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(旧)マル才  作者: 青年とおっさんの間
101/127

顔を出すの? 出さないの? いえ両方です 13

「あっ、ちょっと… そこは… え? そんな所まで… アッァァァア!!! すね毛が、俺のすね毛がーッ!?」



ベニヤ板1枚で仕切られた準備ルームから入月くんの悲痛な叫び声が聞こえてくる。


中の様子は見えないけれど、何が行われているのか何となく想像できてしまって、つい口元が緩んでしまう。



「ふふっ…」

「立花、顔に出てるぞ? 凄く面白いって」



人に見えないように口元を手で隠していたけれど、丁度横に立っていた林田くんからは見えてしまっていたみたい。



「あら林田くん、私そんな顔してた?」

「あ゛ーッ! やめてーッ!! いやーッ!!」


「ふ、フフフッ…」



いつも通りの顔に戻して林田くんに向き直るけれど、こうして喋っている最中にも聞こえてくる入月くんの叫び声にどうしても口元が緩んでしまう。



「勇志にも、立花のその顔見せてやればいいのに… そしたらきっと勇志だって」


「林田くん、何のことだかさっぱりわからないわ? それに入月くんの前で脳天気でおバカさんみたいに振舞ってる人には言われたくないわね」


「別に振舞ってるわけじゃないよ、勇志と一緒にいる俺が、唯一本当の俺でいられるってだけさ」



そう言って遠くの方を見つめる林田くん。彼もまた入月くんに救われた1人何だろうか…



「入月のメイド服装着完了しました!」



ぞろぞろと準備ルームから男子が出てきて、いつの間にか指示役になっている小畑くんに敬礼をする。



「ご苦労! それじゃあ女性陣、勇志にカツラとメイクをお願いしまーす!!」

「「はーい!」」



次に準備ルームに入って行ったのは女子たちで、入月くんのメイクアップを担当してくれることになっていた。



「今度は何だ…? まっ、まさか…!? 」

「入月くん! 動いたら目に入るからね! はい、アイライン引くから白目剥いて!」


「怖い怖い怖い! 何!? 女子っていつもこんな危ないことしてるの!? ふギャーっ!? バァルスッ!!」


「ほら! 目に入っちゃったじゃない!!」

「目が…! 目がァアアアアッ!!」



たかが化粧くらいで大騒ぎの入月くんが面白過ぎて笑いをこらえきれない。



「うっ、フフフフフッ、あハハハハッ…」

「立花… お前、絶対性格悪いだろ?」


「フフフッ… 今頃気付いたの?林田くん、フッフフフ…」



しばらくして大人しくなったと思ったら、女子たちがぞろぞろと準備ルームから出て来る。



「立花さん、入月くんのメイク終わりました」

「はー… ありがとう、お疲れ様」



笑い泣きした涙を拭いながらメイクをしてくれた女子たちにお礼を告げる。すると小畑くんがササっと前に出て、準備ルームの入り口を仕切っているカーテンの横に立つと、オホンっと咳払いを1つ入れて話し始める。



