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(旧)マル才  作者: 青年とおっさんの間
102/127

顔を出すの? 出さないの? いえ両方です 14

「もうすぐ中に入れそうだけど、大丈夫?お姉ちゃん」


「えッ!? 何!? 私!? だだだ大丈夫だよ!?」


「いや、全然大丈夫じゃないじゃん」



落ち着け私! もうすぐ入月先輩に会うんだから変な顔してたら嫌われちゃうかもしれない!


心の中で何度も何度も自分自身に冷静になるように言い聞かせる。


すると後ろから肩をトントンと叩かれて振り返ると、入月先輩の妹さんである入月愛美さんが、入月先輩に似た優しい笑顔で話しかけてくれた。



「華さん、いざという時は私も付いてますから、お兄ちゃんに思いの丈をぶつけちゃってください!」


「ちッ、違うよ!? 私はそう言うんじゃなくて、ただ純粋に入月先輩に感謝しているというか、尊敬というか… 何ていうか…」


「やっぱり好きなんですね?」

「…… はい」


「くぅーッ! 大丈夫ですよ、華さん! この入月愛美に任せてください!」



愛美ちゃんが物凄く目を輝かせて私の肩を両手で掴む。実の兄に恋している私を応援してくれるなんて… 何ていい妹さんなんだろう!



「ありがとう、愛美ちゃん!」


「ただ1つ言っておきますけど、お兄ちゃんをゲットしたいのは華さんだけじゃなくて、強力なライバルが沢山いますからね? その人たちに負けないように頑張ってくださいね!」


「強力なライバル…」



1人は間違いなく桐島歩美先輩、もう1人は神無月学園の西野莉奈さん。あと、多分だけど立花時雨部長…


部長は隠しているつもりなんだろうけど、部長が入月先輩を見る目… あれは間違いなく恋をしている目だった。


部長を含めて全員、綺麗で素敵で可愛くて、私なんかが付け入る隙あるのかな…?



「次のお客様どうぞー!」

「はーい! お姉ちゃん、愛美入るよ」



大丈夫よ、華! 今日はただ入月先輩に会いに来ただけ。


1人で入りにくかったから、たまたま私のクラスの演劇を観に来た妹の美乃梨と、偶然にも美乃梨のクラスメイトで一緒に学園祭に来たと言う入月愛美ちゃんを誘って来たんだから、大丈夫、大丈夫!



「お帰りなさいませ、お嬢様方。こちらの席へどうぞ」


「へぇー…」



美乃梨が出迎えてくれたメイドさんに感心したように声をあげる。


それもそのはず、私だってあんな美人な人見たことがない。


スラッとした長い脚に、上品な立ち振る舞い。目鼻立ちが整った顔に柔らかそうな唇… きっと美人ってこういう人のことを言うんだろうな~…


それにしても入月先輩のクラスにあんな人いたかな? あれだけ美人だったら噂の1つも聞きそうなものだけど、そんなことは1度も聞いたことがないな。



「ぶッ… アハハハッ!!」

「ど、どうしたの愛美ちゃん!?」



教室に入るなり、いきなり笑い出す愛美ちゃん。何か愛美ちゃんの笑いのツボに入るような面白い物でもあったのかな?



「ハハハハッ… もう、何て格好してるのお兄ちゃん」

「お兄ちゃん?」



お兄ちゃん…? 中に入った時に一通り見回したけど、入月先輩は見当たらなかった。愛美ちゃんはいったい誰を見てそんなこと言っているのかな?



「笑うな愛美、俺が好きでこんな格好してると思うか?」

「へ?」



愛美ちゃんの言葉に反応したのは、先程から目の前にいるすっごく綺麗なメイドさんだった。


だけど、メイドさんの声は紛れもなく入月先輩の声だ!



「もしかして… 入月先輩ですか…?」

「もしかしなくても俺だよ、花沢さん」


「えぇーッ!? でも、どうして!? えぇーッ!!??」



目の前にいた美人なメイドさんが入月先輩だという事実に驚き過ぎて、今まで出した事もないような大声で叫んでしまった。



「花沢さんの言いたいことはよく分かる、俺もどうしてこんなことになったのか… これは陰謀だよ、嵌められたんだよ…」



そう言いながらだんだん小さくなって落ち込む入月先輩。


こっ、こんな時こそ何か、何か励みになる言葉を掛けないと!!



