顔出しNGの事情があるのです 4
男子バスケ部と合同で練習を始めてから1週間が経った。
入月くんは文句をいいながらだけど、ちゃんと毎日練習に参加している。
小畑くんから入月くんが男子バスケ部の助っ人をすると聞いた時、また入月くんのプレーが観れると思って凄く嬉しかった。
中学の頃、全校生徒で男子バスケ部の全国大会の応援に行ったことがあった。
そこで、同じクラスの冴えない男子の入月くんがレギュラーで出場していたのには本当に驚いた。
でも、もっと驚いたのは、彼のひとつひとつのプレーがとっても綺麗で、いつの間にかそれに見惚れている自分がいたことに気付いたことだ。
そのままチームは順調に勝ち進み、ついに決勝戦。
手に汗握るほどの接戦の中、入月くんがレイアップシュートを決めた直後、相手選手の強引なファウルにより脚を怪我し途中退場。
その後ズルズルと点差を離されてチームは敗退。
その時の光景は今でもよく覚えている。
自分がプレーしていたわけでもないのにとっても悔しくて腹が立って、居ても立っても居られず私もバスケを始めた。
べッ、別に入月くんに憧れて始めたわけじゃないのよ！？
高校生になり、私は迷わずバスケ部に入部した。
これで毎日、入月くんのプレーを近くで観ることができると思った。
けれど、入月くんはバスケ部に入部していなかった。
もう2度と入月くんのプレーを観ることができないんだとショックを受けていた時期もあったけど、まさかこんな形でまた入月くんのプレーを観ることができるなんて思ってもいなかった。
「また入月に点取られたぞ！？」
「マークしっかり付いてたのかよ！？」
「俺じゃ抑えられねぇ！ 誰か代わってくれ〜！」
入月くんは何年もバスケをしていないとは思えない程、動きにもプレーにもキレがあって上手い。
他のバスケ部員をいとも簡単にドリブルで抜いてしまい、みんな自信をなくしてしまわないか心配なくらい。
男子と一緒に練習をすることになって最初に心配だったのが女子部員たちの反応だったのだけれど、入月くんのプレーを観たら誰一人文句を言わなくなった。
むしろ、女子たちが入月くんに群がって、練習が中々進まない時があるのが少し不満かしら。
入月くんは女子に免疫がないから、あんまりベタベタされるとすぐ浮かれてしまうのよね…
その部員たちの中でも唯一、入月くんに近付こうとしない人もいる。
1年の花沢華さん。
彼女はちょっと変わった子で、まず男性が苦手。
見るのも話すのもダメで、挙動不審になってしまう。たぶん触られでもしたら気絶するんじゃないかしら。
真面目で熱心、おまけに頑張り屋さんなのだけど、男性が苦手ということがネックになり、やることなすこと上手くいかない。
練習中は男子からパスを貰うと避けてしまったり、逆に男子にパスが出せなかったりと他の部員たちとの差が露骨に出てきていて、ちょっと問題になってきている。
流石に1週間もこの調子だから、他の部員たちが少しづつ距離を置いているのが何となくわかってしまう。
本人もそれを気付いているようだけど、何も出来るわけもなく今の状況になっている。
とは言っても、1人だけ懲りずに花沢さんに話しかけている男子もいる。
今もまた話し掛けては思いっきり避けられてる。これで何度目かしら？
もう諦めればいいのに入月くん…
肩を落として俯きながら、トボトボこっちに歩いてくる。やだ、ちょっと可愛い…
「なあ委員長… 俺、そんな恐い顔してるかな～？」
今にも泣きそうな顔で私に尋ねてくる。
ちょっと！ そんな可愛い顔して私を見ないでッ！！
「い、入月くんがまた花沢さんの嫌がることでも言ったんじゃないの？」
本心を悟られまいと、ついキツイことを言ってしまった。
本当に彼の前だといつもこうで、自分が嫌になる。
私すごく感じ悪い… そんなつもりじゃないんだけどな。
「ただ、パスが上手く出来るように一緒にパス練しようぜっていっただけだし」
口を尖らせて弁解する姿も普段見られないから、なんか新鮮…
「私の方からも声を掛けておくから、そんなに気にしないで」
あの子の男性嫌いは生理的なものだから、入月くんがいくら優しくしてあげてもどうにかなるとは思えないのだけど。
あの子が原因で大きな事故とか起こらなきゃいいけど…
さて、そろそろ私も練習に戻らないと…
「はい！じゃあみんな！ 次は男女混合で、5対5に分かれて練習試合するわよ！」
「「「 うーーすッ！！」」」
「「「はーーいッ！！」」」