「それではお待たせ致しました! 勇志改め、メイドのユウコちゃんに早速登場していただきましょう! どうぞーッ!!」


「……」



小畑くんに釣られてクラスみんなが拍手をするが、入月くんが準備ルームから出て来る気配がない。



「なーにしてんだよ、早く出てこいよ?」

「…だって、恥ずかしいし…」


「ったく、しょうがねぇな~、ほらよっと!」

「ちょッ! ああッ!?」



準備ルームに上半身半分を入れた小畑くんが引っ張って連れて出てきたのは、メイド服を可憐に着こなした入月くん…いいえ、ユウコちゃんだった。



「はー… これはたまげたな~」

「すごい… 綺麗…」

「嘘…だろ? あれが入月なのかよ?」

「全然いけるんだけど、いや寧ろ大歓迎なんですけど!?」

「男の娘、良いッ!!」


私も含め、クラスの誰もがユウコちゃんに見惚れている。こんなに女装が似合うなんて誰が想像できただろうか。


多数決の時に小畑くんから提案された入月くんの女装は、個人的に私が見たかっただけで、似合うとか似合わないとかは全く考えていなかった。


けれど、目の前にいるユウコちゃんは男の子だと言うことを忘れてしまうほど可愛さと美しさを兼ね備えた最高の逸材だった。



「俺… 生まれて1度もこんな格好したことなかったのに… みんな酷いよ…」


「「「ズッキューンッ!!」」」



ユウコちゃんが目に涙を浮かべて話している姿に、まるでクラス全員の心臓に銃弾が撃ち込まれたかのような衝撃が走る。



「萌~… 」

「萌萌~… 」

「キュンキュン!!」



口々にユウコちゃんへの愛を語るクラスメイトたち。少しずつ皆んな壊れてきているような気がするわね。



「真純~、助けてくれ~」

「よしよし、でもよく似合ってると思うよ?」


「お前までそういう事言うのかよ~」

「ゴメンゴメン、褒め言葉のつもりだったんだけどな~…」



執事服の林田くんとメイド服の入月くんがいつも通りに話しているのに、見てるこっちからしたら禁断の愛にしか見えない…


私にそういう趣味はないのだけれど、こうして見ていると悪くないような気がしてくるわね…



「キャーッ! 入月くんと林田くん、もっと近くに寄って!!」

「入月くんはもっと林田くんを見上げるようにして!!」

「そうそう! それで林田くんは入月くんを優しい眼差しで見つめるの!!」



いつの間にか2人の周りにはスマホやらスケッチブックを持った女子たちが取り囲み、あれやこれやと指示を出している。


彼女たちの気持ちも分からなくはないけれど、もう直ぐ学園祭の開始時間になるから早く準備に取り掛かってくれないと…



『お知らせいたしますわ。間もなく学園祭の開始時刻になります。生徒の皆さんは1年に1度の学園祭を心から楽しんで、最高の思い出を作りましょう! それでは立花大付属高校学園祭、スタートですわ!!』



生徒会長である九条麗華先輩の校内放送で学園祭のスタートが切られた。いけない、私としたことが入月くんに気を取られていた。早急に準備を終わらせて配置につかないと!



「皆んな、準備急いで! 厨房チームはデザートの飾り付けを、フロアチームは入り口で整列して!」



慌ただしく準備を進めていると、早速入り口からお客様が2人入店される。



「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」



私は普段見せる事のない飛びっきりの笑顔でお客様を迎えた。










「お待たせしましたご注文は何になさいますか?」

「あ、あの… 良かったらこれ僕の連絡先なんですけど…」

「俺、男なんで勘弁してください」

「ええッ!? こんなに綺麗なのに!?」

「うるさい、早く注文しやがりなさいませ」

「ああ、はいッ!」



はあ… これで何人目だ? 男にナンパされるの。何なんだよ!女装した途端にみんな目の色変えてさ!


