顔出しNGで新曲作ります 3
皆さんこんにちわ、星野キアラです。
《kira☆kira》というユニットで相方の月島アキラちゃんと歌って踊れるアイドルをしています。
自分で言うのも恥ずかしいのですが、私たち《kira☆kira》は売れっ子アイドルで、国内に留まらず、世界中を飛び回って忙しい日々を送っています。
でも、私だって年頃の女の子です。普通の女子高生みたいに恋をして、駆け落ちして、人里離れた所で、お金はないけど愛する人と一緒なら苦じゃない、愛さえあれば他に何もいらない! みたいな恋愛というのは言い過ぎかもしれませんが、とにかく普通の恋愛をしたいです。
実は私には最近気になっている人がいます。それは《Godly Place》のギターボーカルのユウさんです。
ユウさんとは、とある事件以来親しくさせていただいていますが、それ以前から私はガップレのユウさんの歌声がすごく好きで、実はCDも全部持っているくらいでした。
でも、変ですよね… 私、一度もユウさんの素顔を見た事がないのに好きになってしまったのですから…
ユウさんはガップレの活動時は、顔バレしたくないから顔を隠していると言っていました。
私には何度も顔を見せようとしてくれましたが、その度に邪魔が入って結局1回もユウさんの素顔を見る事が出来ませんでした。
でも、いいんです! 私はユウさんの外見ではなく、中身が好きなのですから。
今もこうして携帯を片手に、ユウさんのメールの返事を待つ日々が、私にとって本当に幸せな時間なのです。
「キアラ~、行くよ~!」
「はーい、アキラちゃんすぐ行きまーす!」
いつもは私がアキラちゃんに待たされる側なのに、最近はアキラちゃんを待たせる事が多くなっていました。
ユウさんのメールの返信を待っていると、つい時間の感覚がおかしくなってしまいます。
さすがに遅刻はまだしていないのですが、いつそうなっても不思議じゃありません。
恋にうつつを抜かして仕事を疎かにしてはいけませんよね。きっとユウさんだってそう思うはずです。
「キアラー、またアイツとのメールで遅くなったんだろー?」
「べッ、別にそれだけのせいじゃないよ!?」
「まあいいけどさ、今日はマリーちゃんが大事な話があるって言ってたから早めに行こうぜ」
「はーい、それにしてもマリーさんが大事な話があるなんて珍しいよね、アキラちゃん何か心当たりある?」
「さあ? 特にないなー」
マリーさんというのは私たち《kira☆kira》が所属している『スターエッグプロダクション』の代表取締役社長で、とっても素敵なお兄さん…? お姉さん…?
とにかく、素敵な方です!
いつもはメールや電話で要件を伝えてくれたり、些細な事であればマネージャーを通して連絡が来るようになっているのですが、マリーさんから直々に話があると言われて呼び出しがあるのは、とても珍しいことでした。
『スターエッグプロダクション』の最上階すべてが社長専用のフロアになっておりまして、その中でも今回は仕事の時のみに使う社長室に私たちが呼ばれたので、おそらく仕事関係の話なのだと思いますが…
社長室の前に応接室があり、そこにいる秘書の方に軽くご挨拶をして、扉をノックします。
「マリーちゃーん、入るよー!」
アキラちゃんは躊躇することなく部屋の中へ入って行きました。私もアキラちゃんの後に続いて中へ入ります。
「いらっしゃ〜い、楽にしていいわよ〜ん」
「はーい」
社長室には入って1番奥に大きめのデスクがあり、ちょうど私たちとデスクの間にソファーとテーブルがあります。
私とアキラちゃんは向かって左側のソファーに並んで座りました。マリーさんもデスクから向かいのソファーに腰を落ち着かせます。
「急に呼び出してごめんなさいね、時間の方は大丈夫だったかしら?」
「今日は午後からしか予定がないので大丈夫ですよ、それでお話というのは?」
「それがねー、あなた達《kira☆kira》のギターのナツミちゃんが結婚することになって、うちを寿退社することになったのよ〜」
「へー!、おめでたいことじゃん!」
はあ… アキラちゃんは何もわかっていません。確かにおめでたいことですけど、次のコンサートが迫っているのにギタリストがいないということになります。
「ナツミさんの代わりは見つかっているんですか?」
「そっか!? もうすぐコンサートじゃんか!今すぐ新しいギタリストと合わせたとしても間に合わないんじゃないか!?」
コンサートは次の日曜日、それまでに私たち《kira☆kira》の曲を完璧に覚えて演奏できる方、何より私たち2人と息が合う方でないといけません。
「一応、うちのギタリストの女の子に声を掛けてるのだけれど、その子は次の日曜日に、ちょうど別の子のヘルプに入っていて抜けられないのよ~」
「そんな… じゃあどうするんですか? 最悪、コンサートの延期も考えなければ… 」
「それはできないわ! 次のコンサートは新曲の初披露ということでチケットを売ってるし、しかも全世界に同時中継で放送されることになっているの! だから中止だけはできないのよ〜」
「何か打つ手はないのかよ~」
新曲はユウさんが作曲してくれて、私が作詞をした曲です。
タイトルは『片道切符の片想い』
この曲は、実は私のユウさんへの想いを歌った曲で、もちろんそのことはユウさんには話していません。
だから、この曲にはすごい想い入れがあって、早く皆さんに聴いて欲しかったのですが…
あれ…? 私、すごいことを閃いてしまったかもしれません!
「あの! マリーさん?」
「どうしたの? 何かあてがあるのかしら!?」
「はい! 《Godly Place》のユウさんに頼んではどうでしょうか?」
「げッ! アイツ〜!?」
「ナイスアイディアじゃな~い! 確かにユウくんなら2人とも息ぴったりだし、私が大ファンだし文句無しね!」
最後は余計だと思いますが、マリーさんも乗り気みたいです。
アキラちゃんは口ではああ言ってますが、本当は嬉しく思っているんですよ、きっと。
もし、ユウさんと一緒にステージに立つことができたら嬉しくてまともに歌えないかもしれません!
でも、一緒に新曲を披露したいですし、キャー!! 困りましたー!
「じゃあアタシはミュージックハウスの水戸ちゃんに連絡してみるわね」
「お願いします!」
…
……
………
「ユウくん、日曜日まで貸してくれるそうよ! やったわ〜!」
「本当ですか!?」
嬉しいよ〜!! こんな幸せがあっていいのでしょうか!? 心臓がバクバクしています! ユウさんと一緒にコンサートなんて… 幸せ過ぎます!
「今日の夕方までにはここに来させるって水戸ちゃんが言ってたから、あなた達もすぐ練習できるように準備しておいてね」
「はいッ!!」
「はーい、まあ他にあてがないからしょうがねえか」
どうしましょう!? 何着ましょう?その前にお風呂に入っておかないといけませんか?
私は逸る気持ちを抑えきれず、少しスキップになりながら部屋に戻りました。




