顔を出すの? 出さないの? いえ両方です 16
「「「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」」」
西野がまさか自分からメイド服に着替えてくれて、しかも積極的に店の手伝いまでしてくれているなんて…
「一体どういう風の吹き回しだ?」
まあ、西野には俺がガップレのライブの間は手伝ってもらおうと思ってたから、俺の方から声を掛けるつもりだったんだけれど、自分から進んでやってくれてるんだからそのまま頑張ってもらおう。
どうせ西野のことだから、こっちからお願いしたら代わりに色々せがんで来るはずだったろうから助かったよ、ほんと。
しかし、ただでさえ美人揃いのメイドに更に西野まで加わり、もう待機列が校舎の外にまで出てしまいそうな勢いだ。
「入月先輩、その… どうですか? 私、メイドさん上手くやれてますか?」
ワンアクション毎にこちらをチラチラ気にしていた花沢さんが、合間を見つけて俺のところに駆け寄ってくる。
「うん! 無理言って手伝ってもらった上に、ここまでしてもらって本当にありがとね。花沢さんには感謝してもしきれないよ… 」
「そッ、そんな!? 気にしないでくださいッ!! 私、入月先輩のお手伝いが出来てすごく嬉しいです… 」
俺の考えつく精一杯の感謝の言葉に、花沢さんが慌てて両手を振りながら笑顔を作る。
「ありがとう… 花沢さん!! このお礼は必ずするから何でも言ってね!」
「あの… じゃあ、お願いが… あります!」
「うん、何かな?」
「先輩をこれから〝勇志先輩〟って呼んでもいい… ですか…?」
かッ… かわゆい…!!
何だ、顔を真っ赤にして頑張って言いましたみたいな感じが、もう…
惚れてまうやろ~ッ!!!
いっ、いかんいかん… ここは冷静に先輩として大人な対応を…
「ももも、もちろん構わないよ!?」
「あっ、ありがとうございますッ!」
呂律が回らなかった… でも花沢さんはそんなこと気にしてないみたいだし、本当に良い子だな~…
「あの… あともう1つだけ良いですか…?」
「もう1つ?」
俯いてもじもじする花沢さん。
いや~、もうずっと見てたい…
「私のことも〝華〟って呼んでくれませんか?」
どぅふぁッ!!??
突き抜ける衝撃、心臓を撃ち抜かれたような感覚… いっ、いかん! 萌え死んでしまう…!! 何なんだ!この可愛さわ!?
とにかく落ち着いて冷静になるんだ!
「…ダメ、ですか…?」
「ダメじゃないダメじゃない!! 呼ぶよ、呼ぶよ! 全然呼ぶよ!」
「じゃあ…」
そう言ってまた俯いてモジモジしだす花沢さん。こ、これは今すぐこの場で呼んでってこと… だよな!?
い、いいのかな? 呼んじゃって… いいのかな!?
「はッ、華… ちゃん…?」
「はい、勇志先輩!」
名前で呼ばれるのが恥ずかしいのか、ギュッと目を瞑っている華ちゃん。そこでもう一度、優しく名前を呼び掛ける。
「華ちゃん」
「勇志先輩」
名前を呼ばれるたびにだんだん慣れてきたのか、華ちゃんが潤んだ瞳で真っ直ぐ俺のことを見つめて俺の名前を呼んで答える。
「華ちゃん!」
「勇志先輩!」
なんだろう、今すごく幸せ… もう一度名前を呼んじゃおうかな…
「華ちぃッ!? うぐぐぐ… 」
「なーに人前でイチャイチャしてんのかなー!?」
「くっ苦じーぃ!」
もう一度、華ちゃんと呼ぼうとしたところで突然背後から勢いよく首を絞められ、驚いて舌を噛みそうになる。
「勇志先輩!? 大丈夫ですか!?」
「だ、ぅぐ… だぃじょうぶ!!」
この腕力と後頭部に柔らかい感触が当たらないことから察するに、俺の首を絞めてるのは間違いなく西野だ。
「に、西野… 何すんだ…!?」
「勇志が華さんと人目もはばからずイチャイチャしてるからでしょ!?」
俺の問い掛けに答えたのは首を絞めている西野ではなく、目の前に現れて腰に手を当てながら、ほっぺを膨らませている歩美だった。
俺は何とかもがいて西野のヘッドロックを振りほどいて反論する。
「別にイチャイチャなんてしてないだろッ!? 名前で呼び合ってただけじゃないか!」
「それがイチャイチャだって言ってるの!」
「私だってまだ名前で呼んで貰ったことないのにッ!?」
ダメだ! 今この2人何を言っても火に油を注ぐようなものだ。ここは一度冷静になってもらわないと!
