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(旧)マル才  作者: 青年とおっさんの間
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顔を隠して尻隠さず 5

男なら誰しもが一度は夢見た秘密の花園、女湯。


男として生を受けた瞬間から、入る事は許されない絶対男子不可侵領域、それが女湯。


男湯に入る度に、たった壁一枚隔てた向こう側ではあるが、一生知り得ることのない世界だと思っていた。


そう今、この瞬間までは…



「ほら、何やってんの!? 早く服脱いで、風呂入るわよ!」

「いやです〜! やめてくださいッ!」



今まさに、秘密の花園である女湯の脱衣場で、ガップレのマネージャーである水戸さんに半ば無理やり着ている服を剥ぎ取られようとするのを必死に堪えてる俺がいた。


さて、ここで疑問に思うのは、何故俺が女湯の脱衣場にいて、尚且つ水戸さんに服を脱がされようとしているのかということだろう。


安心してくれ、俺もよく分からない。


つい先程、俺と真純と義也で仲良く温泉に入っていたまでは良かったんだが、温泉から上がってみて、あらびっくり。


何と、俺の着替えが何者かの手によってメイド服と女性用の下着とおまけにカツラまで付けて、全て変えられてしまっていたのだ。


誰かというのは言うまでもないと思うが、真純と義也にまで見放された俺は、裸で廊下をうろつく訳にもいかず、意を決してメイド服に着替えて、廊下の様子を探っていたところで一番厄介な人に捕まってしまった。


それが今、俺の服を取っ払おうとしている人物、ガップレのマネージャーの水戸さんこと『水戸沙都子』だ。



「ほら! いい加減にしなさいよッ!!」

「いい加減にするのはそっちです! ちょっ…!? どこ触ってるんですかッ!?」


「なーに照れてんのよ? いーじゃない、女同士なんだから!」

「だ、ダメですってばぁ〜…!」



水戸さんはメイド服を着た俺のことを『女の子』だと勘違いしているのは間違いないのだが、何故だか女湯の脱衣場まで連れ込まれて、こんなことになっていた。


この人は一体何がしたいんだ!? それにどうして俺に気付かないんだ!?


確かに、俺も水戸さんに見つかったとき、咄嗟に裏声を使って女の子っぽく誤魔化した。


だって、水戸さんにバレたら面倒くさいだろ? それに女装してるなんて思われたくなかったし…


だけど、こんなことになるなら最初からカミングアウトしておけば良かった…


もし、このまま俺がカミングアウトしようがしまいが、そのうち男であることがバレて、女装して女湯に入った変態として、一生罵られて生きていくんだ。



「隙ありッ!!」

「あッ!!」



色々と余計なことを考えていた一瞬の隙を突かれ、水戸さんにメイド服を脱がされてしまい、反射的に蹲まる。


ああ… 終わった… 何もかも…


そう思いながら、ゆっくり目を開けて水戸さんの方を見ると、何やら申し訳なさそうな顔をしていた。



「えっと… 意外にあなた貧乳なのね、それに中々にガタイがいいというか… 」

「こ… コンプレックスなんですッ!!」


「そ、そうなの…!? やだわ、ごめんなさい。じゃあ、これ使って」



そう言って渡されたのは、胸のあたりから膝の上くらいまでの大きなバスタオルだった。



「ほら! 私、あっち向いてるから早く下着脱いで」



へ? もしかして、バレてない?


どうやら俺が女性用のキャミソールとパンツを履いていたことで、何とか気付かれないで済んだみたいだ。


下着、ちゃんと着けてて良かったな…





… って、良くないわッ!!

危うく翔ちゃんに感謝するところだったわ!


覚えてろよ、翔ちゃん… 目にもの見せてくれるわ!!


ん? 待てよ…

水戸さんは今、俺から目を離し反対側を向いている…


そして、出口は俺の背後、約15メートル…

逃げるなら今しかない!!


俺は出口に向かってクラウチングスタートの体勢を取り、まさに今、駆け出そうとしたその瞬間、とんでもない事実に気付いてしまう。


俺は今、下着姿だった…!!


そしてメイド服は、何故か反対側を向いている水戸さんが大事そうに両手で抱えている。


だ、ダメだ…

このまま、メイド服なしの女性用下着姿で廊下に出たら、変態をリミットブレイクして究極の変態になってしまう!


