、そんな感じだな…なんだよ…まだ炎のとやりあってるのかよ」


「フン…奴の娘っ子にも子供ができたらしいでな。今度会いに行くんじゃとよ」


「おー…おやじ、そういう悪態をつくとまさにどこぞのジイさんっぽいぞ」


ニヤニヤと笑いながら、20代の男が冷やかす。

三度苦虫をつぶしたような顔になったかと思えば、『老人』は再び30代の顔に戻る


「ベルガリオ…お前人間界に住むようになって少し捻くれたの」


-------------------------------------------------------------------------------------

「5歳のお誕生日、おめでとうな。シウゴ」


「わーい!!ありがとう!おじいちゃん!!」


今日は僕の5歳の誕生日パーティー。

テーブルには僕の鉱物である鳥のから揚げやポテトサラダがたくさん並んでいる

そして、真ん中にはケーキ!!


お父さんと、お母さんと、

おじいちゃん二人におばあちゃん二人!

そして、お父さんのお姉ちゃんとお母さんの弟さん!

みんなが祝ってくれる!!


二人のおじいちゃんがお酒を飲みながらニコニコと笑っている


「いやいや…孫はかわいいもんですな…パリストンさん」


「まったくですな、プライドさん」


今日は楽しいパーティー!

5歳の誕生日は、幼児のころはとても死にやすい『人間』にとって昔から

重要なパーティーになる


魔族の僕は本当は人間の5歳の誕生日はあまり意味はないんだけど…

でも、みんなが祝ってくれるからうれしい一日!

今年も一年!いいことがありますよーに!!


---------------------------------------------------------------------------------------

「ねぇ…お父さん…シウゴの誕生日なのよ?ちゃんとして」


その主婦はこそこそと、誰もいない自室で『鏡』に向かって話しかける

『鏡』の向こうにはその主婦は映っておらず

代わりに、20歳くらいの若い男が映し出される


「ちゃんとして、といわれてもな…いつも通りでよいではないか?」


「まさか!私一応今年で『30歳』ってことになるのよ?そんな母親の父親が『20歳』に見えるなんてあちらさんが度肝を抜かすわよ」


「800歳くらいのジジイの姿になれと…この炎のジェットがか?」


「『人間の50歳くらい』よ…ほら早く…!!」


せかされるようにして、20歳くらいの男は炎に巻かれ、

再び姿を現した時には50歳程度の老紳士が立っている


「ほら、これでいいか??」


映し出されたその姿を見て、主婦はほっと一息をしつつ

お茶を口に含み、声を出す


「なかなかいいじゃない…かっこいいわ」


「…こんな姿、ファブラのやつには絶対にばれたく無い…絶対爆笑される…」


グチグチと悪態をつく、ジェット。

主婦はそんな言葉を聞き、呆れた顔をする


「なーに、お父さん。一応停戦は結んだのにまだやってるの?氷の魔王様と」


「奴に様づけするんじゃない!まったくどうしてお前は人間なんぞと結婚したのやら…」


「いいじゃないの、そんな魔生もありってもんよ」


「奴の小僧も子供が生まれたらしいしな。今度誕生パーティーとやらをするらしいわ…向こうは気楽でいいだろうから、猶更ムカっ腹が立つ」


「…ふーん…そんなことを言うならシウゴに会わなくてもいいのよ?」


悪態を繰り返すジェットを見て、主婦は少し怒気を強めて立ち上がる

その途端、ジェットの焦り声が返ってきた


「ば、馬鹿をいうな!!絶対行くからな!!シウゴの誕生日を祝うのは絶対だ!!」


「ハイハイ…まぁ再来週だし。またね、お父さん」


「まて、ジェシカ!話は終わって…!」


プツンと音を立てると『鏡』は鏡に戻る


「ふぅ…全くほんと、いちいち大変よね…でも、まぁ…」


伸びをして、椅子から立ち上がり、リビングにつながるドアへと向かう

その顔はにこやかで、すっきりしていた


「こういう魔生も、ほんと面白いわ…」

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