「待て待て、一旦落ち着けって、な?」
「問答無用!!」
「私も莉奈も一生懸命メイドしてるのに! それなのに勇志は…!!」
鬼のような顔で俺に滲み寄ってくる歩美と西野。
ダメだ、喰われる…!!
「あ… ア゛ァァああああッ!!!」
「あなた達、いい加減にしなさいッ!!」
「い、委員長…!?」
2人の鬼を止めたのは、やはり鬼のような顔をした立花時雨だった。
「遊んでいる余裕なんてないほど忙しいんだから、真面目に働いてッ!!」
「「はい…」」
ブラックモードの歩美と西野を一瞬で黙らせる委員長。
怖えぇぇええ… 2度と委員長を怒らせないようにしよーっと。
「このままやってたら待機列は伸びるばかりでお客の不満は溜まるし、俺らも疲労の割には回転率は上がらないし単価も低い… 誰かいい案あるやついないのか?」
厨房の手伝いに回っていた小畑も、流石にと根を上げる。確かに今のままだと悪循環だな。
「店の回転率を上げて、尚且つ客単価を上げればいいんだな?」
「勇志、なんかいいアイデアがあるのか?」
「セットメニューを作って価格を幾らか安くすればいい。セットのドリンクを提供が簡単なコーヒーと紅茶に絞って、ケーキはメインの3種類から選べるようにすれば、お客さんは高確率でセットを選ぶだろ?」
「なるほど、それで厨房の回転率を上げるのね。セットの割引をしても客の単価は上がる… 」
鬼のような顔をしていた委員長も俺の話を聞いた途端、すぐにいつもの顔に戻り相槌を打つ。
「後は追加の注文と裏メニューとかいうのは廃止すればお客さんの回転も速くなるだろ」
「「「おー… 」」」
全員が口を揃えて関心したような声を上げる。
「さすが勇志、頼りになるな!」
「すごいです!勇志先輩!!」
真純と華ちゃんが揃って俺を褒めてくる。普段、褒められ慣れていない俺は、何となくくすぐったい感じがする。
「そうかな? 大したことないと思うけど、ありがとう…」
「じゃあ早速取り組みましょう。私はセットメニューのポップを作成、林田くんはセット割引の価格を調整して! 残りの人は仕事に戻って!」
「「「はい!!」」」
委員長の一声に全員が一斉に仕事に取り掛かるが、申し訳ないけど俺はいなくなったあの2人を探しに行かなければならない。
「委員長、悪いんだけど俺は… 」
「分かってるわ、早くkira☆kiraの2人を探して来て、もし見つかったら大騒ぎになるから」
「すまん、恩にきる!」
「本当なら風紀委員の私も手伝いたいのだけど…」
「委員長には委員長にしか出来ないことをしてくれ、こっちのことは任せてくれ」
「わかった、何かあったら連絡して」
「了解、じゃあ行ってくる!」
「ちょっと勇志どこ行くのよ!?」
俺が出て行くのを見つけて騒ぐ西野に背を向けて、教室を後にした。
☆
「さては勇志くん、kira☆kiraの2人を探してないな…?」
学校の中を駆け足で回りながら、kira☆kiraの2人を探しているがなかなか見つからない。
勇志くんからの連絡もないから、きっとどこかで油を売ってるに違いない。
この状況で勇志くんが自分から投げ捨てて行くわけないし、神無月学園の西野莉奈さん辺りが来てて絡まれて、歩美ちゃんや華ちゃん、あるいは立花先輩の恋心に火を点けて修羅場になっているに違いない…
あーッ! もうすごく面白そう!! kira☆kiraの2人なんて放り投げて見に行きたーいッ!!
