顔出し中は好きにやらせていただく 5
「オペレーション『デビルズダウン』開始!!」
俺の掛け声と同時に西野のヴァーチェカスタムが前に出て、途切れることない砲撃の雨をチェストブレイク目掛け発射していく。
チェストブレイクが発射した8基のフィンネルの内、6基がヴァーチェカスタムの砲撃を避け、左右からヴァーチェカスタムを取り囲むように展開する。
俺の方には、残りの2基のフィンネルが向かってくるが敢えて撃墜せずに放置し、ヴァーチェカスタムを狙い撃とうとするフィンネルを落としにかかった。
フィンネルはロックオンした敵機の攻撃はある程度回避運動をするが、自身がロックオンしていない相手からの攻撃はほとんど回避することができない。
ワイヤーアンカーをヴァーチェカスタムの背後を取ったフィンネルに打ち込み捕獲し、そのまま振り回しヴァーチェカスタムの右側の2基を叩き落す。
アンカーに掴まれたままのフィンネルがビームを発射しようとした瞬間、ヴァーチェカスタムの左側に展開し、ビームを発射しようとしていたフィンネルに放り投げ激突させ、その衝撃でズレた砲身から放たれたビームはヴァーチェカスタムの周りに展開した別の2基のフィンネルに命中した。
これでヴァーチェカスタムに展開された6基のフィンネルすべてを破壊した。
ヴァーチェカスタムの周りに展開した6基のフィンネルを攻撃している最中、俺の方に展開された2基のフィンネルが何発かビームを射撃していたが、全て躱しながら6基のフィンネルを落としていた。
そして、自機の周りに展開していた残り2基のフィンネルは、1基が打ち込んできたビームをサーベルの側面で反射させて反対側のフィンネルに当てて落とし、ビームを打ち込んできたフィンネルはそのまま持っていたサーベルで真っ二つに切り裂いた。
「化け物か!? てめぇわァ!?」
「何、今の動き…? 動きに一切の無駄がない、まるで自分の身体を動かしているみたい… 」
「西野、油断するなフィンネルはまだ8基残っている!」
今はヴァーチェカスタムの砲撃で足止めが出来ているが、そろそろエネルギーが底を尽きそうなはずだ。
「西野、俺はこのまま真っ直ぐ突っ込むから、10秒後に俺目掛けて全火力で砲撃してくれ!」
「でも、それじゃあ勇志が!?」
「俺を信じろ! いくぞッ!!」
掛け声とほぼ同時にチェストブレイクに向かって突っ込んでいく。
「どうなっても知らないからね!」
コクピットのモニターに後方からのロックオン警報がけたたましく鳴り響く、西野が俺ごとチェストブレイクに狙いを定めた証拠だ。
チェストブレイクも伸縮自在の腕を伸ばし中距離で格闘の応戦をするが、それを紙一重で避けながら、怯むことなく真っ直ぐ突っ込んでいく。
「後ろでコソコソやってんのがバレバレなんだよ! どうせギリギリで躱すつもりだろーが… 」
「いや、躱さないよ?」
「何ッ!?」
「… 2、1 圧縮粒子完全開放、行っけぇええッ!!!」
後ろからピンク色の光が迫ってくるが、俺は回避運動は取らず、真っ直ぐチェストブレイクに突っ込んで機体に取り付
く。
そして、そのままブーストを全開にして相手後方のビルに向かってさらに突っ込み続けた。
チェストブレイクに取り付いた所で、ヴァーチェカスタムの砲撃が直撃したが、チェストブレイクのオートバリアフィールドが発動し、俺の機体のギリギリ後ろで砲撃が防がれていた。
「てめぇ! 俺のバリアフィールドの内側に潜り込んできやがったのか!?」
「そうだけど、本当の狙いはそこじゃない」
「何ッ!?」
チェストブレイクを掴んだまま、猛スピードで後方のビルに激突、爆音と共にチェストブレイクはゴフカスタムに押し潰されるように後方のビルに埋もれた。
ヴァーチェカスタムの砲撃が止み、相手の機体が動かないことを確認してから、ゆっくりとゴフカスタムを起こす。
「勇志、無事!?」
「ああ、何とかな」
「なかなか…やるじゃねぇか…」
ビルに突っ込んだチェストブレイクがゆっくりと機体を起こしてくるが、かなり損傷が激しいようで、至る所から回路が切断され火花が飛び散るエフェクトが出ている。
