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(旧)マル才  作者: 青年とおっさんの間
126/127

顔を隠しているのが気に食わねえ 5


「それでは早速、始めて行きたいと思いますッ! 《Ex 》vs《Godly Place》Music Battle !!」

「「ワーーーーッ!!!」」



大歓声と共にミュージックバトルの幕が上がる。


音楽対決のルールは至ってシンプルで、イクスとガップレのメンバーそれぞれが、自分の担当の楽器同士で競い合うという、ただそれだけのことなのだが、そもそもなぜ、イクスと俺たちが音楽対決をしなければならないのか?


もちろん、レオンが言っていた『借りを返しに来た』という話も、全くこれっぽっちも身に覚えがない。


『まさか… 俺のことを忘れたなんて言わないよな? 『入月勇志』…』

『そういうところ、昔から全然変わらないのな?』


レオンは確かに、俺のことをガップレのユウではなく、入月勇志として知っていた…


それは、ごく一部の人間以外、誰も知ることのない真実…


レオンは過去の俺の事を知っている。それは紛れもない事実…


それはつまり、俺は間違いなくレオンを知っているという事実でもあるのだが…


あー、ダメだーッ! 全く、これっぽっちも思い出せない!!



「ほんと、どうしてこうなったんだ… 」



思えば、家での大和撫子何ちゃらに始まり、水戸さんからの急な呼び出しで、事務所に行けば、「先程、《Ex 》から戦線布告をされたわ… 」とか言われて、トントン拍子で話が進み、白黒つけるために、生放送で音楽対決をする羽目になっていた。


ていうか、借りだか何だかんだ知らんが、わざわざメディアと、こんな大勢の人たちを巻き込んでするか、普通!?


あーッ!! 色々考えてたら、だんだん腹が立ってきた…!


もう、こうなったら全米ナンバーワンだろうが、全力で叩き潰してくれるわッ!



「かかってこいやッ!!」



俺は、これでもかと自分の顎をシャクって、イクスのレオンを挑発するが、もちろんお面の下でのことなので、全力のアントニオ猪吉の顔真似も無意味に終わってしまった。


まあしかし、気合いは入った!



「おぉ! ユウからやる気がみなぎってる!? 俺も負けていられないな!」



どういうことだか、俺のみなぎるやる気を感じ取ったマシュが、ボディービルダーがするような決めポーズを、次々と繰り出し始めた。



「はぁーッ! ふんッ! ふーんッ!!」

「ちょっと! マシュ!? ここはマッスルコンテストじゃないんだから! 暑苦しいし、むさ苦しいし、気持ち悪いからやめてよ!!」



マシュがポーズを繰り出す度に、少しづつマシュから距離を取るヨシヤ。



「ショウちゃんからも何か言ってあげてよ!?」

「うむ… 」



マシュから距離を取れば取るほど、反対側のショウちゃんとの距離が狭まり、なくなく救援要請を出すヨシヤだが…



「間違いなく、勇子ちゃんはピンクも似合いますぞ。何て罪深い子なのですかッ!?」


「だっ、ダメだ… ショウちゃんの頭の中は、9割くらい、勇子ちゃんになってる… うん、これはもう救いようがないな」


「ふんんッ! 見よ! この肉体美をッ!!」


「おい、マシュ? お前、キャラ設定おかしくなってんぞ? せっかくいい具合に気合い入ってたのに〜!」


「はぁ… 大丈夫かしら、こんなメンバーで… 」



この緊張感のかけらもない異様な光景を見れば、ミュアの苦悩もわかるが、俺たちなら大丈夫だ、問題ない。 何となくだけど…



「くッ…!あいつら舐めやがって…!」



そんなガップレの様子を見ながら、レオンのやつがどんどん苛立っているのがわかる。


ふっ… こんなことで腹を立てていたら、この先身がもたないだろうよ。


こんなの俺たちからすれば、まだまだ序口なんだぜ?


何となく、マウントの取り方がおかしい気もするが、気を取り直して行ってみよーう!



