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運命の赤い糸  作者: 頭山怛朗
13/21

私は津田四郎に利用されたのか?

<10>



 私は私が殺した津田四郎の殺人のM市市民への影響に驚いた。


 私は末席と言え役員。個室が与えられている。個室にいても遊んでいるわけではない。役員としての仕事の他に、ちゃんと新しい素材の設計やアドバイスをしている。それでもトイレや気分転換に部屋をでることがある。色んな噂話が耳に入ることがある。“Hの味噌ラーメンが旨い”とか“何処そこのコンビニの店員が可愛い”とか他愛も無い話だ。

 ところが、このところ社員達の噂話は津田四郎が殺された事件の話ばかりだが、みんな適当なことを言っている。が、そのほとんどが出鱈目な話だ。

 唯一、津田四郎の死の真相を知っている私としては真実を語りたいところだが、勿論、そんなことはしない。ただ、私は咳払いをするだけだ。すると、皆、慌てて仕事に戻っていく。

 私は優越感に浸った……。

 ところが、ある社員の噂話は私を驚かせた。

 その社員の母は津田四郎が屋敷に週二回通う家政婦だ、と言うのだ……。で、その母親の話によると津田四郎は癌に侵され、後数ヶ月の命だったという。津田四郎本人も「早く妻のところ行きたい」と言っていたというのだ。何時か、「誰か、私を殺してくれないだろうか? 」と言ったという。「自分を殺してくれる殺人者が現れたら、私は喜んで無抵抗で死んでやる」とも言ったと言うのだ……。

 ……。それで、私はあの時津田四郎が無抵抗だった訳が解ったような気がした。嬉しそうな笑いさえ浮かべて殺されて逝った。

 ……。津田四郎は、あの時、私を見た瞬間私が何の目的で自分の前に現れたのか理解したのかもしれない。それで、わざと私を侮辱する言葉を言ったのだ。私はそれにまんまと乗せられたのだ……。私は利用されたのだ。

 でも、この真実を知っているのは私一人だ。テレビでも殺人者の遺留品は「何一つ発見されていない」と言っていた。“通り魔”による殺人しか考えられない、と言っている。警察が私のところに来ること決してなく、逮捕されることはない。

 私は珈琲カップを持って通りを見た。軽の乗用車が一台止まっていた。運転席に若い女、なかなかの美人だ。女はこちらを窺っているようだ。何者だろう? 警察? まさか、そんなことあり得ない! それに、警察が軽乗用車を公用で使っているなんて聞いたことない。 警察ではない!

 では、何者だ? 私が津田四郎を殺したこととは関係ないのか? やはり、人を殺したので必要以上に神経質になっているのか?

 それが命取りになるかも知れない。


 美鈴は右手薬指に繋がった赤い糸につられてそこに来た。

 赤い糸はその家、否、屋敷の中に消えていた。凄い豪邸だ。美鈴の家、父親と母親が苦労して建てた家はそれと比べたら“ウサギ小屋”だ。表札に“大津卓郎”とあった。

“大津卓郎”。何処かで聞いたことがある名前だが思い出せなかった。

 通りすがりの中年女に「凄い豪邸ですね。誰の家です? 」と聞いたら、「あら、知らないの。大大津卓郎。K社のお偉いさんよ! 」と答えた。で、納得した。

 車庫にレクサスが止まっていた。

「凄い豪邸でも、独り暮らしよ。羨ましくはない」と、中年女は聞いてもいないことを言った。知りたい情報は得た。

「何でも、今度の津田四郎さんの市葬の葬儀委員長をするそうよ」と、またも中年女は貴重な情報を教えてくれた。中年女はそれだけ言うと、美鈴を一瞥して立ち去った。

 “殺人”ということで遺体は司法解剖に回され、また、M市の市葬準備で遅れていた。

“相手はこの街では大物だ。下手に手を出せない”と、美鈴は思った。

“それにしても葬儀委員長が殺人犯なんてありえるのだろうか? 津田四郎と大津卓郎とはどんな関係だろう? もし、大津卓郎が津田四郎の中学校の先生だったとして、さらに中学校時代に二人の間に何らかのトラブルがあったとして、今、三十数年も経っているではないか? 今更、殺人なんて危ないことを、地位も名誉も資産もある男がするだろうか? この右手の赤い糸は間違いなのか? ”


 美鈴は気を取り直して、レクサスのナンバーをメモした。


ヤフーブログに再投稿予定です。

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