「よし、見に行こう!」
そう決めて勇志くんのクラスに向けて足を向けた矢先、見るからに怪しい2人組の女の子を発見する。
制服は紛れもなくうちの学校のだけど、地味っ子スタイルのくせにやけに強気な子と、とこぞのオタクアイドルみたいなツインテールがマイナスにならず、むしろプラスになって可愛さが増している子、こんな2人組がうちの学校にいたという記憶はない。
僕のアーカイブを検索してもヒットするのは例のスーパーアイドルだけ…
「kira☆kiraのアキラたんとキアラたん、こんなところで何してるのかな?」
「んなッ!? アンタ、ガップレんとこのヨシヤ!?」
「ヨシヤさん、その制服…?」
まず突っ込むところはそこなのかとも思うけど、取り敢えず営業スマイルで2人の疑問に答える。
「アキラたん、キアラたんと同じ理由だと思うよ? 僕も学園祭ってやつを楽しみたくてね」
「そうなんですか、余りにも違和感がないからてっきりこちらの生徒さんだと思ってしまいましたよ」
ほう、キアラたんなかなか鋭い感をしてるな~、さすがゲーム大会で素顔の勇志くんをガップレのユウに似ていると怪しんだだけはあるね。
「それより、僕が言うのもあれだけど、2人みたいなスーパーアイドルが勝手にウロウロしてていいのかな?」
2人に悪気がないのは分かるけど、スーパーアイドルである以上、それ相応の制限や責任ってものが発生する。
勝手にウロウロされたら正直迷惑だし、バレたら大問題だよ。
もしそうなったら、大騒ぎになるしkira☆kiraを一目見ようと群がる人達が揉みくちゃになって、怪我人がでるかも知れない。
その責任は一体誰がとるの? 2人とも自覚が無さ過ぎるよ。
「私はユウさんを探してるんです! ヨシヤさんどこにいるか知りませんか!?」
キアラたんが真剣な顔で僕に尋ねてくる。まあそんなとこだろうと思ったけど。
「ユウの居場所は知ってるよ? でもキアラたんはユウに会ってどうするの?」
自分自身の気持ちを整理しているかのような、ほんの少しの沈黙の後、キアラたんが真っ直ぐ僕を見つめながら口を開く。
「私はユウさんと一緒に学園祭を回りたいんです!」
「へぇー」
この子、何の躊躇いもなく僕にそんなこと言っちゃうんだ。それってもう好きだって言ってるようなもんじゃん。
「それでアキラたんの方は?」
「私は… まあキアラの付き添いだけど…?」
絶対嘘だ… めちゃめちゃ目が泳いでるし。
どうせ付き添いという名目で勇志くん探してたでしょ。
ん? 待てよ… これ、超面白そうじゃない!? なんかワクワクしてきちゃった!!
「そっか… キアラたんの気持ちはよく分かった… 今からユウの所へ一緒に行こう!」
「本当ですかッ!?」
「うん、じゃあ付いてきてくれる?」
「はいッ!」
kira☆kiraの2人がどうなろうと、この際知ったことか! 僕は勇志くんの人間観察が出来ればそれでいい!
僕は何て幸せなんだろう! 勇志くんの側にいるとこんなに楽しいことがたくさんあるんだから!
僕は今にもスキップしてしまいそうな気分を抑えてkira☆kiraの2人を勇志くんの元に案内したのでした。




