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運命の赤い糸  作者: 頭山怛朗
2/21

女刑事は和田君と出会う

女刑事が恋をする?

<プロローグ その2>


 少年があの日の夕方、女の部屋を趣味のバード・ウオッチング用の双眼鏡で覗くと、下着姿の女が窓辺に立っていた。女は少年が覗いているのに気づくと手まねきした。

 少年は迷った挙句、数分後女の家のチャイムを鳴らした。

 普段着に着替えていた女は、少年の顔を見ると嘲り笑い言った。「あら、本当に来たの。冗談も分からないの? 勉強は出来ても、実生活では落ちこぼれね」と言い、女は少年をついた。

少年は反射的に、女を突いた。女ははずみで下駄箱の角で頭を打ち不気味な音をたてた。女の頭の下の玄関のたたきが血でみるみる赤く染まった。

少年は後も見ずに夢中で逃げた。


 少年は言った。「これで眠れる。僕はもう限界だ。あなたに声を掛けてもらわなかったら死んでいた」




 数週間後の四月一日、美鈴が机の引き出しを開けるとあの名刺が入ったビニールの小袋があった。美鈴は名刺の指紋と事件現場に残っていた持ち主不明の指紋とを照合するつもりで、わざと他人の名刺を最初に少年に渡した。名刺に残された少年の指紋を照合すれば少年を逮捕でき、美鈴の初手柄になっていた、だろう……。でも、美鈴は少年に自首の機会を与え、少年は自首してきた。

 美鈴が肩を竦め名刺をゴミ箱に放り込んだ。“少しも後悔していない”と言うと嘘になった。

「すみません」と男の声がした。顔をあげると会計課長と若い男が立っていた。

 会計課長が言った。「新採用、今日からうちに来てくれる和田君だ」

 美鈴は若い男をじっと見つめた。気のせいか男の顔が赤くなったような気がした。

 二人の間が“赤い糸”で繋がった。ただし、今回は互いの左手薬指。“私、この男と結婚する? ”美鈴は心の中で呟く。“馬鹿馬鹿しい。ありえない!! それではハーレクインの世界だ”

 美鈴はハーレクインを読んだことはないが、その存在は知っていた。“御伽噺だ! ”

 会計課長と和田君(“君”がぴったりだ)が刑事課部屋を出て行った後、美鈴はぼんやり考えた。

 新採用ということは和田君、自分より六・七歳年下ということになる。でも、今の和田君は“若い”と言うより“幼い”。 では、和田君は高卒で十八? そうなると自分より十歳年下になる! それでは私は“女”ではなく“おばさん”だ。この左手薬指の赤い糸は何かの間違いだ!

 でも、気になる。


 夕方六時半、美鈴は警察署を出た。左手薬指の純一君とを結ぶ赤い糸は、まだ繋がっていた。それは署外に伸びていた。純一君は家に帰ったのだ。

「和田君の家は何処? 」美鈴は車の運転席に座って呟いた。純一君の家を見たいと思った。でも、それではストーカーだ。女刑事がストーカー! 不味いでしょう……。思わず笑ってしまった。でも、和田君の家と自分の家は同じ方向。仮に、仮にだけれど、仮に自分の家までの途中に和田君の家があれば何の問題もない。

 美鈴はそんな言い訳を自分にして車を発進させた。

 幸いなことに、美鈴と純一君を結ぶ赤い糸は美鈴の家の直前のファミレスの中に消えていた。美鈴は迷わず車を駐車場に入れ、ファミレスに中に入った。美鈴が口煩い母親から逃れるために、時々使っているファミレスだ。

 和田君は禁煙席の壁際席で独りぽつり、何を考えているのかぼんやり座っていた。

「あら、和田君じゃないの?偶然ね!」と美鈴は言ってから、自分でも白々しいと思った。「ここ、座ってもいいかしら?」

 和田君の顔が赤くなった。昼間は気のせいかと思ったが、今度は間違いない。和田君は自分のことを“おばさん”ではなく、“女”として見てくれているのかも知れない。自分も顔が赤くなったような気がした。

 こんな気持ちは初めてだった。

でも、この左手薬指の赤い糸は何かの間違いだ! 現実にハーレクインなんてありえない……。


「も、勿論!」和田君は口ごもって答えた。


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