顔出し中は好きにやらせていただく 26
「システムオールグリーン、大破した腕も修理完了。歩美は大丈夫か?」
「こっちは大丈夫だけど、勇志は大丈夫なの?」
「…ああ、大丈夫… じゃない…かな」
西野…
『ご、ゴホンッ! そ、その…私のことは守ってくれないのかなーっ?』
『お、おう! もちろん西野も俺が守るよ!?』
『自分1人で全部背負って、無理して… もっと頼ってよ!』
『バカ勇志…』
「莉奈ならきっと大丈夫だよ。そんな、システムがどうとか関係なく、今頃は負けた悔しい~とかって言ってるよ」
「そう… かな… 」
「だから大丈夫、勇志は私が守るから何があっても…. 」
「歩美… 」
《ズドーンッ!!》
「くッ! 何だ!?」
今いる補給ポイントのすぐ近くで大きな地鳴りが聞こえ、すぐにノエルを呼び出す。
「ノエル!、状況は?」
「隊長… ぅ、うぅ」
ノエルが言葉を詰まらせ、その先が言えないでいる。ノエルのその様子で最悪の事態が容易に想像出来てしまう。
「何があった?」
「… チーム4は隊長と歩美さん以外は… 全滅しました… 」
「そんな… 」
必死に否定していた思いが現実のものとして心に突き刺さる。
「まだチーム1の赤星さんと、チーム3の工藤さんが何とかボスを食い止めていますが、補給ポイントまで攻め込まれるのは時間の問題でしょう」
「勇志… 」
歩美を死なせるわけにはいかない。あいつを、郷田宏人を倒せばこのデスゲームを終わらせられる。
「….俺は行くよ、歩美… そして全て終わらせる。だから歩美は… 」
「ここに残ってくれ、何て言わないよね?」
「う… 」
「私のことは勇志が守ってくれる、けど勇志のことは誰が守ってくれるの?」
「自分のことは自分で…」
「私が言いたいのはそういうことじゃない!」
「うッ… 」
「ずっと一緒にいるって約束したでしょ?」
「歩美… 」
「それはゲームの世界でも変わらない。ゲームの世界でも現実の世界でも、勇志が私を守ってくれるから、私も勇志を信じて、勇志を守るんだよ? それに勇志が1人になったら怠けるし、遊んでばっかで、ご飯も食べ忘れるし…」
「わかったわかった! 一緒に行こう、一緒に来てください!お願いしますッ!」
「よろしい」
どんなに頑張っても、この先俺は歩美に逆らえないんだろうな、きっと…
そんなことを考えつつ、機体を軽く動かし、コントローラーを手に馴染ませる。
「行こうヘルゲイズ、これが最後の出撃だ!!」
ヘルゲイズのスラスターを吹かせ、補給ポイントの格納庫から外へ勢いよく飛び出す。そのすぐ後ろを歩美のデュナメスヴァルキリーが続く。
防壁を潜り抜けた先のエリアからビームの閃光と爆発音が途切れることなく響き、その戦闘の激しさを物語っている。
そのまま防壁を抜けると、粉々になったプレイヤー機であっただろう残骸を宙に浮かせ、その真ん中で佇む一つの機体。
「郷田ッ!!」
「おや、入月勇志くん、来てくれたか。丁度こちらから迎えに行くところだったんだが、この2人が中々しぶとくてね」
unknownダンガムを挟むように、レンのシナンシュと翔太のフルクロスが位置を取っているが、どちらの機体も目に見えて損傷が激しい。かなりの激戦を繰り広げていたのだろう。
「待ってたっスよー、勇志くんと歩美ちゃん」
「悪いが手を貸してくれ。全員で戦えば何とかなると踏んでいたが、この有様だ」
すぐに2人からオープンチャンネルで通信が届き、それに答える。
「もちろんだ、それで他の奴らは?」
「全滅だ」
「そんな…」
「アイツ、もうメチャクチャなんっスよ。ラスボスだからって何でもありなんっスから!」
「そうでないと面白くないだろう? これこそ真の絶望を体現した姿なのだよ!!」
郷田の台詞と同時にunknownダンガムが翼を広げ、絶対者のポーズをとる。
まるで自分が神にでもなったかのように…
「来るぞッ!! 」
レンの掛け声に反応し、すぐに機体を動かしてバックステップを踏む。
すると、今さっきまで自分がいた場所に機体が5機ほど入るくらいの円形の窪みが突如地面に出来上がった。
まるで見えない大きなハンマーで叩きつけられたような…
「重力攻撃っス!! アイツは重力を自在に操れるみたいっス」
なるほど、俺がいた地点を中心に重力を極限に高めたってわけか、あれを喰らえばひとたまりもないないな。
それで奴は自分の機体を浮かし、周辺のプレイヤー機のデブリも一緒に浮いているわけか。それならあの大きな翼は一体何のために生えてる?
飾りで生えているわけではないだろうし、何か特殊な機能が備わっているのだろうか?
