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(旧)マル才  作者: 青年とおっさんの間
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顔を隠しているのが気に食わねえ 6

リサの衝撃のカミングアウトの後、会場には爆音が流れ、スクリーンには俺とリサのドラムを叩いているPV映像が交互に流されている。


「兄さんの1番弟子だって… !?」



もう何年も音信不通だった兄の名前を、まさかこんな所で、しかも《Ex 》のドラマー、リサから聞くことになるとは…



「ビックリした?」

「………… 」


「ごめんねー、戦意喪失しちゃたかな? そんなつもりはなかったんだけど、ただね… マサキくんの弟がどれだけ凄いのか、見てみたかったんだよね〜 」


「何… だって… ?」


「だからさ、マシュ? 私を… 楽しませてよ!」



そう言い残して、リサは自分のドラムセットの方へと向かって行った。



「兄さん… 」



歳の離れた兄さんの背中を追うように始めたドラム。それだけが、俺と兄さんとの繋がりだった。


兄さんに褒めてもらいたかった。認めてもらいたかった。兄さんのようになりたかった。


そんな俺の気持ちから逃げるように、兄さんは姿を消した。


わかってる。俺を面倒とか、嫌いになったわけじゃないって…


だけど、つい考えてしまう。


兄さんは…


兄さんは、本当はどう思っているんだろうと…



「マシュ〜! 早く準備しろ〜ッ!!」



ユウが向こうの方で、『早く行け』とジェスチャーを送ってくる。


そんなユウの姿が、視界の隅に入ってくれたお陰で、少し過去にタイムスリップしていた自分を現在いまに引き止めることができた。


そうだ、そうだった…


今の俺にはガップレ(みんな)がいる。


それこそが、俺のアイデンティティー。

今、俺がドラムを叩いている理由だ!


何だかわからないうちにこんな事になったが、勝負と言うからには全力でやってやるさ!


俺は自分のドラムスローンに腰を掛け、ゆっくりと肺の中の空気を全て吐き出し、全身の筋肉に火を入れた。










「お、マシュのやつ、気合い入ってんな〜」



俺は、ステージ下手側の待機席で、少し遠目から見るマシュと、中継スクリーンにドアップで映されるマシュとを見比べながら、そんな事を呟いていた。



「そう? 私にはいつもと変わらないように見えるけど… 」



隣に座っている、歩美ことガップレのミュアは、沸るマシュのオーラを感じ取れない様子だった。



「僕も、まったく違いがわからないんだけど… 」

「うむ、僕ちんも同意見ですぞ!」



どうやら、俺以外のガップレメンバーには、マシュのオーラを感じ取る能力が未開発らしい。


全く! 裏ハンター試験に合格してから、出直して来なさいっての!



「まったく、まだまだだね」

「具体的には何がいつもと違うの?」


「筋肉」

「「「は?」」」



3人の異様にシンクロ率の高い「は?」に少したじろいでしまうが、直ぐに態勢を立て直す。



「だから筋肉だってば、俺なんかおかしなこと言ってるか?」

「筋肉… ねえ?」


「えっと〜 ユウくん? 具体的にその筋肉がどう違うのか教えてくれない?」


「そうだなー… 」



何故か肩の力が抜けてしまったミュアを横目に、引き笑いのヨシヤが質問を繋ぐ。


やれやれ、1から10まで説明しないとわからないとは… 困った子たちだよ。



「マシュの筋肉をよく見てくれ、ひとつひとつの筋肉が脈動しているのがわかるだろ?」



まるで筋肉が自ら呼吸をし、心の臓に酸素を送っているかのように、マシュの筋肉それは、少しずつ鼓動を早めているようだった。



「信じられない… 筋肉のひとつひとつが生きているみたい!」

「いや、これは刷り込みだ… この僕が、まさか、そんなファンタジーな話を、ぼっ、僕は信じないんだからねッ!!」


「ふむ、あれが筋肉道の極みなのですね、マシュ氏! 僕ちんも、いつか勇子ちゃん道を極めれば、マシュ氏と同じ高みへ… 」

「ショウちゃん、うるさい、黙らっしゃい」



ショウちゃんのせいで、話が脱線しそうになるが、何とか食い止めて話を続ける。



「あそこまで筋肉の調子が上がってるのは、この前の単独アリーナライブの時以来か… 」


「まったくわからんですぞ… 」

「僕、なんか頭痛い… 」


「いや、それ以上かもしれない…!今日はすげえもんが見られるぞ〜!」



「それでは両者、向き合って!」



プロレスかボクシングのレフリーのような、赤い蝶ネクタイに黒と白の縦縞の服を着たおっさんが2人の間に立ち、交互にアイコンタクトを送る。



「レディー… ファイッ!!」

『BPM 76 』



おっさんレフリーの合図と同時に、スクリーンには曲の速度を表す、BPMが表示され、その速さのメトロノームが2小節分だけ拍を刻む。


2人は同時に、そのリズムに合わせ、残りの空白の時間を寸分の狂いなくビートを刻んでいく。


さて、最初に仕掛けるのはどちらかな?



