顔を出すの? 出さないの? いえ両方です 18
「すいませーん、もしかしてkira☆kiraのキアラちゃんじゃないですか~?」
「……今は違います 」
「またまたまた~、絶対そうでしょー!」
「あの、サイン下さいッ!」
「俺も俺も!」
「私、前から大ファンでした!」
トイレの前でユウさんを待っていると、数人の人に声を掛けられたと思ったら、あっという間に周りを囲まれてしまい逃げ場がなくなってしまいした。
「今はその… プライベートなので… 」
「いーじゃん、ファンサービスしてよー!」
「減るもんじゃないし、これからも応援するからさ~…」
どんどん距離を詰められてしまい、ついには壁際に追い詰められてしまいました。絶体絶命です…
怖い… ユウさん…
次に起こることを覚悟して強く目を瞑ると、ギュッと私の手を引っ張る手がそこにありました。
「えっ…!?」
「俺から離れないように走ってッ!!」
「は、はいッ!」
「あ! 逃げたぞ!?」
「待てーッ!」
その手に導かれるまま学校の中を走り回り、追っ手を巻いたところで誰もいない教室に私を匿ってくれました。
「ハァ… ハァ… 大丈夫か、キアラ?」
「はい、大丈夫です… 」
私を大勢の人から逃がしてくれた人は、メイド服を着た背が高くて、凄く綺麗な髪の長い女性でした。
どこかのモデルさんみたいに整った顔にはどこか優しさが滲み出ていて、凄く透き通った目をしています。
「あの、貴女は?」
「えぇ!? ああ、俺?」
「俺…? それにその声は… 」
普段からトーンが高くて、綺麗な声な人、それは紛れもなく私の大好きな人の声…
「もしかして… ユウさんッ!?」
「いや~、その… はい、そうです… 」
大袈裟に手を動かしていましたが、観念したように俯きながら目の前のその女性は、自分をガップレのユウだと認めました。
やっぱり、本当に…
「こッ、これには色々と事情があって! 普段からこんな格好してるわけじゃないんだ!!」
ユウさんが一生懸命私に何かを説しようとしてくれていますが、私はだんだんと意識が遠のいていくのを感じます。
ずっと好きだった人がまさか、“女の人”だったなんて…
だから、今までずっとユウさんは私に素顔を明かさなかったんでしょうか?
でも、一緒にお風呂に入ってしまった時、ハッキリとは見えませんでしたが間違いなくユウさんの“あそこ”を見ました! だからユウさんは紛れもなく男性のはず…
はッ! まさか身体は男性だけど心は女性とかそういう複雑な事情があるのでしょうか…?
「あ、あのー… キアラさん? 俺の話聞いてます…?」
大丈夫… それでも私のユウさんへの愛は変わりません! 例えユウさんが男の人しか愛せないのだとしても、私はユウさんを愛し続けます!!
私は目の前で困った顔をして頭を抱えているユウさんに恐る恐る尋ねました。
「ユウさんは… 男の人が好きなんですか!?」
「はいッ!?」
「だって、こんなに綺麗で可愛くて… 普段からお面を付けているのは女性である自分を隠すためだったんですよね!?」
「いや待って、キアラ! そうじゃないんだってば!」
自分でも何を言っているのかわかりません。一旦開いてしまった口からは、どんどん自分の感情が溢れてきて止まりませんでした。
「それでも… それでも私はユウさんのことが好きですッ!! 例えユウさんが男の人しか愛せないとしても、私… ユウさんのことが大好きですッ!!」
「え… ええッ!? でも、片想いの人がいるって… 」
「それは… ユウさんのことなんですッ!!」
……言っちゃった
その瞬間、まるで時が止まってしまったかのように、誰もいない物置のような教室が静寂に包まれました。
さっきまで廊下や外の賑わいがこの教室まで聞こえていたのに、今は何一つ聞こえてきません。
今聞こえるのは私の張り裂けそうな胸の音だけです。
そんな中、ユウさんの口がニコッと笑ってからゆっくりと開きました。
「キアラこの女装はね、いつものお面をお化け屋敷の人が間違えて持って行っちゃったから、仕方なくこんな格好をしているだけなんだ」
「え…?」
「だから、普段からこんな格好なんてしてないし、もちろん恋愛対象は女性だよ?」
「あ、ああ… 」
もしかして私、すっごい勘違いをしてしまったんじゃないでしょうか!?
