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現代が戦国風味ですと?  作者: 石山乃一
2/13

ネット上の友

朝飯を部屋に持って行って、俺はパソコンを立ち上げていつも自分が書き込んでいるチャットにログインした。


「ってなわけで、俺昼に出て行けとか言われちゃったんですよwマジウケるwwそもそも戦うとか、徴兵とか、出陣とか、まじバロスwwなんか皆マジになってるし、これって一般人へのドッキリですかねwwww」


朝からの経緯と共に書き込むと、さっそく返事が来た。

『いやいや、アッシュさん。どれだけ今の時世が分かってないんすかw』

アッシュとは俺のハンドルネームだ。このチャット仲間たちはあるゲームファンたちの集いで、皆和やかな人たちなので居心地がいい。だから俺も入り浸って良く書き込んだりしている。


そのあとにコメントが次々と増えていく。

『今は戦国時代と思ってもいいと思いますよ』

『うちの近所でもお金問題でトラブってた人たちが一騒ぎしててマジ怖いっす…なんかさっきまで騒いでたけど急に静かになって怖い…外出れない』

『さっそく殺人事件ですか』

『こうなりゃ警察も役に立ちませんな』


俺は眉間にしわを寄せてコメントを見た。そして書き込む。

「ちょwやめてw皆も俺をハメようとしてるんですかwそもそもそんな事したら国連とか黙ってないっしょw」

コメントが続いて出てくる。


『ちょwアッシュさん、本気で言ってます?w今はそういうの関係ないんですよ?』

『テレビとネットニュース見た方がいいですよ。今までと同じように過ごせなくなるかもしれませんし、そういう固定観念に縛られてたら危ないですよ』


俺は皆からのコメントを見て目を見開く。そしてさらに書き込んだ。

「あの、失礼かもしれませんけど、皆マジで言ってます?」

『いや、俺らの方こそいいたいですわ。そっちこそマジで言ってますw?』


俺はパソコンから手を離し、しばらく呆然と増えていくコメントを眺めていた。

「えー、ウソウソ、今どんな状況よ?」

俺は前髪をぐしゃぐしゃと後ろに流す。と、俺に名指しのコメントが出てきた。

「あ、ルーさん…」

俺と同じくよく見かける人で、気の合う人だ。


『アッシュさん、実は僕も今の状況よく分かってないんですよ。何で日本がこんな無法地帯になったのか…』

俺は喜んで書き込む。

「ルーさん!今日初めて話が合う人に会えました!」


『確かアッシュさん、東京の人ですよね?今まで隠してたんですけど、自分も東京住みなのでちょっと会ってお話ししたいです。ほんと今の状況ヤバいし、もう個人情報とか言ってる場合でもないので住所晒します。ここの皆なら住所晒したって悪用しないでしょうし。都内なら来れますか?僕の家で話しましょう』

俺は跳ね上がった。ついでに肉も跳ね上がって重力に従ってたゆむ。

「もちろんです!俺も今の状況についていけないんで話したいです!願ってもない話です!」


そう打ち込んでから数秒、ルーさんのコメントがくる。

『僕の住所です』

俺はボールペンと紙を用意し、書き込まれた住所を書いていく。こういうところは会社に勤めていた時に染みついた癖だ。とりあえずなんでも重要そうな物事はメモしてしまう。

「えーと、東京都、中央区…八丁堀…」

『大丈夫そうですか?』

ルーさんからコメントが来る。他の人たちが『マジで住所晒すの?』『それはやめた方が』とゴチャゴチャ言っているが、そんなの気にしてられない。


「八丁堀までメモしてます」

と書き込んだ直後、急激に画面が真っ暗になった。

「ん?」

電源が落ちたか?俺はパソコンの電源ボタンを見るが、電源はついたままになっている。

「あれ?画面だけ真っ暗になった?」


俺がマウスをグルグル回したりしていると、真っ暗な画面から白い骸骨がボワッと浮かび上がった。

「うぅっ」

いきなり出てきたので俺は驚いて飛びのく。そして、半角カタカナの文字が骸骨の下に出てくる。


『ワタシハ チホウノ モノ デ、トウキョウ ノ IT ノ シタウケ ヲ シテイマシタ。サマザマナ オオテ キギョウ ノ シタウケ デス。

シカシ チホウト イウダケデ カルク ミラレ、ムリナンダイ ヲ オシツケラレテ イマシタ。イマガ フクシュウノ トキダト オモイマシタ。コレカラ トウキョウトナイ ノ ネットカンキョウ ヲ ハカイスル ウィルス ヲ ナガシマス。トウキョウ、メツボウ スベシ。チホウ ヲ ナメンナ』