『BPM 120』

「こんなのいかが!?」



リサが次のテンポアップの間にフィル(即興演奏)を入れてくる。


マシュのテンポを乱し、動揺させるつもりらしいが…



「悪いけど、挑発には乗らないぜ?」



マシュはリサの挑発を物ともせず、ただ正確にビートを刻み続けていた。



「これならどう!?」

『BPM 182』



ロックバンドであるリサの、専売特許とも言える速いリズムに、これでもかと細かく激しいフィルを挟み込みんで、さらに挑発を重ねる。



「くッ… 」



流石のマシュもリサの怒涛のフィル攻めに、若干の動揺の色を見せていた。



「さーて、ここからだぞ〜 マシュの本領発揮は!」

「こんな速いテンポ、ガップレの練習でもやったことないけど、マシュくん大丈夫かしら… ?」


「確かに、マシュの本来のプレイスタイルはジャズだから、スウィングや、ゴーストノートをバチバチに挟むのが得意なんだが、テンポが速くなればなるほど、当然やり難くなる」


「あーらら、じゃあそろそろ限界なんじゃない? 僕、見てられないよ」



そう言って、マシュから目を逸らすヨシヤを、俺は手振りでまあまあと宥めてから話を続ける。



「だけど、あいつはガップレのドラマーとして、ジャズばかり叩いてたわけじゃないだろ?」


「そうだった! ポップスやロック、最近では、ショウちゃんがメインで作ったメタルの曲だって叩いてたんだ!」


「その通り! そして、ガップレ唯一のメタル曲、『wake up in the new world』でマシュが使った新しい技は… 」

「「ダブルベースドラム!!」」


「そう、略して『ツーバス』だ」



ミュア、ヨシヤ、ショウちゃんの声が大きくシンクロする。


『wake up in the new world』で、マシュが見せたテクニックは、ドラムのことにあまり関心のないミュアを始め、多くのファンから絶賛されたものだった。


ダブルベースドラムは、足元の1番大きなベースドラムを2つセットし、本来、1つのベースドラムでは対応できない連打を可能にするものだ。だが…



「でも、マシュくん、今日のセッティングはワンバスじゃないの?」

「そう、その通り」



マシュの通常時のドラムセットは、シングルベースドラム、所謂、ワンバスというやつだ。


ツーバスのセッティングでは、どうしてもその大きさ故に、ドラムをセッティングする場所の広さが求められる。


そして、またその大きさのため、ワンバスのセッティングに比べて、タムやシンバルなども普段と同じ場所にはセッティングできない。


そうなると、やはり叩き方やアプローチが少なからず変わってしまう。


だから、マシュは 『wake up in the new world』の練習や披露が終わった後は、またワンバスのドラムセットに戻していた。



「じゃあ、ツーバス使えないじゃん!どーすんのさ?」


「ヨシヤ氏、何も連打はツーバスでないと出来ないものではないのですぞ?」



流石、メタラーのショウちゃんは、とっくにわかっていたようだ。



「ワンバスでも、まるでツーバスのように連打する方法があるとしたら?」

「そんなスゴい方法があるの!?」


「正確には“方法”じゃなくて、“道具”なんだけどね」

「それは?」


「ツインペダル」


本体側に2つのビーター(ドラムを叩く棒)がセットされていて、もう一方のペダルとシャフトで繋がっているものだ。


これにより、ベースドラムが1つしかない場合でも、限りなくツーバスの感覚に近い演奏が可能となるわけだ。



「それとマシュの筋肉マッスルパワーが加わると… 」

「およ、そろそろマシュ氏が仕掛けるようですぞ!」


「まあ、実際見た方が早いだろ」



そう言って、俺の方へと視線を向けていたミュアとヨシヤへ、マシュの方を見るようにと、顎をクイクイっと動かして視線を誘導する。



『BPM 250』

《ズドドドドドドドドドドド!!!》



BPMが読み上げられた瞬間、マシュがものすごいスピードとパワーで、その両足を2つのフットペダルに、交互に押し付け始めた。



「んなーッ! 何てもんを使うのよ、アンタ!?」



流石のリサも予想していなかったのか、マシュのツインペダルの連打に変な声を上げている。



「 両足で安定してリズムを取れる分、両腕は自由にフィルを入れることが出来るわけだ。さあ見せてくれ、マシュ! お前の筋肉マッスルパワーを!!!」


「聞いてないわよ!? マシュがツインペダル使うなんてーッ!?」


「行くぜリサ!! これが俺の必殺技! 筋肉マッスルビィーーーートッ!!!」


《ズドドドドドドドドドドド!!!》


「はッ、激しいぃ!? ダメっ… こんなの…!!」



マシュの必殺筋肉マッスルビートの圧力にリサのリズムが崩れゆく。



《カンカンカンカン!!!》



ゴングがけたたましく鳴り響き、第1ラウンドの勝者を告げる。



「第1ラウンド、勝者! ガップレ〜、マーーシュッ!!!」

「「「うぉおおおお!!!」」」


「やった!」

「やりましたぞ!」

「よし!」


「やったなマシュ! けど、まだ油断はできないぜ… 」



俺はステージの反対側で、未だ余裕の表情を見せるレオンの顔を見ながら、異様な空気を肌で感じていた。

新感覚、ミュージックバトル系ラノベ爆誕!w

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