顔出し中は好きにやらせていただく 28
「暗黒の世界に帰れッ! 郷田ァア!!」
郷田が乗っているコクピット部に向かってビームサイズを振り下ろす。
unknownダンガムの胴体を貫通した刃は地面に深く突き刺さった。
モニターに表示されるゲームクリアの文字とリザルト画面、その文字を次へ送ることなくコクピットの背に深くもたれ、自分の両腕に顔を埋めた。
このデスゲームは終わった… けれど、失ったものが余りにも多すぎて俺には耐えられない…
「歩美… 西野… 」
暗転した視界が光を取り戻すのを感じる。
ゲームとの接続が切れ、現実に意識が戻ったようだが、装着したVRヘッドセットも外せず、重い腰も上げることができず、ただただ呆然と座っることしかできなかった。
「お疲れさま、よく頑張りました」
「歩美…?」
どこから歩美の声が聞こえてくる、幻聴か?
フィードバックシステムにあてられたせいで、俺の心が歩美の声を作り出しているのかもしれない。
「もう終わったんだよ?」
そう理解はしていても、俺の心が作り出した歩美の声は俺に話し続ける。
「ごめん、歩美… 俺は… 俺は歩美を助けられなかったよ… 」
「そう、だね… でも、勇志はよく頑張ったよ?」
「歩美だけじゃない! 西野も、ミスター・サムライも! 俺は誰も助けられなかったッ…!!」
頬に涙が伝うのを感じ、直ぐに腕で拭うが、どれだけ拭っても後から後から溢れ出てくる。
「まあ、あれはしょうがなかったわよ!私も完全に油断してたから」
「西野なのか…!?」
「あの時、命を懸けて入月青年を逃した私の判断も間違っていなかったよ、こうして最後はボスを倒してくれたんだからな」
「ミスター・サムライ!?」
どうやらフィードバックシステムの影響で、俺は本当におかしくなってしまったらしい。
「勇志、まさか泣いてるの? もしかして、まだ本当にデスゲームしてたなんて思ってるんじゃないでしょうね!?」
「へ?」
幻聴西野がサラリととんでもないことを言ってくる。
「ちょっと莉奈? 勇志はまだ何も知らないんだから、順番に説明してあげないと!」
「ちょっと待て!? 俺たちはデスゲームに巻き込まれたんじゃないのか!?」
「何から説明すればいいかな… とにかく、みんな無事だよ?」
「歩美… 歩美は生きてるのか!?」
俺は歩美の声がする方へとゆっくり手を伸ばした。
すると、すっと目の前が明るくなり、咄嗟に目を閉じる。
徐々に慣れてきて目を開けると、そこには俺のVRヘッドセットを持った歩美が、優しく俺に微笑み掛けていた。
「大丈夫、私は生きてるよ」
「歩美ぃ、歩美ーッ!!」
目の前にいた歩美を抱き寄せ、肩に顔を埋める。
失ったと思ってた人が生きてんたんだ、喜びと安堵の気持ちで胸がいっぱいで、時と場所を弁えるとか、細かいことまで考えられなかった。
「おやおや、お邪魔だったかな?」
聞き覚えのある2度と聞きたくなかった声を聞き、反射的に顔を上げて睨みつける。
「郷田ッ!?」
「ゲームクリアおめでとう、入月勇志くん。最後のフィードバックシステムの応用は見事だった、開発者としては見過ごせないシステムの不備だが、君の想いと感情にシステム、いや戦場の友情というゲームそのものが反応した結果なのだろう」
「それより説明しろ! いったい何がどうなってるんだ?」
郷田の回りくどい褒め言葉で思考が徐々にクリアになるっていく。
これがデスゲームじゃなかったということに納得がいかない点が幾つかある。
「説明しろと言われても、君はゲームオーバーになると死ぬと勝手に思っていたようだが、私は一言もそんな事は言っていないのだが… 」
確かに郷田は一言も死ぬとは言ってない。だが…
「最初にやられた2人… あいつらは痛みを感じていた! それで俺はあれがデスゲームだと確信したんだ!」
「彼らはこのゲームを盛り上げるための役者、つまりはサクラだよ」
「… はい?」
盛り上げる? サクラ?