「す、凄く似合ってますよ…?」

「うっ… 」



あ、しまった! 私のバカ~!!


何で似合ってるなんて言っちゃったの!? 確かに似合ってるし、凄く素敵だけど~!!



「うえ~ん!! 花沢さんに似合ってるって… 似合ってるって言われた~!」

「よーしよしよし、大丈夫だ落ち着け勇志」



私の言葉で傷ついてしまった入月先輩は、後ろからやって来た林田先輩に泣き付き、林田先輩も泣きつく入月先輩の頭を優しく撫でてあげている。


その光景は、まるで『彼女を優しく慰める彼氏の図』のように見える。


このままでは林田先輩に入月先輩を奪われると思った私は咄嗟に身体が動いて2人の間に割って入ってしまった。



「わわわわわ、だ… ダメですッ、林田先輩!!入月先輩から離れてくださいッ!! 恋人でもないのにそんなにくっ付いたらダメなんですよ?」



林田先輩を注意した後、入月先輩の腕を引っ張って林田先輩から遠ざける。



「は、花沢さん? 俺と勇志は男同士なんだけど?」

「それでもダメなんですッ!!」


「はあ…?」


「う、うぅ… 酷い、酷いよ花沢さん、何で駄目なの…?」

「え、あ… え!? だって入月先輩は今女の子で、でもあれ?」



だって、入月先輩は今メイドさんで、凄く綺麗で可愛いから男の人と一緒にいたらダメだし、でも女の子と一緒にいたら入月先輩は男の人だから、やっぱりダメ。けど、今は女の子だから男の人と一緒にいたらダメ…


あれあれ? 頭がクラクラする~ぅ


1人頭を抱えている私を尻目に、美乃梨が入月先輩に話し掛ける。



「あなたが入月勇志さんですか?」

「はい、そうですけど君は?」


「私は花沢華の妹で花沢美乃梨です。いつも姉がお世話になってます」

「これはご丁寧に、こちらこそいつもお世話になっております」



ぺこりとお辞儀をする美乃梨に、入月先輩も軽くお辞儀をして返す。



「それに、勇志さんの妹の愛美さんにも同じクラスメイトとして仲良くさせていただいてます」


「へー、それはありがとう。いつも大変でしょ? 愛美の相手をするの」


「ええ、まあ程々に」


「ちょっと美乃梨!?」

「ちょっとお兄ちゃん!?」


「入月先輩に失礼なこと言わないの!」

「美乃梨ちゃんに失礼なこと言わないの!」


「「ごめんなさい」」


「「ふっ、フフフフッ」」



私と愛美ちゃんが注意するタイミングと、入月先輩と美乃梨が謝るタイミングが全く一緒で、つい皆んなで可笑しくなって笑ってしまう。


この感じ、入月先輩と一緒にいると何気ないことでも楽しく感じる。


やっぱり私は入月先輩が好きなんだな…



「じゃあ、3人とも大したものはないけどゆっくりしていってくれ」


「頑張ってね、お兄… じゃなかった、お姉ちゃん!」

「五月蝿いぞー、愛美」



そう言いながら裏の方へ戻っていく入月先輩を見届けた後、テーブルに置いてあるメニューを3人で見せ合う。



「あ、見てお姉ちゃん、ケーキあるよ?」

「本当だ、なんかオシャレなメニューが沢山だね。きっと立花部長がこういうところまで拘ってるんだろうな~」



3人でメニューを見ていると、私と美乃梨ちゃんの間にサッと執事服を着た人が割り込んでくる。



「いらっしゃいませ、素敵なお嬢様方。貴女だけの執事、小畑良介でごさいま~すッ!」


「お、小畑先輩… こんにちわ…」



私と美乃梨の間に入ってきて、執事服を着てそれらしく右手を左肩に合わせお辞儀をしている人は、入月先輩のクラスメイト、男子バスケ部、部長の小畑良介先輩だった。



何故か小畑先輩を前にすると、治ったはずの男性恐怖症が再発するような感じがする。


うーん、他の男の人ではこんな事ないし、単純に私が小畑先輩が苦手なだけなのかな?