女の子ってみんな、こんな男たちのいやらしくて隅々まで舐め回すような視線をいつも浴びているのだろうか…


いつもは俺もそっち側なんだよな、これからはそういう目で見るのはやめよう。



「それにしても、こんなに忙しいなんて聞いてなかったけど?」



オーダーを通し終わった真純が、額の汗を拭いながら話しかけてくる。


確かに真純の言う通り、あっという間に全ての席が埋まり、教室の外には隣のクラスにまで届きそうなほど待機列ができていた。



「他にもカフェとかやってるクラスあったろ? 何でうちのクラスがこんなに…」

「そりゃあユウコちゃん目当てでしょうよ? ほれ」



厨房エリアから顔を出した小畑が俺と真純の疑問に答えてからスマホの画面をこちらに向けて見せてくる。


映っているのは立花大付属高校の交流掲示板で、やたら女の子の写真が載せられていた。



「ん? これって… 俺か!?」



やたら載せられていた女の子の写真はどれも俺が女装させられた写真で、『2年4組に天使降臨』だの、『これがリアル男の娘』だのという書き込みと一緒に載せられていた。



「何だよこれ….」

「あれま、俺と勇志のツーショットもあるな!」



本当だ、しかもご丁寧に写真加工までしてくれてあって、俺と真純の周りにハートだのキラキラなどのエフェクトが散りばめられている。



「ぬぬぬぬ!!」



意識せずスマホを持つ手に力が入ってしまい、思わず全力でへし曲げる。



「ふんッ!!」

「あああああぁぁああああッ!! 俺のスマホーうッ!!??」



俺の手からスマホを救出した小畑が、まるで死にゆく恋人を抱えるように蹲る。



「すまん、わざとだ」

「何だよ! 俺は何もしてないだろ!? お前の写真を載せたのはダークサイドに堕ちた女子たちの仕業だッ!!」


「俺のやり場のない怒りをお前のスマホが納めてくれたんだ。ありがとう」


「それならまあ… って良くないわ!」


「でも、まあこうやって見ると、勇志は本当に女の子みたいだな」

「真純までやめてくれ… 泣くぞ?」


「そうだな、悪い悪い!さてと、仕事に戻りますか」



そう言ってお客さんを迎えに入り口に向かっていく真純。


俺もオーダーを受けに戻るが、歩くたびに股がスースーして落ち着かない。つい内股になって歩いてしまうがこれはもうしょうがない。



「すみませぬ、オーダーをしたいのですが」

「あ、はーい」



1人のお客さんに呼ばれ席へ向かうが、メニューを覗いて顔が見えないが、その体格と特徴的な長い髪で誰なのかわかってしまう。



「ぐぬ、翔ちゃん…」

「おや、僕ちんのお知り合いでしたかな?」



メニューを置いて俺を見上げた人物は紛れもなく、Godly Placeのギター、白井翔平だった。



「なななッ… まさかそんなことが!?」

「ああそういうことさ、笑いたければ笑えよ」



俺を見るなり驚愕の表情を浮かべた翔ちゃんが椅子から勢い良く立ち上がり数歩後ずさる。


大方、俺が女装して更にメイド服まで着てることに気付いて驚いているのだろう。俺だってびっくりだよ、こんな格好させられて…



「翔ちゃん… まあ落ち着いて座ってくれよ」

「これが落ち着いてなどいられないのですよ!」



いつになく本気の顔で迫ってくる翔ちゃん、その見た目もあってかなりの迫力だ。



「ああやっと見つけた… 僕ちんの天使!!マイエンジェル!!」


「は?」

「今やっとわかったのです。僕ちんは君に会うために生まれてきたのだと!」


「ごめん、何言ってるのかよく分からない」

「いったい君はどこの2次元から迷い込んで来たんだい? 僕ちんも連れて行ってくれないか?」



サッと髪の毛を掻き上げた後、本人は格好をつけてるのだろうが、全くかっこ良くない変なポーズを取り出す翔ちゃん。


すごく腹立たしいことだが、どうやら本気で俺を本物の女の子だと勘違いしているらしい。



「翔ちゃんいい加減にしろよ? 俺だよ! 入月勇志、悪いけど2次元から飛び出して来たんでも、翔ちゃんを迎えに来たんでもないから!」


「またまたそんな冗談を! そうやって僕ちんをからかってるのですな?」



駄目だ、全く聞く耳を持ってくれない…



「はぁ… もういいや、何か頼んでとっとと帰ってくれ」


「そうですな、では他ならぬ君のためにこの店のメニュー、端から端まで全部頼んであげるのですよーッ!!」


「わかった、今すぐ帰れ」


「アアッ! 天性のドSであるこの僕ちんを軽くあしらうなんて… そんなことをしていいと思っているのですかな?」


「な、何だよ…?」



何か翔ちゃんから禍々しいオーラが漂っているような感じがする。


そう言えば翔ちゃんが怒ったところを見た事がない。俺はまさか翔ちゃんの触れてはいけない領域に触れてしまったのか!?



「 知らないのですぞ… 僕ちんが… 僕ちんが…」


「ゴクリ…」


「 ドMに目覚めてしまうじゃなぁあああべしッ!!??」



翔ちゃんが言い終わる前に俺の拳が翔ちゃんの顔面を貫き意識を刈り取る。そこには何の躊躇いもなかった…


その後、気を失った翔ちゃんは真純に丁重に教室から追い出されたのだった。

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