顔出しNGの休日 1
「待ち合わせ10分前に到着っと…」
最寄駅前の棒人間が2体寄りかかったような変な銅像の前に、待ち合わせの時間前に到着した俺は、同じく待ち人であろう多くの人や、通行人で賑わうロータリーを見て溜息を吐いた。
どうしていつも駅前の待ち合わせスポットはこう人が多いのだろうか。
「何でわざわざ人が多い駅前で待ち合わせなのかねぇ?」
これから来る待ち人の文句を1人呟きながら、待つこと以外にやる事もなく、ビルが立ち並ぶ駅前の通りをぼんやり眺めることにした。
ガップレの活動以外で、私服で尚且つお洒落までして外に出るなんていつ以来だろうか?
ゲーセンに行くのも基本学校帰りだし、休みの日にわざわざ外に出たくないため、買い物やら用事は学校帰りにすべて済ませるようにしていた。
そう、何を隠そう俺は部屋に引きこもってアニメやゲームをするのが生き甲斐なのである。
駅のロータリーから交差点を挟んで向かいにある大型の街頭スクリーンでは、
《Godly Place》ファーストアルバム NOW ON SALE とデカデカとコマーシャルが流れている。
その後には《kira☆kira》という2人組の女の子アイドルユニットのコマーシャルも流れてるので、音楽関係の宣伝用スクリーンなのだろう。
駅前にいる手持ち無沙汰の待ち人たちが、あの大型スクリーンをつい見てしまうため、宣伝効果は抜群だろう。
現に俺も、こうしてスクリーンに見入っているわけだしな。
先程からコマーシャルが流れている《kira☆kira》は『月島アキラ』と『星野キアラ』という女の子2人組の歌って踊れる、今をときめくアイドルユニットだ。
その人気は凄まじいもので、2人が一度テレビに出れば、歴代の視聴率を簡単に更新してしまうし、CDを出せば、あっという間にミリオンセラーになるほどで、今や日本を飛び出して世界中で活躍しているらしい。
《kira☆kira》の2人とは以前、音楽番組に出たときに何度か見たことがあって、収録後に挨拶をしたのだが、俺のお面の所為なのか、キアラの方には凄く怖がられ、アキラには「キアラに近寄るな!」とか何とか言われて散々な目にあった。
やはりアイドルというものは、テレビ越しに見るくらいが丁度いいんだよ、きっと…
「勇志、お待たせ! 待った?」
アイドルの在り方について考えているうちに俺の待ち人が来たようだ。
「おはよう歩美、大丈夫、俺も今来たところだよ」
と、お決まりのセリフを言いながら向き直ると、そこにはセミロングの黒髪をポーニーテールにして、動き易いショートパンツに足元はスニーカー、顔はバレないように黒縁の大きいメガネをかけた歩美が嬉しそうに俺を見上げていた。
いつも見慣れているはずだが、今日は少し雰囲気が違い、改めて歩美の可愛さにドキっとしてしまい、つい目をそらしてしまう。
「よろしい、ちゃんと待ち合わせの時間前に来てたのね」
「歩美に言われた通り10分前に着くように家を出て来たよ」
「偉い偉い、よく出来ました」
今日は、この前の委員長の件での埋め合わせとして、1日歩美の買い物に付き合うことになっていた。 もちろん会計は俺持ちで…
ただ買い物に付き合うだけならいいのだが、 家が近所なのにわざわざ駅で待ち合わせしたり、オシャレして来いと言われたり、待ち合わせの10分前にいなさいだったりと、今回はやけに細かい注文が多かった。
極め付けは、「勇志は男の子なんだから女の子をエスコートしなきゃいけません!」とか言われ、歩美が行きたいところを盛り込んだ買い物のコースをプランニングさせられた。男の子って大変なんだね…
結局、歩美が好きそうなお店がわからなかったので、無難にここらで一番大きなショッピングモールに来たというわけだ。
「わー! ほら勇志、こっちこっち! 早く早く!!」
俺にエスコートしろと言っていた割には、モールに入るやいなや目の色を変えて、俺の手を引っ張ってあちらこちら連れ回す歩美。
俺もそんな歩美を見て、不思議と日々の疲れを忘れてしまっていた。
最近ガップレの活動が忙しかったから、歩美もゆっくり買い物なんて出来なかったんだろう。
いつも頑張ってくれている歩美のために、今日くらいはとことん付き合ってやるか!