まるで昔のRPGのような文字が流れ終えると、色々な数字や文字やタグが上から下にダーッと流れだした。

「え、ええっ!?」

俺は慌ててそれを止めようとAlt+F4を押したが何もならない。もう強制終了させようと手を動かしたが、


ブツン


パソコンが先に落ちた。


俺は慌ててパソコンをつけた。パソコンはいつも通り立ち上がってパスワード入力を求めてくる。

いつも通りの手順で俺はパソコンを立ち上げてデスクトップ画面に行き、そしてネットを開こうとするが、いつもはスッと開くネット環境に接続されていませんの文字が出る。


パソコンから離れて、俺は携帯をいじってネットにつなごうとする。ちなみに俺の携帯はガラケーだ。

ネットにつなごうとするが開けない。しばらくアイコンがクルクルと回った後に「接続できませんでした」の文字が出てくる。


「え、ええー…」

何度か試したけど結局は無理だった。

「え、ええー…」

それまでネットにべったり依存していたのに、急激にネットにつながらなくなると人はこんなに所在ないぐらい狼狽えるものだろうか。


「い、いや、とりあえずルーさん宅に…」

とそこまで考えて俺ははたと思いついた。メモを取って、自分の汚い字で書かれた住所を見て呟く。

「東京都中央区八丁堀…。へへっ、そっから先が分からねぇとダメじゃん…」

俺はそこまで考えて、携帯と財布を持って家から出た。

ルーさんは細かい所まで気づくような人だ。俺はさっきチャットに「八丁堀までメモした」と書き込んだ。


つまり細かい所まで気づくルーさんなら、俺が番地まで書き込んでないというのは分かっているはず。

つまり、八丁堀駅まで行けばもしかしたらルーさんに会えるかもしれないのだ。


俺は外行の服に着替え、外出した。


…と、そこまで頭が回って八丁堀駅まで行ったが、お互いのメールアドレスを知ってるわけでもなし、ネットにも繋がるわけでもなし、そもそもお互いの顔も知ってるわけでもなしの三拍子でルーさんには会えず、誰からも声をかけられる事はなかった。


そしてトボトボと家まで帰宅し、家に入ろうとしたら待ち構えていたかのように玄関に立っている親父に言われたのだ。

「昼は過ぎたぞ。もう帰って来るな」


それと共に、「餞別だ」と金の入った袋と携帯の充電器、合羽や何着かの着替えの服の入ったバックを渡され、そのまま戸を閉められてしまった。しばらく家の前で座っていたが、三人とも家に入れてくれる気配もなく時間は過ぎた。


昼飯はその辺のコンビニに行き、そして買ったおにぎりを近所の公園で五個食べてから家に帰って戸を開けようとしたが、戸は開かない。家の周りをグルッと回ってみたが、どこも開いているような気配はない。


おれは携帯で家に電話を掛けたが、誰も出ない。父さん、母さん、清二の皆の携帯にも電話をかけてみたが、それでも誰も出ようとしない。


そして俺は、夕暮れせまる家の近所の公園でこうやって黄昏れているのだ。

「…これからどうしよ」

どうやら家族全員、俺を家に入れる気はないらしい。そしてなんだか世上は変わっているらしい。通り過ぎる人全員が俺には理解できない話をしていきながら通り過ぎていく。


「…ルーさん…」

俺は一度も会ったことのないネット上の友人の名前を呟いた。柄でもないが、不覚にも目が潤んでくる。

「俺、ほんとこれからどうすれば…。ルーさーん…」


「何泣いてるの」

横から声が聞こえたが、俺に話かけてるんだと思わなくて変わらず黄昏ていた。すると、目の前に何かがスッと差し出される。


俺が見ると、見知らぬ女の子がハンカチを差し出して立っていた。

「えっ」

体重百キロを超える、見た目も全く気にかけてない俺に女の子がハンカチを…?

「もしかして…」


俺は淡い期待を持って声をかけた。

「ルー…さん?」

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