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デクステラ大陸物語—機構弓剣使いと精霊追いの魔導士  作者: 猫ろがる
第一章 行き倒れの天才魔導士
3/21

02


 馬の嘶きが頭の奥の方で響いた気がした。

 普段ならそれで異変を感じとり素早く起きる筈なのだが——本当に気持ち良く眠っていたんだろう——俺は呑気にスースーと寝息を立てながらまだ眠っていた。

 しかしその直後、馬車が地面を滑るようにして止まる感覚がした俺は、そこでやっと目を覚ます。同時に、急に馬車が止まった勢いで木箱が滑り。

 見事、俺の頭部に直撃した。


 「————ッ⁉︎」


 あまりの衝撃と痛みは声にすらならない程だったが、俺は痛みに耐え側に置いていた剣を握り、状況を確認した。


「どうしたおっちゃん! 魔物か⁉︎」


 頭を片手で抑えながら、俺はそう叫んだ。


「あぁいや、大丈夫だ。魔物じゃない」


 いたって冷静に言うおっちゃんに俺は少し肩透かしを食う。

 しかし、その表情はいかにも困り顔だ。


「魔物じゃなきゃなんだよ?」


 まだ痛む頭をさすりながら聞くと、おっちゃんは「いや、アレだよ」と俺に指を差した方を見るように促してくる。

 そこに目を見張ると、少し先の道で何かが倒れていた。


 ――あれはどうみても……。


 何かと言うか、はっきりとそれが人なのは分かった。


「とりあえずおっちゃん、近くまで寄せてくれ」


 俺が促すと、おっちゃんは一瞬嫌そうな顔したが、すぐに馬車を動かした。

 死んでなきゃ良いけどな。

 そう思ったのは生きてて欲しいと言う願いではなく。正直、死んでたら色々と面倒だと言う気持ちが強かった。


 何故なら、死体をこんな道端に放っとく事は流石にいかないからだ。

 しかし、死体を馬車に乗せて首都まで向かうのも無理がある。と言うより、おっちゃんが嫌がるだろう。死臭が商品に付いてしまう可能性がある。

 さっきの嫌そうな表情はそういう事だ。


 だったら、この近くで穴を掘って埋葬してやり、簡易的に墓石を立ててやるしかない。

 それも魔物に掘り起こされないようにかなり深く。

 とすると結構な重労働な上、時間もかかる。

 それはそれで、おっちゃんは嫌がりそうだがな。

 そんな事を考えてると、馬車が倒れている人の側まで来た。


「俺が行くよ」と伝えると、俺は馬車を飛び降りた。

 近くに駆け寄ると、体格の小ささで子供だと言う事が判断出来る。

 チッと思わず舌打ちをしてしまう。

 流石に子供が死んでたら、目覚めが悪い。

 心の底からそう思った。

 俺はそいつを抱き起こすと、心臓付近に耳を当てた。


 ——……トクン……トクン。


 心臓の鼓動が聞こえる。

 良かった、まだ生きている。

 俺は深くため息を吐き安堵した。


「どうだ、あんちゃん? そいつ生きてんのか?」


 心配そうに聞いてくるおっちゃんに、俺は手振りで生きている事を伝える。

 するとさっきまで不安そうにしてた顔が、またいつもの明るい表情に戻った。

 しかしなんだ? 耳を当ててる横顔にフニフニと微妙に柔らかいもの感じる。

 俺は無意識に顔を左右に動かし、それが何なのかを確認してしまった。


「アンタ……なにしてんの?」


 同時にすぐ側で、怒気を含んだ声が聞こえた。

 それが女の声だと気付き、横顔に当たるものが女性のソレだと頭に過った時にはもう遅かった。