「今宵は私が見目麗しいお嬢様方に、取っておきの裏メニューを教えて差し上げましょう!」


「「「裏メニュー?」」」



3人の声が重なりお互いに顔を見合わせる。



「そう、何と当店ではケーキセットを頼まれたご主人様、お嬢様に好きな執事、またはメイドからアーンして貰える特典があーるのでーすッ!」


「いッ、入月先輩にアーンして貰える!!??」

「お姉ちゃん… 色々と端折り過ぎ」



アーンって、あのアーンだよね!? 顔を白塗りしたチョンマゲのお笑いの人が逆水平チョップみたくやるアレじゃないよねッ!?


恋人同士が1つのパフェをスプーン1つで仲良く分け合う時にやるアレだよね!?


私がアーンに想いを募らせる中、黙って聞いていた愛美ちゃんがとんでもない事を口にする。



「私はたまにお兄ちゃんにやって貰ってるから別にいいかな~」

「ちょっと愛美!?」


「あ… しまった…」



美乃梨と愛美ちゃんの目が私に向けられる。平常心を保とうとしているけど、きっと小刻みに震えていることでしょう。



「ふ~ん…! そうなんだ~、愛美ちゃんは入月先輩にアーンして貰ってるんだ~、ふ~ん!!」


「はッ、華さん!? お、落ち着いてください!」

「そうだよお姉ちゃん!冷静になって!!」



大丈夫!私は至って冷静だよ!



「小畑先輩ッ!!」

「はいッ!? 何でしょうかッ!?」


「私… 入月先輩にアーンして貰える特典を注文しますッ!!」

「え? 俺じゃないの?」


「お願いしますッ!!」

「ふぁいッ!畏まりましたァアアッ!!チクショーッ!!」



ふーっ… あ、あれ!? どっ、どうしよう…!?


私、勢いで入月先輩にアーンを頼んじゃった…


本当にどうしよー!!??



「あの~…」

「は、はいッ!!」


「花沢さん、俺にアーンして貰う特典を頼んだって本当?」

「そ、その… 小畑先輩に勧められて…」


「あの野郎~、花沢さんにとんでもない事勧めやがって! 花沢さん、嫌ならやめてもらっても良いんだよ?」


「い… 嫌じゃない… です…」

「え…?」


「入月先輩になら、私… 嫌じゃないです…!」



言っちゃったー… 私だってやれば出来るんだ!



「えっと、じゃあ… 口を開けてもらえる?」

「は… はいッ!」



入月先輩がフォークでケーキを一口サイズに取り分けたタイミングで、入月先輩に向かって目を瞑り、小さく口を開く。



「も… もう少し口を大きく開けてくれる…?」

「こ、こうですか…?」


「うん… じゃあ、アーン」

「アーン… んっ、あっ… はむ、ん…」



美味しい!美味しい!美味しい!


入月先輩にアーンして貰ったからかな!? 幸せー…



「お姉ちゃん…」

「華さん! バッチし写メ撮りましたから、後で送りますね!」



ありがとう、愛美ちゃん!! 毎晩寝る前に見るね!



「でもさ愛美?」

「どうしたの、美乃梨?」


「この写メ、普通に女の子同士で食べさせ合ってるようにしか見えないんだけど…」

「確かに… まあでも、本人が幸せそうだから良いんじゃないかな…?」


「あんなに幸せそうなお姉ちゃん、初めて見たよ」

「ふーん、なら良かったじゃない!」



私が幸せな気分に浸っていると教室の入り口が勢い良く開けられ、私の隣のクラスの山崎くんが凄い剣幕で入って来て辺りを見回している。



「大変だ!勇志くんいる!?」

「どうした義也? そんなに慌てて」


「kira☆kiraの2人がいなくなった!」

「何だって!?」


「とにかく急いで来てくれる!?」

「わかった! でも、俺の代わりが…」



そこで、入月先輩と私の目がピタリと合わさる。



「花沢さん、その… お願いがあるんだけど…」

「は、はい?」



もしかして、この流れは…

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