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(旧)マル才  作者: 青年とおっさんの間
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顔を隠してるのが気に食わねえ! 1

「えっと、『無事に隅の席を確保した』送信っと… 」



携帯で歩美にメールを送り、窓の外から駅前の交差点の景色をぼんやりと眺める。


今日は、歩美と2人でガップレについての話し合いと、俺の宿題を見てもらうことになっていた。


歩美となら俺の家で会えばいいのだが、今日はこの後家で何かあるらしく、まるで虫でも払うように妹の愛美に家から追い出されてしまった。


しかし、歩美とはホテルの女風呂で水戸さんの魔の手から助けてもらって以来、何となく俺の方だけ気不味い雰囲気になっていたし、家でその話題は話辛かったので、そういう意味では好都合だったのかもしれない。



「ごめーん勇志、待った!?」



相変わらずの黒縁眼鏡にぱっつんの黒髪を揺らしながら歩美が喫茶店の入り口から真っ直ぐ少し急ぎながらこちらに向かって歩いてきた。



「そんなに待ってないよ、歩美はいつもと同じで紅茶でいい?」

「うん、でも今日はちょっと走って来て、汗掻いちゃったから、アイスティーにする」


「了解」



頭の位置まで左手をあげて店員さんを呼び、アイスティーとカフェオレを注文する。


その間、机を挟んで向かい側に座った歩美が、シャツの首元の襟を指で摘み、パタパタと中に空気を送っている仕草が目に入り、急いで視線を店員さんに向け直す。


後もう少しで、胸の谷間… いや、ブラジ… いかん! 邪念が!!



「悔しいけど、僕も男なんだな… 」

「どうしたの? 勇志」


「いや、何でもない… それより、歩美が走って来るなんて珍しいな、何かあった?」



未だに胸元をパタパタしている歩美を見ないようにしながら、遅れて来た理由を問い掛けると、やっと胸元に空気を送るのをやめた歩美が口を開いた。



「ちょっと水戸さんからの呼び出しで、事務所に寄って来たの」


「最近多いな、またどっかの雑誌の編集者の人か?」


「ううん、今回は映画会社の人とかで、何でも今度の映画の主役をミュアさんにやっていただけないか?って話」


「はあ〜、凄いな… それで?」


「もちろん丁重にお断りしたわよ! 全く、私のことを何だと思ってるのかしら!? アイドルじゃないんだから、グラビアとか映画とかに出るわけないじゃない! それに… 」



ここ最近メディアの露出が増えたからか、ミュアこと歩美に対して雑誌のグラビアやら、テレビのバラエティー番組やらの出演オファーが絶えず社長兼マネージャーの水戸さんのところに来ているらしいが、歩美はそれら全て断っていた。


歩美が言うには、音楽活動以外はする気がなく、ましてやGodly Placeとしてでなく、ミュア単体に仕事を依頼してくるのが気にいらないらしい。


俺を含め他のメンバーも水戸さんも、歩美の個人活動はむしろ応援するスタンスだが、当の本人が首を縦に振らないことには始まらないわけだ。


もし今後、音楽活動も含めて歩美がソロで活動するようになれば、俺との約束も果たされたことになるのだろうか?


希望の歌を歌わせる最高の舞台を用意するという約束、そして哀しみに暮れる歩美を綺麗だと思ってしまった自分の贖罪…



「ーー ねぇ! 勇志、ちゃんと聞いてるの!?」

「え!? も、もちろん! 聞いてたよ? それで?」


「それで? じゃなくて、勇志は私にどうしてほしいのかって聞いてるの!」



少し考え過ぎてしまったようで、歩美に名前を呼ばれて我に返ったが、歩美の話を半分も聞いてなかった。



「あー… えっと、何を?」

「もう! やっぱり聞いてないじゃない!?」


「ごめんごめん、ちょっと考えごとしてて… 」

「もう! 私が映画でどこの誰かも分からない人とキスしてもいいわけ!?」


「いや、それは嫌だ!」

「そ… そんなにはっきり言ってくれるんだ… 」


「え、何だって?」

「ううん別に! それより考えごとって?」



俯いて、モゴモゴ何かを言ったと思ったら、勢いよく頭を横に振って話題を変える。



「いや、その… 歩美の胸がまた成長したんじゃないかと… 」


「ちょっと!? どこ見てるのよッ!?」

「すまん、つい… な」



一瞬で自分の胸を両腕で隠した歩美が、顔を赤らめながら俺に怒り出す。


こう言う時の誤魔化し方は長年の付き合いで、よく心得ていた。



「もう! 勇志は目の前に胸があったら何でも良いわけ!? 私の胸… ならともかく、他の人の胸とか食い入るように見つめたらダメなんだからね! それに勇志はいつも… 」



しばらく、俺へのお説教が終われば、後に引っ張ることはない。それは安心していい。


だけど、俺の頭からキアラとのことが離れない。


キアラのそれでも俺を待ち続けると言った時の顔が、脳裏に焼き付いて離れてくれないんだ。


歩美との約束に縛られているとさえ思えてしまうほどに…



「ねえ、そろそろ家に帰らなくていいの?」

「家に?」



歩美のいきなりの話題転換に驚き、思わず聞き返してまう。そんなに直ぐに家に帰る予定などないはずだが…



「愛美ちゃんから聞いてないの?」

「何を…?」



意外そうな顔をして歩美が話を続ける。



「今日、これから勇志の家で文化祭のとき延期になった『大和撫子選手権』を開催するってこと」

「はあーッ!?」



俺は思わずその場で大声を出して立ち上がってしまった。


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