「ちょっとま——ッ⁉︎」


 誤解を解く弁解の余地もなく、バチンッと強烈な平手が俺の左頬を襲った。

 強烈な痛みが走る。

 そして一拍置いて右頰にも同じ痛みが走った。

 まだまだそれだけでは終わらず、最後に女は握り拳を作ると、鳩尾(みぞおち)目掛けて力いっぱいに叩きこんだ。


「——ッ⁉」


 どこも鍛えようのない場所を的確に(はた)かれ突かれた俺は、そのまま地面に転がった。


「ま、まった! 誤解だ! 俺はただお前の生死の確認をしていただけだ! やましい気持ちじゃねぇ!」


 小柄な女? 子供? は深く白いフードを被っており表情は見てとれないが、非常に怒っている事は雰囲気で察する。

 謝って許して貰えるかは怪しい。


「人が生きているか死んでいるかを判別する時、一々(いちいち)胸に頰ずりをする必要はないと思うんだけど?」


 ジロリと、小柄な女の視線が突き刺さった。……気がする。

 だがごもっともだ。返す言葉もない。


「そいつはその……アレだ、なんつうか……まぁ、ともかく生きてて良かったよ」


 頭の後ろを掻きながら何か良い言い訳を模索するが、出てきた言葉はとても言い訳とは言えない誤魔化しだった。


「はぁ? それで誤魔化してるつもり?」


 誤魔化しにすらなってなかった。


「まぁまぁ嬢ちゃん、あんちゃんもわざとやったわけじゃないんだ。許してやってくれねぇか? この林檎やるからよ?」


 馬車から降りてきたおっちゃんの右手には林檎が握られており、それを小柄の女に見せつけた。


「…………」


 しばしの沈黙の後、小柄の女は無言のままおっちゃんに近付くと林檎を鷲掴み、自分の口元に運んでシャリシャリと食べ始めた。


「……ん、なかなか美味しいわね」


 林檎の美味を堪能し、小柄な女の表情が少し柔らかくなる。


「そうだろそうだろう、わざわざ首都から遠く離れた村にまで買い付けに行ったんだ。これで美味しくなかったら、骨折り損のくたびれ儲けだ」


 うんうんと嬉しそうに頷くが、おっちゃんはすぐに肩を落とした。

 実際、およそ数時間前に魔物に襲われて馬一頭をやられた挙句、自分自身の命も落としかけているわけだ。このおっちゃんは。

 まぁ、それはともかく。


「ところでなんでお前はこんな所で倒れてたんだ? つうか、一人か? 一人だとしたらなんでこんな所歩いてたんだ?」


 とにかく状況確認をしたい俺は、簡潔に質問を投げた。

 だけだったんだが――。


「アンタ、人に質問するときは笑顔で優しく丁寧に一つずつ聞いたほうがいいわよ? じゃないとアンタみたいな目つきの鋭い血生臭い野蛮人に質問攻めされたら大抵の人間は逃げるか手持ちのお金を置いてくわ。特に女性や子供には気を付けなさい」


 殆ど一息で悪態を吐かれてしまった。

 女の物言いに思わず頭に血が上りキレそうになるが、俺は大きくため息を吐くことで何とか平常心を保った。


「確かに君の言うとおり、少々俺の態度に問題があった。これからは気をつける。だから出来れば質問に答えてくれないか?」


 女の言う通りに今出来る精一杯の笑顔を作り、出来るだけの優しい口調でもう一度聞いた。


「やれば出来るじゃない。いいわ、質問に答えてあげる」


 どこまでも上から目線な女だ。


「まぁ初めに、私の名前はサラ・ソルシエール。倒れてたところを助けてくれたことを感謝するわ。ありがとう。一応これでも学者をしていてこの辺には調査で来ていたのだけれども——」