「キアラの気持ちは嬉しいよ、でも内心凄く驚いてる… キアラの片想いの人が、まさか俺だったなんて… 」
「あわあわあわッ、忘れてください!」
どうしよう、どうしよう!? こんな好きだなんて言うつもりこれっぽっちもなかったのに…!!
「ええッ!? いや、まあキアラがそれでいいならそうするよ… 」
でも、本当にこれでいいのでしょうか? このまま何もなかったら、私はユウさんに自分の想いを伝えられなかったんじゃないでしょうか?
また何事もなかったようにいつも通りに戻って、いつかあの時ちゃんと想いを伝えておけばって後悔しないでしょうか?
私は意を決して横の方に目を反らしていたユウさんの手を掴んで自分の方に引き寄せました。
「おおっと!」
ユウさんの胸の中に私の頭がすっぽりと埋まります。ずっとこうしたかった、ユウさんと2人きりの時、何度も何度も…
ユウさんの胸の中は暖かくて、不思議と落ち着くような感じがします。このまま目を瞑って、夢の中に飛び込んでしまいそうな気持ちを抑えて、私はゆっくりと口を開きました。
「やっぱり忘れないでください… 私がユウさんを好きってこと… 」
「え…? でも… 」
「本当は告白なんてするつもりなかったんです。だって私は、これでもアイドルですから、私的な恋愛が禁止されている理由もよくわかっています… 」
言葉を重ねる毎に唇が震えて、呂律が上手く回らなくなるのを感じます。でもユウさんの胸の中から伝わってくる優しい温もりが、そんな私を後押しするような気がして、私は言葉を続けました。
「でも、ユウさんと出会ったあの日から、私は毎日が凄く楽しくて、メールや電話でのやり取りだけで元気が出るし、仕事でちょっと顔を合わせただけで嬉しくて1日中幸せになって、そんなユウさんと一緒にいられるなら私… 私はアイドルを辞めてもいいと思っています!」
「キアラ… 俺は… 」
「何も言わないでください… わかってます。 可笑しいですよね、私はユウさんのことを殆ど何も、素顔だって知らないのにこんなことを言って… 」
「キアラ… 俺の話を聞いてく… 」
「嫌ですッ! 今は何も言わないでください… 今何か言われてしまったら、私は笑顔でステージに立つことが出来なくなってしまいます… 」
「……… 」
何かを言おうとしていたユウさんの言葉が止まりました。
きっと、私がユウさんの胸の中で震えているのが伝わってしまったからなのでしょう…
そんなユウさんの優しさに甘えるように、私は震える言葉を必死に繋いでいきました。
「勝手なことばかり言ってごめんなさい… でも私はユウさんのことが大好きです。これからもっとたくさんユウさんのことを知って、それも含めて全部、ユウさんのことを好きになりたいです」
「キアラ… 」
「ユウさんが私のことを何とも思っていないのは知っています。けど、いつかユウさんが私のことを好きになってくれるように私… 頑張りますッ!」
この時、ユウさんがどんな顔をして私の話を聞いてくれていたのか、それはユウさんの胸の中で泣き崩れてしまった私には分かりませんでした。
私はユウさんが好きです。
kira☆kiraのキアラではなく、1人の女の子の星野キアラとして私のことを見てくれるユウさんだからこそ、私はアイドルを何の未練もなく辞めることができるのですから…