あいつらは unknownに喰われてる演技をしてたってことか? 確かにあの2人以降、痛みを訴えるプレイヤーは誰1人いなかった。
「じゃあ、ミスター・サムライが言ってたフィードバックシステムの開発中止の真相は…?」
「開発中止ではなく、正確には延期、そして、人体実験の話は全て嘘だ。ミスター・サムライくんも、このデモンストレーションを盛り上げるために、こちらが用意したシナリオを読み上げてもらったのだ。」
「嘘… だろ…? 」
「すまない、入月青年。騙すような真似をして、私は君に本気を出させて欲しいと郷田さんに頼まれたんだ。私も第1回大会では苦い思いをした。だから、君の変革のために喜んで手を貸したんだよ」
思えば、ブリーフィングルームで郷田はいきなり名指しでミスター・サムライをリーダーに任命し、タブレット端末を渡していた。
その時点で何かしらのやり取りが2人の間にあったと考えるのが普通じゃないか。
そして、その端末に人体実験の台本か何かが書いてあったのかもしれない。
「とは言っても、ゲーム内での私の行動に台本も演技もなかった。私は君に全てを託して散ったのだよ」
「ミスター・サムライくんのおかげで、私は本気の君と戦うことができた。本当は君を倒して私の復讐としたかったのだが、既に君はもう以前の君ではなかったようだ」
郷田はそう言いながら、西野や歩美に視線を移しながら話を続ける。
「君のために命を投げ出す仲間がいる。そして、君自身も仲間のために自分の身を犠牲にしようとした。その時点で私の復讐は既に成し遂げられてしまったんだよ」
「どういうことだ?」
「君に仲間と共に戦う素晴らしさを味あわせるのが私の復讐の目的だったのだ」
「その為だけに、こんな大掛かりな協力プレイや今回の大会のデモンストレーションを仕組んだって言うのか?」
「そうだ。 だが、結果的にデモンストレーションは大成功、協力プレイを先行プレイできるチケットは既に完売してしまった」
「やることはしっかりやってるってわけね」
郷田は開発者より、セールスマンの方が向いてるんじゃないか?
「さて、お喋りはこの位にして、そろそろ時間だ。君にはまたゲーム開発の手伝いをしてもらうかもしれない。現にフィードバックシステムの不備も見つかったことだしね。それではまた… 」
「ちょっと!? ちょ、待てよ! 郷田ァア!」
まだ聞きたいことは山程あったが、突然現れたスタッフに誘導され、ブリーフィングルームから追い出されてしまった。
郷田はクルリと向きを変えて、扉の向こうへと消えていってしまった。
そのまま隣のメインステージに上がった俺たちを待っていたのは、ゲームが始まる前よりさらに人数が増えた観客たちの大歓声だった。
「さあ!お待たせしましたッ!! 協力プレイのデモンストレーションを盛り上げてくれました、本日の主役、入月勇志くんでーすッ!!」
いつもの司会者がマイクを持っている手とは反対の手を俺の方に向けてステージ中央へと誘導する。
後ろから西野と歩美も続いて3人で横並びに中央に立つと、スポットライトに照らされてしまった。
「いいぞー!」
「ナイスファイト~ッ!!」
「見直したぞー!!」
「ガッツあんじゃねぇかお前ー!」
「歩美ちゃ~ん! 結婚して~!!」
「莉奈ちゃん可愛いぃ~ッ!!」
会場からは溢れんばかりの歓声と拍手喝采を浴びる。
「それでは早速、入月勇志くんにインタビューしていきましょう! 今の気持ちはどうですか!?」
「一体何がどうなって… 」
「そうですよね~、いろいろと混乱していることと思います。仲間が次々にやられていく中、どう思いましたか!?」
「悲しいし悔しかったですけど、だから何が…」
「では、皆様には先程のシーンをダイジェストでご覧頂きましょう!!」
「へ?」
少しだけ会場内が暗くなり、ステージ左右に設置されている大型モニターにreplayの文字が左上に入った映像が流されていく。
もちろんコクピット内での俺の映像もあり…
『歩美、心配いらないよ。どんなことがあっても歩美だけは必ず俺が守るから』
『うん… 信じてるよ、勇志』
『ご、ゴホンッ! そ、その私のことは守ってくれないのかなーっ?』
『お、おう! もちろん西野も俺が守るよ!?』
『何で疑問系なのよッ!? このバカーッ!!』
『わッ!? ごめんごめん!ごめんなさーいッ!!』
というようなやり取りもバッチリ会場に流れていて、今またダイジェストとして流れているというわけなのですね。
すいません、どっかに穴は空いてないでしょうか? 人が1人入れる位の大きい穴。そのまま蓋をして埋めてくださって結構ですのでお願いしまーすッ!