 何故か、そこで言葉が詰まる。


「どうした?」


「調査に夢中になりすぎて、ここ三日程ほとんど何も食べてなかったのがよくなかったのね。気が付いたら倒れてたわ」


「お前バカだろ……ホントに学者か? そもそも歳はいくつだよ? どう見ても子供のお前が学者だなんて誰が信じるんだ。嘘吐くならもうちょいましな嘘吐け」


 我慢ならず本音が零れた。


「人を見た目で判断するなとは言わないけど、それだけで全てを帰結させるのは愚かよ? 私の事を子供だと思ってるみたいだけど、これでも歳は十八で成人は迎えてるわ」


 冗談だろ。このなりで十八って、俺より頭二個分は身長低いぞ。信じられん。


「十八って、俺の二つ下かよ。まあ仮にそれが本当だったとしても、その歳で学者になんかなれるのか?」


「学者なんて国に認可されれば誰だってなれるわよ。まあ、私はそれでいて魔導士でもあるのだけれども」


 簡単に言っちゃいるが、国に認可なんてもん易々とされねぇだろ。そんでもって魔導士だ?


「ますます信じられねぇ」


「別に信用しなくてもいいけど? それで私は困らないし、あなたも困らないでしょ? ただ助けてくれた事は感謝してる。あのままだったら魔物に喰われてたかもしれないし」


「まぁ、確かに本当か嘘かなんてはっきりさせる必要はどこにもないか。見たところ怪我もなさそうだし、俺たちとしてもそれだけでよかったよ。悪かったな、詮索しちまって」


「ま、アンタが私を疑う気持ちも分からなくもない。簡単に人の言うことを信用するのもまた愚かだわ」


 こいつは一々上からでしかものを言えないのかと思ってしまうが、感謝が言えるぶん悪い奴ではないのだろう。


「ところで嬢ちゃんこの後はどうするんだい? 調査とやらを続けるのかい?」


 俺とこいつのやり取りが落ち着いたところで、おっちゃんが切り出した。


「いいえ、この辺りはもう調べつくしたから次を目指すつもりよ」


「次って?」


「……首都よ」


 少しの間のあとサラが答えた。

 ということは目的地が同じなわけだ。


「それなら話は早い! 嬢ちゃん、俺たちも首都を目指してんだ。良かったら乗ってくかい? もちろん料金はいらねぇよ!」


 バチンッと手を打ち鳴らし、満面の笑みでおっちゃんがそう言った。


「いいの? その方が私としても助かるから素直にお言葉に甘えさせて貰っちゃうけど?」


「あったりめぇよ! それに最近ここいらでも凶暴な魔物が出没するから、嬢ちゃん一人をここに残すわけにもいかねぇからな」


「そうみたいね。実際、私も何回か魔物と戦ってるし、あなた達もそうなんでしょ?」


 サラの視線が俺に向く―—と言ってもフードで顔の半分が隠れてるため、実際はただ此方を向いてるだけだ。目が合う事は無い。


「まぁな。ちなみに俺が血生臭いのはその時の返り血のせいだからな」


 先ほどサラに言われた事を意外と気にしてる俺は、衣服に付いた返り血を見せながら不満げに言った。


「見ればわかるわよ」


 なにを言ってるの? と心の声が表情からして見て取れた俺は、ただ一言「だよな」としか返せなかった。

 そして二つ下の女にムキになっている自分の子共っぽさに、俺は少しだけ情けなくなった。


「ところであなた達の名前をまだ教えてもらってないんだけど?」


「おおっとこれはいけねぇ、俺の名前はホスキン。商人をやってんだ。首都へ向かうまでの間だがよろしくな!」


「あんたは?」


 サラの視線が再び俺に向く。


「俺か? ……俺はリヒト。まぁ、旅人だ」


「旅人ねぇ。今時そんな人まだいたのね」


「理由があるんだよ理由が」


「ふ~ん、まぁいいわ。じゃ、自己紹介も終わったしそろそろ首都へ向かいましょうか」


 サラは興味がないと言わんばかりに背を向けると、馬車に乗り込んだ。

 首都に着くまでの一日間、この一癖ある女と共に馬車で揺られることになる。たぶん、気が楽な馬車旅というわけにはならないだろう。そう考えるだけで俺はため息をついた。


「まぁ、退屈はしなさそうだな」


 サラに聞こえない程度にそう呟き、俺も馬車に乗り込んだ。




お読みいただきありがとうございます。

次は明日、20時以降に投稿しますm(__)m

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