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運命の赤い糸  作者: 頭山怛朗
6/21

偵察

<3>


 私は「L亭」の駐車場で方向転換しY字路に戻り左に曲がった。


 柳田四郎の家の前を通過した。これから殺そうと計画している人間の自宅の前に車を止める愚考を私はしない……。門柱に「柳田」という表札が掛かっていた。間違いない。

 柳田四郎の家の前を通り過ぎると、そこの神社があった。目立たないように駐車場に車を止め石段を登り、社の前に出た。

 そこから、柳田四郎の家の様子がまる見えだった。何て、運がいいのだろうと思った。何をしても私は運がいい! ここからなら“獲物”の様子が手に取るように分かる。

 大きな家で手入れもされている。敷地も大きく、庭の手入れもされている。庭師が入っているのだろう。ちょっとした“お城”のようだ。その“お城”の駐車場に軽が一台だけ。

 土曜日午後三時。家族は出かけているのだろうか?

 まるで、その回答のように老人が家から出てきた。柳田四郎だ。三十数年ぶりになるが柳田四郎本人だと確信した。柳田は車の助手席を開けレジ袋から鋏、選定バサミを出して、庭木の選定にかかった。だが、十分もすると柳田の動きが緩慢になり、十五分で選定を止め家の中に消えた。

 その後、三十分間観察したが柳田はもう出てこなかった。

 幾らなんでも選定時間が短すぎではないだろうか? 体の具合でも悪いのだろうか?



「予約はないのですが、今日、泊めてもらえますか?」と、私は五十過ぎの女に言った。

「大丈夫です。どうぞ」と、女が答えた。「宿帳、書いてもらえますか? 」

「勿論」と、私は答えた。出鱈目とは分からない程度の嘘の住所と名前を書いた。すぐ近所で、これから“殺人”を計画している者が、本当の住所・氏名を書くお人よしなど何処にもいない。

 一瞬、女の顔に何かが浮かんだような気がしたが気のせいだろう……。


 夕食は山菜と川魚を中心とした和食だった。

「ここへ来るのに迷子になってしまいました」と、私は女に言った。女がまた、不思議な表情を浮かべたような気がした。「Y字路を左折しないといけないのに、右折してしまった。そしたらお城みたいな家があった。今でも、あんな家あるんですね」

「あぁ、柳田さんの屋敷ですね。柳田四郎さん。元校長で、つい最近までM市の教育長をされていました」

「柳田四郎? 」と私。「理科の先生? 」

「そう! 」と、女。「先生が若いころ、まだ独身だったころの先生に習いました」

「私も習った」

「この辺の生まれの人間なら先生に習った人、大勢いますよ。いい先生でした」

「そうだね。ところで、先生はお元気? 」

「奥さんが三年ほど前にお亡くなりになって……。娘さんは東京。息子さんはニューヨーク。お二人ともめったに帰ってこられません……。二人とも、もう何年も帰ってこられていませんよ。先生もお年ですから、最近はあまり元気がありません」

「そうですか。寂しいね。つまり先生は独り暮らし? 」

「えぇ、独り暮らしです。ただ火曜と金曜には家政婦さんが来ているようです」

「そうかい 」

 宿の女は部屋から出て行った。


 貴重な情報を手に入れた。

 柳田四郎は独り暮らし、都合がいい。殺人決行は火曜と金曜は避ける。日曜が適当だろう。日曜日に決めた。郵便配達も日曜日はこない。上手くいけば柳田四郎の死体発見は火曜になる。自分が死ぬと理解した時、柳田はどんな目をするだろう?死体を見つけた時の家政婦はどんな顔をするだろう? 

 ただ、実際に殺しをするのは少し時間を置く! もし、警察がここに不審者の捜査に来たとき、私のことが話題になっては不味い。数週間、否、一ヶ月は置くべきだ……。

 それから、もしもの時のためにアリバイを考えておかないといけない。


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