『哀れだな』
『終わりにしよう郷田』
『暗黒の世界に帰れッ! 郷田ァア!!』
郷田にトドメを刺したしたシーンで観客の歓声が1番大きく上がる。
こうして見ると、とてもじゃないけど恥ずかし過ぎて見ていられない。
「それでは、この協力プレイのデモンストレーションの中で1番活躍した入月勇志くんのチームが今回の大会の優勝という形になります!!」
「はぁ…. 」
「それでは優勝トロフィーとゲーム内で使用できるレアパーツ、二つ名を進呈致します! 優勝トロフィーはkira☆kiraのお二人より渡して頂きましょう!!」
ステージ横からkira☆kiraの2人が優勝トロフィーを仲良く持って現れる。
一応リーダーということで西野がkira☆kiraからトロフィーを受け取ったが、アキラが俺の方に進んできて、握手を求めてくる。
「は、はぁ….」
握手に応じようと右手を差し出すと強引に引っ張られ、アキラの顔が俺の耳元に来るような形になる。
「私、あんたの事が気に入った。これ、私の連絡先だから後で連絡してこいよな」
そう言ったアキラは、スッと俺から離れると、見たこともないような笑顔で俺に微笑みかけてくる。
そして、握手した俺の手の中には、小さな紙切れが握られていた。
まさか、あのアキラが俺に好意を持ったとでもいうのか!?
何だその微笑みは!? 流石は世界のアイドルだ、一瞬、ほんの一瞬だけ可愛いって思ってしまったじゃないか!?
「ふーん、勇志ってモテるのねー」
「あっあああああ、歩美さん…?」
隣の歩美からまるで先程の映像の俺の機体から出ていたような禍々しいオーラが立ち込めている、ような気がする。
歩美もフィードバックシステムの使い手?
そのまま大会が終わるまで、ブラックアユミーの恐怖に震えながら、何とか乗り切ることができた。
西野は念願の二つ名を手に入れて、はしゃいでたから当分はゲーセン通いで忙しくなるのだろう。
俺の方は、何か色々とスッキリしないことはあるが、あれがデスゲームじゃなくて本当に良かったと、しばらく日常の平和の中で安堵する日々を過ごした。
結果的に、郷田にいいように遊ばれたって感じだろうか。
正直、少しトラウマになったからしばらくゲーセン行くのは辞めようと思う。
しばらく家に引きこもって、溜まってるアニメ消化させよう。
そういえばアキラにもらった連絡先どうしようかな。 もう顔を出した状態で会うこともないだろうし、面倒だから連絡はやめておこう。
歩美ともあの後何か変わったということもなくいつも通りだった。
まるであの時の告白がなかったかのような…
これから何か変わるのだろうか、今は想像もできない。
ベッドの上で天井を見つめながら色々なことを考えながら目を閉じるのだった。




