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(旧)マル才  作者: 青年とおっさんの間
124/127

顔を隠してるのが気に食わねえ 3

しれっと投稿

「皆さんこんばんわ、さて今夜のミュージックスタジオは一部放送を差し替え、緊急生放送でお送りしています」


「ねぇ? 今まで随分長くこの番組のMCをやって来たけど、まさかこんなことがあるなんて、ねぇ?」



いつも飄々としている大物司会者も、今回ばかりは険しい表情をしていることが、黒いサングラス越しにもわかるほど、今の状況が前代未聞だということが伺える。



その司会者と女性アナウンサーの隣には、何故か俺たち《Godly Place》のメンバー5人がこれまた神妙な顔つきで立ち並んでいた。



「それではお呼びいたしましょう! 遥々アメリカから来日した、オルタナティヴロックバンド《Ex》(イクス)の皆さんですッ!!』



アナウンサーの合図と同時にスタジオ全体の照明が落とされ、数秒間の静寂に包まれる。


次の瞬間、恒例のBGMとは違って、これでもかと歪ませたギターのハードなリフとデスボイスの大袈裟なBGMが流れ出すと、これもまた大袈裟な真紅の照明がスタジオを覆い、その中を縦横無尽に緑のレーザーポインターが駆け回った。



「うわ〜… 悪趣味にも程があるよ… 」



俺の隣に立っているヨシヤも、滅多なことでは引いたりしないのに、今回ばかりは顔が引きつっている。


それはどうやらヨシヤだけではなく、俺を含めた《Godly Place》のメンバー全員が同じことを考えているようだった。


そんな俺たちを他所に、大歓声を受けてステージ中央の階段から4人の男女がまるで自分たちの姿を見せ付けるように、ゆっくりと階段を降りて来ていた。



「ねえユウ、本当にやるの?」



ヨシヤとは反対側にいるミュアが、俺にだけ聞こえるように耳元で話し掛けてきた。



「俺だって不本意だが、こうなったらもう俺たちにはどうしようもできないだろ?」

「だけど…!」


「「「ワッーーー!!!」」」



俺とミュアの会話を遮るように、スタジオ内の歓声が一段と大きくなる。


見ると、既に階段を降りきった4人の内の1人で、金髪でツンツン頭ののイケメンが観客に向かって両手で『もっともっと』と煽るようなジェスチャーを送っているところだった。



「あの… えっと〜… 」



勿論、その煽り行為は予定されていなかったことで、いきなり自由に行動し始める《Ex》の金髪にアナウンサーも、一体どのタイミングでMCをすればいいか困っている様子だった。


そして、金髪ツンツン頭のイケメンはしばらく煽り行為を続けると、満足したのかニヤリと笑みを浮かべた後に困惑しているアナウンサーからハンドマイクを奪い取り大声で話し始めた。



「よう、ジャパニーズ!! お前らは本当に幸せ者だぜ。何せこんなに近くで俺たち《Ex》を見られるんだからなッ!!」


「「「ワーーーーッ!!!」」」



大物ロックバンドにありがちな超上から目線のMCを受けて、観客たちは一斉に湧き上がった。



「信じられない… あんなこと言われてどうして歓声が起こるのかしら…?」


「あれはね、ヘビーやパンク、メタルとかに有りがちなパフォーマンスなんだよ」



全く訳がわからないという顔をしたミュアからの質問に、ヨシヤが俺の隣から身を乗り出すようにして答えた。


ヨシヤの言う通り、その手のバンドのライブでは良くある観客への煽り文句だが、そのノリを知らない人達にとっては、ミュアのように疑問を持つのは当然のことなのだろう。


俺自身、そういった音楽は嫌いではないが、どうも《Ex》のようなパフォーマンスは好きになれなかった。


しかし、こうして観客が黄色い声援で応えているということは、日本でも広くこの《Ex》というバンドと、そのノリが浸透している証拠なのだろう。



「「「ワーーーッ!!!」」」



《Ex》の金髪が一言一言喋る度に、スタジオ全体がまるで水を得た魚のように大きく騒めく。


それは今まで俺たち《Godly Place》が体験したことのない、桁違いな迫力のオーディエンスだった。



「そっ、それではここでシンフォニックパンクバンド《Ex》の紹介をさせていただきたいと思います…!」

「そーだね、それがいいと思いまーす」



何とか冷静さを取り戻しつつあるアナウンサーが、隣にいる司会者のハンドマイクに相乗りするようにして番組を進行させる。


今度はアナウンサーの間髪入れさせない《Ex》というバンドの怒涛のバイオグラフィー紹介に突入した。



《Ex》(イクス)…


アメリカを中心に活躍するオルタナティヴロックバンド。


Vo. Gt. レオン

Gt. ソフィア

Ba. ジョー

Dr. リサ


以上の4人で構成される。


向こうでは超一流しか入れないと有名なレーベル付きの音楽学校出身で、それぞれの楽器の腕前はプロといっても謙遜ない程だ。


そして凄いのは《Ex》の曲だ。


有名な作曲家たちが彼らに曲を提供していることもあって、どの曲も流行やニーズをよく取り入れている。


オルタナティヴロックという人を選ぶ音楽も《Ex》にかかれば、ポップスにも負けじと劣らない大衆受けする音楽になってしまう。


現に、彼らはデビューして間も無く、ビルボードランキングで全米NO1に輝いたほどだった。



「そして… 《Ex》の結成秘話を映像でまとめましたので、そちらをご覧くださ…「そんなもんはどうでもいい!」



アナウンサーが続けて《Ex》のVTRを流すためのフリを話し終える直前、《Ex》のVo.レオンから待ったが掛かった。



「どうして俺たちが、わざわざアメリカから日本へ来たのか分かるか?」

「いっ… いえ… 」



またしても打ち合わせにない言動と、高圧的な態度に、アナウンサーも動揺が隠しきれず、あたふたしてしまっている。


いつもミュージックスタジオの番組外で、「よろしくお願いします」と満面の笑みで挨拶してくれるアナウンサーを、この金髪イケメンが苦しめているのだと思うと、沸々と怒りが込み上げてくる気がする。


俺がそれとなくお面の下から威嚇光線を出していると、金髪イケメンはそれに気付いたのか、こちらに不敵な笑みを見せつけながら話を続けた。



「俺たちは《Ex》はな… こいつら《Godly Place》に借りを返しに来ただけだッ!!」


「「「ウォーーーーッ!!!」」」



先程まで空気のような存在だった俺たちガップレに、スポットライトがこれでもかと強く照らしつける。



右手で光を遮るようにしながら何とか見えた景色は、《Ex》の発言に沸くオーディエンスと、それを背に不敵に笑うレオンの姿だった。



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