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(旧)マル才  作者: 青年とおっさんの間
19/127

顔出しNGで楽曲提供 1

『スターエッグプロダクション』


この会社は主に芸能人やアイドルのプロデュースを行っている会社だ。


数々のスターを輩出しており、1番の有名どころで言えば、あの《kira☆kira》を世に送り出したことで名が知れていた。


そして今、俺はその会社の前に立っている。



「うわー… 」



会社といっても見た目はどこか良いとこのホテルや施設のような感じで、エントランスの床や壁には大理石をあしらっており、その上にはレッドカーペットがシワひとつなくキレイに敷かれていた。


何ここ、場違い過ぎる…



「そうだ、お家に帰ろう… 」



そう思って回れ右をしようとした時、入り口の自動ドアが開いて中から白いワンピースを着た女の子が小走りで出てきた。



「おはようございます、ユウさん! ようこそいらっしゃいました!」

「お、おはようキアラちゃん、そんなに息を切らしてどうしたの?」


「すみません! お見苦しい所をお見せして… そろそろユウさんがこちらへ着く時間だと思いまして、急いでお迎えに来たんです!」


そう言いながら、ピンクセミロングの髪をサッと整えるキアラ。

きっと髪の毛が乱れるのも気にせず走ってきてくれたのだろう。


すごくありがたいのだが、これでもう帰れなくなってしまったので素直に喜べない気持ちもある。



「今日は前の怖いお面じゃないんですね」



そう言ってキアラは俺のお面を間近で見回してくる。



「ああ! これか? 修理に出してたのが帰ってきたんだ、この前は本当にごめんね…」



前は自分で見ても恐ろしかったホッケーマスクの殺人鬼のお面を代わりに被っていたが、今日は以前のムンクの叫びのようなお面の修理が終わり、こちらを被って来ていた。


まあホッケーマスクのお面のお陰で、ここにいるキアラに多大なる迷惑を掛けてしまったわけで、今回その時のお詫びで楽曲を提供するという形で、こうしてここにお招きされているわけだ。



「いえいえ、そんな! ただこっちのお面の方が怖くないので助かります… それじゃあ中を案内しますね」

「お願いします」



このお面怖くないのか、でもこのムンクの叫びのようなお面も、一応は有名な映画の殺人鬼が被ってたやつなんだけど教えてあげるか?


前を歩くキアラはとっても楽しそうに施設を案内してくれている。 時折、振り向きざまに見せるその笑顔が眩しい…


ダメだ言えないッ!!


世の中には知らない方が幸せなことっていっぱいあるよね…


守りたい、この笑顔…


そう思わせるには十分な程の力があるスマイルだった。



「もー、ユウさんちゃんと聞いてますか?」

「お、おう! もちろん聞いてた、ちゃんと聞いてたよ!」



隣に並んで歩くキアラに見惚れていて、本当は半分くらい聞いてませんでした、ごめんなさい。



「ここがうちの会社の室内プールです。 その向こうがジムになっています」

「プールついてんだ、ここ…」



さっきからスターエッグプロダクション内の施設をいろいろ説明してくれているが本当にここ会社だよね?


ダンスフロア、ライブハウス、プール、ジム、映画館、などなど様々な施設があった。


キアラいわく、ミュージックビデオの撮影やグラビア撮影で使うということだがそれは表向きで、実際の所は社長の趣味ということらしい。


すげえな社長…


しかも社長が俺に会いたいから後で会いに来るとのことらしい。


個人的には会いたくないが、向こうが会いたいというなら拒む理由もない。


そんなこんなでかなりの距離を歩いて目的の場所についたが、今度来る機会があったら折り畳み自転車でも持ってこようかと思うほど、歩き疲れてしまった。



「ここが練習用のスタジオです」

「やっと… ついたか… 」



キアラはスタジオに着くなり早速この場所の説明をし始めるが、その顔には俺と違って歩き疲れた様子は見受けられない。


さすが、歌って踊れるアイドルはインドアアニメゲームオタクとは体力の桁が違うな。きっと普段から相当量の練習をしているに違いない。


この世界のトップにい続けるのは運や才能だけではなく、努力も必要不可欠だ。


こんな可愛らしい笑顔からは想像もできないが、きっとキアラも並大抵でさない努力をしているんだろう。



「では、早速中に入りましょう」



キアラに着いてスタジオの中に入ると、その部屋の広さもさることながら置かれた機材やギターのエフェクターの数に唖然とする。


さすが『スターエッグプロダクション』といえるのだろうか、練習用というのに揃えられている機材はどれも一級品ばかりだ。


この練習用スタジオが何か特別なのかと聞いてみたところ、どこの部屋の機材もほとんど同じだというのだから開いた口が塞がらない。


まあ、お面を被っているからどんな顔をしても問題ないんだけどね。


キアラに案内され、部屋の隅にある丸テーブルを中心に2人で向き合う形で座った。



「キアラちゃん、そういえばアキラはいないのか?」



《kira☆kira》の曲を作るとうからには、てっきりアキラとキアラの2人を交えてするものだと思っていたんだが、スタジオにも姿は見えなかった。



「誘ってはいたんですけど、その… ユウさんに会いたくないと言っていて… 多分こないと思います… 」

「そっか、まあ嫌われてもしょうがないことをしたしな」


「いえ! 私のためにしてくれたことですから、気にしないでないでください! アキラちゃんには私からちゃんと説明して分かって貰いますから!」

「ありがとう… でも言いづらいことだし、無理しなくていいからね?」


「でも! このままユウさんとアキラちゃんが…!!」



熱がこもっているのか、キアラは勢いよくテーブルを叩き、前のめりになって俺と至近距離で向き合う形になる。


近い近い、顔が近いッ!


ついこっちが恥ずかしくなって目をそらすと、キアラもハッとした様子になり慌てて席に座りなおした。



「あの!」

「はいッ!」



少し気不味い雰囲気になったと思ったところで、突然キアラが声をかけてくる。



「その… 私も『キアラ』と呼び捨てで呼んでくれませんか?」

「えっと… どうして?」


「アキラちゃんのことはユウさん『アキラ』って呼び捨てで呼んでいて、私は『ちゃん』付けなので… その… 」



呼び方1つなのに、凄く深刻な顔をキアラはしている。


俺には分からないが、きっとキアラにとって中々に大きな問題なのだろう。



「わかった… 次から呼び捨てで呼ぶよ」

「じゃあ早速呼んでみてください… 」


「え、今?」

「はい、お願いします!」


「キ… キアラ」

「うふふッ」



両手を頬に当てて、モジモジするキアラ。


どうして自分で言わせておいて、照れてるのだろうか?



「えっと… じゃあ早速、曲作りを始めようか?」

「はいッ!」



こうして俺たちは《kira☆kira》の曲作りに取り組み始めた。

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