「いい加減ブチ切れたぜぇええ! フィンネルぅぅうッ!!」
相手は、チェストブレイクのフィンネルを発射しようとしているようだが、残念ながらもうフィンネルは発射できない。
「何だぁ!? おいぃい!? どうして出ないんだぁア!!??」
「さっき言ったろ? 本当の狙いはそこじゃないって」
「まさか…!? 最初からチェストブレイクのフィンネルパーツを狙ってたのかッ!?」
「まあ、バリアフィールドの発生パーツも破壊させてもらったけどね」
「クソッ、クソクソクソクソクソぉおおおお!!!!」
勝ち目がないことを悟ったのか、相手の機体は全く動かなくなってしまった。
パイロットの方は、かなり御乱心のようだが、マナーの悪いプレイヤーには少し痛い目を見てもらった方がいいだろう。
俺は右腕に装備しているサーベルに火を入れて、その腕を振り上げる。
「トドメだ!」
そして、振り下ろす瞬間、再びモニターにロックオン警報が表示される。
「ちッ!」
「また砲撃!? どこから?」
「西野、上だ!!」
頭上に雨のように降り注ぐ弾丸をバックステップで躱しながら、西野のヴァーチェカスタムの近くまで下がる。
チェストブレイクの目の前に立っていた俺に向かって広範囲の射撃をしてきたため、同じ場所で動けずにいたチェストブレイクは射撃に巻き込まれてダメージを負ってしまう。
「ぐぅあァアァア!!ま、待ってくれッ!俺はまだ戦える!!」
「何だ、コイツの増援じゃないのか?」
砲撃された方を見ると、漆黒の翼を広げたダンガムと紅く塗装されたダンガムベースの機体、運命の名を冠されたダンガムが真っ直ぐこちらを見下ろしながら滞空していた。
「おやおや、随分手間取っているようだから様子を見に来てみれば、まさか今にも負けそうになっているとは、情けないですねぇ~、慎くん」
「慎だっさッ! 違法パーツ詰め込んでその程度なんて、センスないんだから、このゲームやめた方がいいんじゃない!?」
「…… 弱者は消えろ」
やはり仲間… なのだろうか? しかし、どこか様子がおかしい。
新手の3機に向かって堪らず西野が口を開く。
「アンタたち、何者? 急に乱入してきて!?」
「わぁ~~!! アナタ、女の子なの? 嬉しいな~~! このゲーム、全然女の子いないんだもんっ!」
紅いダンガムが大袈裟にリアクションしている、やけに女性っぽい仕草だ。
通信の女性の声と紅い機体の動きがマッチしているため、おそらくあの紅い機体には女性が乗っているのだろう。
「まあまあ少し落ち着いてください、気持ちはわかりますが話がややこしくなりますから」
漆黒の翼を持つダンガムが紅い機体を宥めるような動作をしているから、今の敬語のやつが乗っているみたいだな。
「…… 」
運命の方は他の2人に比べて静かだな、無口なのか?
「あの~~、そろそろ私の質問に答えてもらっていいですか?」
相手の和気藹々の雰囲気に呑まれ西野も何故だか敬語になっている。
「これはこれは失礼しました、僕たちは13のチームからなる『ナイツオブジオン』が1つ、チーム『片翼の天使』の3名です、以後お見知り置きを」
「御丁寧にどうも、こちらこそよろしくお願いします」
「ちょっと勇志!? 何で普通に挨拶してるのよ!?」
冷静を装ってはいるけど、あのナイツオブジオンだぞ? この戦場の友情で1、2を争う最強ギルドじゃないか、また厄介なのに絡まれたな。
「それにしても慎くん? 負けは認めないと言ったはずだよ?」
漆黒の翼を持ったダンガムがチェストブレイクに向き直る。
「俺はまだ負けてねぇ! 今からでもコイツらを木っ端微塵に… 」
「往生際が悪い人は、僕は嫌いだな?」
漆黒の翼の機体が、損傷し動けなくなっているチェストブレイクにロングライフの標準を合わせる。
「ご苦労様、消えていいよ」
「待っ…!!」
その言葉と共に、容赦なく引き金が引かれ、チェストブレイクのコクピット部分を光の弾丸が貫き、数秒後に爆発した。