「では、まず最初はドラム対決ッ!!」



MCの掛け声と同時に、薄明かりだったステージが、一斉に昼間の輝きを取り戻し、その全貌が明らかになっていく。


俺たちが立つステージの中央には、先程と同じように巨大なスクリーンが設置されていて、その前には、一際目を引くものが2つ、向かい合うようにセッティングされていた。



「あ、俺のドラム… 」



まるで、生き別れた恋人を見つけたように、マシュがボソッと呟く。


マシュが言った通り、ステージの下手側のドラムは、俺たちガップレには見慣れたもので、普段からマシュこと真純が愛用しているドラムセットだった。


マシュのこだわりで、スネアからバスドラム、タム、シンバルの一つ一つ、フットペダルの踏み具合まで、その全てを自分でオーダーメイドして組み上げた、世界に1つだけのドラムセットだ。


バスドラムの外側には、ガップレの頭文字である《GP》が大きく刻まれている。



「ああ… 何てこった…! 」



マシュが体を震わせながら、食い入るように自分のドラムセットを見つめる。


マシュ、お前の気持ちもよくわかるよ… 自分で運んだわけでも、運搬の許可を出したわけでないのに、こんな出来レースで自分の愛用のドラムが持ち運ばれていたら、誰だって怒るさ… 普通。



「やっぱり、俺のドラムって、めちゃくちゃカッコいいんだな!」

「えッ?そこ!?」


「なあ、ユウもそう思うだろッ!?」

「うん、ちょっとよく分からない… 」


「お前なら、この良さを分かってくれると思ったのに〜ッ!」



うん、心配して損したよ。


マシュのドラムセットに対して、上手側のドラムは、全てが真っ赤に塗装されていて、これだけ見れば1つの芸術作品のような気さえしてくる程だ。


この真っ赤なドラムセットの持ち主は、同じ真紅の髪をした《Ex 》ドラムのリサで、これもマシュと同じく、リサが普段から使っているやつらしい。


あんなデカブツを、わざわざアメリカから運んできたと言うのだから、開いた口が塞がらない。



「それではドラム対決のルールを説明します… 」



それぞれのバンドのドラマーが、技術と技をぶつけ合うドラム対決。


第1ラウンドは『テンポキープ対決』


テンポとは、拍の時間の長さで、簡単に言えば『スピード』だ。


2人は同時にドラムを叩き、一定の間隔で変わっていくテンポに合わせて、いかにテンポを崩す事なくドラムを叩き続けられるか? という勝負らしい。


ドラマーにとってテンポキープは基本であり、最も重要なことの1つだ。


どんなに派手で、フィル(即興的な演奏)が豊富でも、テンポキープが出来ないと、バンド全体が締まらなくなってしまう。


つまりこの勝負は、単純に2人のドラマーとしての技量を計るもの、ということなのだろう。


俺個人としては、人と比べることは好きではないのだが、マシュがドラマーとして、どれ程のレベルまで上がったのか、というのはすごく興味があった。



「それではイクスのリサさん、ガップレのマシュさん、準備をお願いします」

「はい、お願いしま〜す」


「よしッ、じゃあ行ってくる」



MCの呼び掛けを受けると、マシュはガップレのメンバーに順番に目配りしてから軽く頷いた。



「マシュくん、頑張ってね!」

「いってらっしゃい」

「マシュ氏なら勝てますぞ!」



メンバーそれぞれがマシュにエールを送る。


俺も何かマシュに言ってやらないとな…



「マシュ!」

「ん?」


「楽しんでこい!」



咄嗟に口から出た言葉は、エールとは程遠い一言だったが、今まで苦楽を共にしてきた俺とマシュにとって、その言葉は他のどんな言葉よりも力強く、ありのままの自分をぶつける事の出来る魔法の言葉だった。



「おう、任しとけ!」



俺の一言に、少し驚いたような仕草を見せたマシュだったが、直ぐに冷静さを取り戻して、ステージ中央へと向かって行った。



「《Ex 》リサ! 《Godly Place》マシュ! 両者向き合って!!」



ステージの中央で互いに向かい合う両者、これから始まる熾烈な戦いを前に静まる会場。


そんな中、今まで沈黙を守ってきた《Ex 》のリサが徐ろに口を開いた。



「ハーイ!マシュ、会いたかったわ」

「こちらこそ、まさか天下のイクスのドラマー、リサに会えるなんて光栄だよ」


「そう? 私はずっと前から、あなたのこと知ってたわよ?」

「え?」


「私はね、あなたのお兄さん。プロドラマーの『林田 正樹』の1番弟子なのよ… 」

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