「レン、重力攻撃の範囲は一定か?」
「いや、奴に近付くほど攻撃範囲も広くなる。だが連続して使えない、次の重力攻撃まで僅かにクールタイムがある」
俺の質問に対し、レンが答えるが、1聞いて3返ってくる所が流石、最強のプレイヤーと言われるだけはある。
「問題は重力攻撃よりアイツが展開するエネルギーフィールドっスよ」
「エネルギーフィールド?」
「触れたものを灰にするバリアフィールドだと思ってくれればいい。効果範囲は攻撃時に10倍に広がる」
「加えて大出力の粒子砲に、ビームサーベル。遠中近、死角なしのスーパーチート機体っスよ、あれ」
「フッ… そこまで来ると笑えてくるな」
「ひどい言われようだな、私にも弱点はある。私がパイロットとして登場しているということは、この胸の部分を貫けばゲームクリアだよ」
「やらせる気なんてさらさら無いだろ?」
「その通りだッ!!」
郷田は翼の中心にから大出力のビーム砲を連続で照射してくる。
あの翼は大出力の粒子砲を撃つための物か! 何て威力の砲撃を、しかも連続で出してくるんだ!? あんなの当たったらひとたまりもないぞ!
このままじゃラチがあかない。
「歩美は距離を置き、隙を見て狙撃してくれ!」
「わかった、けど隙なんて…」
「俺たちで何とか隙を作る、最後は頼んだぞ!」
「わかった!」
「レン、翔太、構わないか?」
「もちろん、俺はいいっスよー!」
「ああ、問題ない」
「オペレーション、『エンジェルダウン』開始!!」
俺の掛け声と同時にレンと翔太が左右から同時にunknownダンガムに向け攻撃を始める。
俺はunknownダンガムに向かって猛スピードでヘルゲイズを走らせる。
郷田は宙に浮かせていたプレイヤーたちの機体のデブリを動かし、レンと翔太の射撃を防ぎながら俺に向かって大出力の粒子砲攻撃を続ける。
俺はスピードを殺すことなく、紙一重で粒子砲を躱しながらunknownダンガムに向かってブーストし続ける。
「さすが初代チャンプっスね~、スピードと回避が半端ねぇっス!!」
「こんな状況じゃなきゃ1度手合わせ願いたいものだ!」
レンと翔太が射撃を続けながら無重力のデブリ群を突っ込み、格闘を仕掛けようとする。
「ちぃ!エネルギーフィールド!!」
堪らず郷田はエネルギーフィールドを展開し、その範囲を広げる。
エネルギーフィールドは周りのデブリを次々に灰に変えながら、レンと翔太の機体に迫る。
「これはちとヤバいっス!!」
「ちッ!!」
咄嗟に反転をし離脱を試みる2人だったが、レンは脚を、翔太は右半身をエネルギーフィールドに巻き込まれ、そのまま地面に転がるように落下する。
「行けッ!!入月ーッ!!」
「今っス!!」
エネルギーフィールドが消失した瞬間に一気に間合いを詰めunknownダンガムにビームサイズで斬りかかる。
しかし、郷田もビームサーベルを両手に出現させクロスさせるようにビームサイズの一撃を食い止める。
「小賢しい真似を!!」
「こうでもしないとあんたは倒せないからな」
「この程度で倒せるなど、甘く見られたものだな!」
「ならこれはどうだ?」
ヘルゲイズをunknownダンガムの背後に回るように1回転させ、上段から斬りつけていたビームサイズをunknownダンガムのビームサーベルに引っ掛けるようにして弾き飛ばす。
「何ッ!?」
「今だ、歩美ーッ!!」
「当たって!!」
unknownダンガムの遥か真上に歩美のデュナメスヴァルキリーが超遠距離射撃で郷田のいるコクピット部分を捉え、引き金を引く。
デュナメスヴァルキリーのスナイパーライフルから放たれた閃光が、一直線にunknownダンガムに落とされる。
「やったか!?」
「残念だが、まだだ」
unknownダンガムはその翼で全身を覆い、スナイパーライフルの射撃を受け止めていた。
「なッ…!?」
射撃を全て防ぎ切り、振り向きながら翼を広げ直したunknownダンガムは既に大出力の粒子砲を撃つ構えをとっている。
「これで最後だ、入月勇志くん」
「くッ!!」
轟音と共に発射されたビーム砲が俺に目掛けて真っ直ぐ飛んでくる。
駄目だ! もう回避は間に合わない!!
最後を覚悟した瞬間、粒子砲の光で眩んだ視界に真上から影が落ちてきた。
大出力の粒子ビームがその影に当たり、爆音が辺りに響き渡る。
「勇志は… やらせない…!!」
「歩美!?」
大出力の粒子ビーム砲に機体に装備しているシールド部分を晒して防ぐ歩美だが、シールドに収まり切らない部位が徐々に融解を始め、シールドも今にも壊れてしまいそうだった。
「勇志、ありがとう… 大好きだよ… 」
遂に耐えきれなくなったシールドが吹き飛び、粒子ビームが歩美の機体を飲み込み爆発した。
「あ… 歩美いーーーッ!!!」




