顔を出すの? 出さないの? いえ両方です 7
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「はーい、押さないでー! 危ないからー!」
「そこッ!撮影はNGだって言ってるでしょ!? 携帯はしまいなさい!!」
学園祭前日の放課後、職員室横の来客用玄関には大勢の生徒でごった返していた。
何故、俺が委員長と一緒にこんな人混みの先頭に立ち、生徒たちに注意を呼び掛けているのかというと、臨時補充要員として風紀委員にこき使われているからに他ならないが、もう1つ、生徒会長から言い渡された大事な任務があるからだ。
それは…
「おい!来たぞ!! kira☆kiraだ!!」
「すげーッ!初めて生で見たけど超カワイイーッ!!」
「はいはい、危ないから乗り出さないでー!」
黒い車が3台ほど玄関に横付けされたかと思ったら、黒いスーツを着込んだSPのような人達に囲まれてkira☆kiraの2人が車から降りてくる。
確かに、テレビや雑誌で見るより、実際に見た方が遥かに可愛いが、でもまあ、2人とはしょっちゅう顔を合わせているから、そんな大騒ぎする程でもないな。
別段慌てる事なく、騒ぐ生徒たちに注意を呼び掛け続けるが、スーパーアイドルのkira☆kiraを前にテンションが振り切った生徒たちに俺の注意が届く訳もなかった。
「すいませーん! 握手してくださーい!!」
「キアラちゃーん、こっち見てーッ!!」
「すごい…! すごい…!!」
「俺、小畑って言います、結婚してくださーいッ!!」
kira☆kiraの2人が通路の両サイドを埋め尽くした生徒たちの間を抜ける時が1番のピークで騒がしい。風紀委員全員で生徒たちを抑えているが、今にも雪崩れ込んで来そうなほどだ。
さらに、そん中に1人厄介な奴が紛れ込んでいる。
「ここですーッ! 小畑はここにいまーすッ!!」
声を張り上げ、手足をばたつかせ、必死に自分をアピールする小畑の前にサッと自分の身体を入れてガードする。
「おい勇志!! 何の真似だ!? 邪魔だどけッ!!」
「邪魔なのはお前の方だ、kira☆kiraの2人を困らせるなよ」
小畑の求婚が聞こえたキアラは、困ったような笑顔をこちらに向けていた。
全く、キアラにあんな顔をさせるなんて小畑にはキツイお仕置きをしてやらないかんな。
そんなキアラの後ろから、チラッとこちらを見るアキラの視線を感じ、視線を向けるが、俺と目が合った途端に慌てて目を逸らされてしまった。
何だ、あのアキラの目の逸らしようは… 何だ? 今のアキラの目が合っちゃって恥ずかしいみたいな仕草は…!?
「じゃあ入月くん、予定通りにkira☆kiraを控え室まで案内してあげて」
「お、おう!了解…」
玄関で待っているkira☆kiraを駆け足で追いかけて話しかける。
「ようこそ六花大付属高校へ、それでは早速控え室に案内します」
「ちょっと待ったッ!!」
kira☆kira御一行様を案内するためにクルリと方向転換したところでアキラから声が掛かる。
何だ!? まさか今の喋り方でガップレのユウだってバレたか!?
「わざわざユーシに会いに来たんだから、もうちょっと何かあってもいいだろ…?」
そう言って急にモジモジしだすアキラ。まさか… まさか本当なのか!? アキラが俺のことを、すすすすすすす好きって話は!!
お、落ち着けー、俺。まだそうと決まったわけじゃない! もしかしたらゲームのやり方教えてーとか、そんなんかもしれないだろ? 仮にも俺は全国優勝のプレイヤーなんだからッ!
いつもより息を長めに吐いて呼吸を整え、アキラの方を向くが、アキラの肩越しに両手で赤い顔を隠した指の隙間から、好奇心という言葉をエフェクトにして散りばめたような、キラキラした眼差しをこちらに向けたキアラが視界に入ってくる。
あッ、何その恋愛ドラマを見ているような目は!? やめてーッ!! そんな目で見ないでーッ!!
「あれ?kira☆kiraのアキラたんとキアラたんじゃない? 奇遇だね~、こんな所で会うなんて」
「お久しぶりです、ヨシヤさん!」
「おう!もう来てたのか、早いな!」
俺が困り果てている所に颯爽と現れたのは、お馴染み腹黒王子、Godly Placeのベース担当、ヨシヤこと山崎義也だ。
ご丁寧にガップレの時の衣装と変装でこの場に現れやがって、一体何を企んでいる!?
「は!? ヨシヤさんがここにいるってことはユウさんももう来てるんですかッ!?」
そう言って辺りをキョロキョロし出すキアラだが、悪いがユウさんは只今手が離せません。
「もちろんユウくんもいるよ? 何なら呼んで来てあげようか?」
「え!? そそそ、そんな急に… 」
おい~ッ!? 義也!! 悪そうな顔してこっち見やがってーッ!! もしキアラが呼んでって言ったらどうするつもりだよ!?
「で… でも、ユウさんも準備とか練習があると思いますし、私の身勝手なお願いで呼び出すのはユウさんに迷惑ですから… 」
「優しいねキアラたんは、ユウくんには手が空いたら顔を出すように言っておくよ」
「はい!ありがとうございます!!」
なんて良い子なんだキアラは…
やはり天使だったんだな、ありがとう… ありがとうキアラ。
俺頑張るからね、後で必ず顔を出すからね!!
「さてと、じゃあ僕はそろそろ戻るよ。また後でね、アキラたん、キアラたん」
ヨシヤはそう言い残して俺たちの横を通り過ぎていくが、ふと俺の横に止まり、俺の肩に手を置きながら耳元で囁く。
「じゃあ頑張ってね、勇志くん」
「ぐぬぬぬッ!」
憎たらしい笑顔で俺にそう告げると、そのままヨシヤは廊下の先を曲がっていった。
「どうした? 大丈夫か?」
ヨシヤに怒りの眼差しを向けていた俺を心配するように、アキラが下から顔を覗き込んでくる。
kira☆kiraと一緒にいる時、そういう細かい所に気を遣ってくれるのはキアラだったから、アキラの少しキリッとしている大きな瞳にこうやって覗かれると、なんか緊張してしまう。
「いや、何でもないです! 控え室はもう直ぐですからッ!」
そう言いながらアキラと距離を取り、早足で控え室に向かったのだった。