最初から退路は塞がれていたという訳か!?


そこまで計算された上で、こうして俺に背中を向けているということなのか、この人は…!?


くッ… このまま全て、水戸さんの思い通りにさせていいのか?


いや、良いはずがない! ならば!!


その時、俺は躊躇わず服を脱ぎ捨て、水戸さんが用意した大きめのバスタオルを胸のあたりから、しっかりと身体に巻き付け固定した。



「お待たせ… しました!」

「よし、じゃあ一緒にお風呂入りましょうか! ちょっと待っててね、直ぐに脱ぐから」



そう言うと、水戸さんはまるで男子が乱雑に服を脱ぐように浴衣を脱ぐと、直ぐにブラジャーのホックを外そうと後ろに手を掛け始めていた。



「わわわわ!? ちょっと、いきなりそんな!?」



急いで顔を背けて、水戸さんを見ないようにするが、隣で女の人が自ら服を脱いでいるというシチュエーションと、微かに聞こえてくる音だけでも、健全な男子高校生には十分すぎるほど刺激が強い。



「何おかしな事言ってんのよ。さっ、お風呂行くわよ!」



そう言ったかと思うと、さっと俺の手を掴み風呂場の方へと連れていかれてしまった。



誰かいたら不味いと思いながら恐る恐る目を開けると、幸いにも風呂場に他の客はいないようで、俺は水戸さんに見えないようにそっと胸をなでおろした。



「あら、私たちの貸切ね!」

「ええ、そうみたいですね… 本当に良かった… 」


「なんか言った?」

「いえ! 何でないですッ!!」


「そお、じゃあ早速、湯船に入りましょうか!」



そう言ってヅカヅカと露天風呂の中央へと入っていく水戸さんを追いかけるように、俺も湯船に入る。


本来ならバスタオルを巻いたまま湯船に入ることは厳禁だが、今回だけはそうは言っていられない。


この絶対防衛ラインであるバスタオルを破られたら、俺は女装して女湯に入った変態になってしまうのだからな! 何としてでも死守しなければ!! ATフィールド全開ッ!!



「ふぅ〜… いい湯だわ〜!あら? あなた、湯船の中までタオル巻いているのね」

「お気に障るようでしたら今すぐ出て行きますけど…?」


「別に全然気にしてないわよ。ただちょっと不思議に思っただけ」



ちょっとは気にしてください、お願いしますから!!



「自己紹介が遅れたわね、私は水戸沙都子、よろしくね。あなたの名前は?」


「えっと、め… 冥土メイド 勇子ユウコです… 」



不味い! 咄嗟だったから、変な名前になってしまったーッ!!



「随分変わった名前ね、まあいいわ!」



いいんですかい!? あぶねー、危うくバレるかと思った…



「ねぇ、早速だけどあなた、アイドルに興味…」

「ありません」


「ちょっと〜、最期までちゃんと聞いてから言いなさいよー!」

「聞かなくても分かります」


「私ね〜、実はあのGodly Placeが所属している事務所の社長兼、マネージャーをしてるのよー!」

「へぇー」


「ちょっと… 反応薄いわね、普通もう少し驚かない?」

「…… Godly Placeって、あのガップレですか!? すごーい! 信じられなーい!」


「そうでしょう、そうでしょう! それが普通の反応よね!」



俺、全部知ってますからね、水戸さん…



「まあ、そんな私があなたをプロデュースするんだから、大船に乗ったつもりで結構だからね!」

「勝手に決めないでくださいッ!!」


「ちッ、駄目か… 」

「今、舌打ちしましたよね? 絶対舌打ちしましたよね!?」



くっ… このまま水戸さんのペースに飲まれちゃ駄目だ!


いつの間にか気付かないうちにアイドルデビューなんてさせられてしまったら一生の恥、いや、一生の変態だ。


ここはひとつ話題を変えて、気を逸らす作戦だ!



「あの… 水戸さんがGodly Placeをプロデュースしようと思ったのはどうしてなんですか?」


「え? そうね〜… 話すと長くなるけど、聞きたい?」

「聞きたいです! すごーく聞きたい!」


「わかったわかった、だから落ち着きなさい」



水戸さんはそう言ってから、Godly Placeとの出会いを話し始めた。

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