俺は歩美の引っ張る手を握り返し、並んで歩き出したのだった。
…
……
………
一通り買い物を楽しんだ俺と歩美は、少し休憩を兼ねてショッピングモールにあるフードコートで軽くランチをすることにした。
「ふぅー、たくさん回ったから少し疲れちゃったね!」
「そうだな、久々にこんなに歩いたよ…」
「たまにはいい運動になったんじゃない?」
「俺には体育の授業だけで十分だよ、歩美は俺より元気だよな」
「歌と体力には自信があるの」
えっへんと豊かな胸を張って答える歩美に、目のやり場に困ってしまう。
「そッ、それは頼もしいことで… 」
「もう! 勇志の方が男の子なんだから頼もしくないと困るんだからね?」
「面目無い…. 」
俺が申し訳なさそうな顔をすると、歩美がプッと小さく吹き出して笑い出し、それを見た俺もつられて笑ってしまう。
歩美といると本当に楽しいな… 余計な気を使わないし、自然体でいられる。
「歩美、いつもありがとな… 」
「え? どうしたのよ、急に」
突然のありがとうに驚いたのか、歩美が飲みかけていたジュースをこぼしそうになってしまう。
「俺が歩美を守ってやらなきゃと思ってたのが、いつの間にか歩美に気を遣われて… 」
満点の星空と町の灯りを背景に悲しみを歌に変えて歌う歩美の姿がまぶたの裏に蘇る。
それ程までに鮮烈に脳裏に焼き付いていた。
「私は勇志のおかげで今こうしていられるんだよ?」
「歩美… 」
「勇志はいつだって私を守ってくれてる。私はただ… 守ってくれる勇志の側にいたいだけ… 」
「違う…! 俺は…!」
そう言いかけた時、歩美の携帯が着信をしらせる。
その音に遮られ、それ以上を話すことはできなかった。
「もしもし桐島です。仕事…? 今日ですか? はい、はい、わかりました。 夕方からの生放送ですね。はい、今、勇志と一緒にいるので私から伝えておきます。はい、じゃあまた後で」
「水戸さんから?」
「うん、今日の夕方から生放送の音楽番組に出演が決まったって… 当初出る予定だった海外の大物アーティストがドタキャンした穴埋めみたい」
なかなか迷惑な話だな、それは。
「夕方からならここから直接向かった方が早いな、もう少し時間を潰してから行くか」
「そうね、そうしましょう。 あーあ、せっかく1日休みだったのに〜 」
「水戸さんに振替休日貰えるように後で抗議しよう!」
「水戸さんを前にしたら何も言えなくなるくせに」
「ぐぬッ…!? やっぱり交渉は歩美に任せるよ… 」
「も〜ッ!!」
今迄もこのような緊急の出演は何度かあった。今日みたいなテレビ出演だけでなく、大きなフェス何てこともあったな。
きっとそのおかげもあって、こんな新人バンドが異例のスピードでメジャーデビュー出来たのだろう。
そこは流石、敏腕マネージャー兼社長の水戸さんといったところか。
「じゃあ、私その前に御手洗いに行ってくるね」
「了解、俺はこの辺にいるよ」
そう言って歩美を見送るが、俺はこのフードコートに入った瞬間からある野望を抱いていたのだ。
そして歩美が御手洗いに行っている今、それを実行する時が来た!
歩美の背中が見えなくなった瞬間、俺は急いでフードコートから出て、隣のゲーセンに駆け込んだ。
買い物のプランを考えた際に、このフードコートの隣にゲーセンが入っていることは既に確認済みだ。
歩美が早目に戻って来て俺のことを心配しないように、『ゲーセンにいる』と短くメールを送っておく。抜かりはない!
「待たせたな…!」
そして今、俺はあるアーケードゲームの前に立っている。
ああ… 懐かしき我が愛しのゲームよ! その名も『戦場の友情』
『戦場の友情』は3対3で戦うロボット戦略アクションゲームだ。
その特徴は、なんといっても最近話題のVRヘッドセットを使ったリアルにコクピットに乗っている体験ができるというところだ。
俺は今このゲームにドハマりしていて、このゲームに青春を捧げているといっても過言ではない。
最近はガップレの活動が忙しくてなかなかできなかったのだが、歩美がトイレに行っている間に1回プレイするくらいならバチは当たらないだろう。
早速、ドーム型のコクピットをイメージしたゲーム機に乗り込むが、家にセーブデータの入ったIDカードを忘れてしまった! なんという不覚!
しかし、それでも男はやらなきゃならない時があるのだ! と、自分を奮い立たせながらコインを入れ、ヘッドセットを装着する。
IDカードがあれば、様々な機体を選ぶことができ、さらにそれらを自分で好きなようにカスタマイズすることが可能というわけだ。 夢が広がる… まさに可能性の獣です。
そういうわけで、今回は初期設定の機体しか選べずカスタマイズもできないが、たまには初心に帰るのも悪くない。とりあえずスピードタイプの機体を選びスタートボタンを押した。
「おお、早速挑戦者が現れたようだ」
まだ待機画面だというのに、早速店内対戦の申し込み要請が入った。
相手は1人、サポートのCPUはなしか、本来3対3で戦うのが主流だが、こういった戦い方もできるのがこのゲームの魅力のひとつだ。
まあ相手からしたら、IDなしの奴に合わせてパワーバランスを調整してやったぞってところだろう。
ここは相手の心遣いに甘えさせていただこう、何せこっちは初期設定の機体だしな。
さて! 久しぶりに腕が鈍ってないか心配ではあるが、やったりますかッ!
「入月勇志、行きまーーすッ!!」




