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運命の赤い糸  作者: 頭山怛朗
12/21

私は葬儀委員長になる

<9>



 私は津田四郎を殺した後、県道のトンネルを抜けG市に入り、海岸沿いの別荘に向かった。久しぶりだった。別荘についてすぐゴミ袋を出して手袋・服・帽子、スニーカーを入れゴミ集積場に持って行って誰も見ていないのを確認して捨てた。津田四郎を殺した現場には何も残さなかった自信はあるが、万が一と言うことはある。犯行時に着ていた物を使い続けて、家宅捜査を受けそれらが決定的証拠になっては困る。

 私は海の見えるベランダに珈琲カップを持って出た。海に沈む夕日が美しかった。

 それにしても、津田四郎に私の正体を言い当てられたのは計算違いだった。

 それに私は津田四郎に侮辱された。津田四郎は私を欠陥人間のように言った。私が利口な女に愛される資格がないように言われた。殺されて当然だ。でも、何故、津田四郎は殺される瞬間嬉しそうにしていたのだろう? 私は恐怖、慈悲を求める目を求めていたのに、実際に死にゆく時津田四郎の目にあったのはそれとは全く逆の物だった。黄色の小菊に囲まれた津田四郎の死体を思い出した。

「M市で長年教育長をされていた津田四郎さんの遺体が発見されました」

 居間のテレビが言ったのが聞こえた。

 私は慌てて居間に入った。私の計算では火曜日に通いの家政婦に発見される予定だったのに、ここでも計算違いが発生した。私の計算違いが発生した理由はすぐに解った。“近所の主婦が回覧板を持ってきて、首を絞められた津田さんの遺体を発見した”とテレビが伝えた。

 テレビは津田四郎は数年前に妻を亡くし一人暮らしだったこと。教育長を務めていたけれど、体調を崩し半年前に辞めていたことを続けて伝えた。

 M市長が画面に現れ“大学を卒業し先生になったばかりの津田先生にお世話になった。今の自分があるのは津田先生のお陰だ”と言った。私の知り合いの市長は泣いていた。

 そう、私も“今の自分、K社の最年少役員の自分がある”のは津田四郎のお陰だろう。先生のお陰で“理科”の面白さを知り大学もそっち方面に進学したのだ。

 でも、私は津田四郎のために涙を流したりしない。津田四郎は私を侮辱したのだ。殺されて当然だ。

 その時、スマホが鳴った。

 相手はつい先、テレビで涙を流していた中学の先輩M市長だった。市長は「津田先生が亡くなったのは知っているか? 」と聞いてきた。「今、テレビを見て驚いている」と私は答えた。「市葬を行いたい。市議会も異義がない。私に批判的な連中も賛成してくれた。で、君に葬儀委員会の委員長をやってもらいたい」と相手が言った。「……」私は複雑だった。「もしもし」と相手が言った。「私は津田先生には何年も、卒業以来会っていません」と、私。「それは自分も五十歩百歩だ。教育長をお願いした時まで、何年も会っていなかった」と、市長が言った。「私みたいな若造でいいのですか? 」と私は言った。「M市はK社の城下町。でも、K社の社長も会長も他の役員も津田先生とは関係ない。でも、大津さん、あなたはK社躍進、つまりM市の立役者で、津田先生の教え子だ。必要充分条件だ 」と電話の向こうのM市長が言った。

「解りました」と私は答えた。こうして私は私が殺した恩師・津田四郎の市葬の葬儀委員長を務めることになった。何という皮肉だろう? 



 老人の目撃証言は実に頼りないものだったが、一応、老人宅の被害者宅の家からトンネルよりの数軒に当たったがその時間に車を使った者はいなかった。軽トラを含めても……。老人の目撃した車が殺人者の車の可能性が高い。しかし、それは捜査にあまり参考になるとは思えなかった。「軽トラではなかった」では……。それに、老人は言った。「もし、裁判で目撃証言を求められてもおれは証言しないから……。おれの一言で刑務所行きになっては寝覚めが悪い」

 現場から殺人者の遺留物を何一つ発見されなかった。さらに、いくら関係者に話を聞いても個人的なトラブルや借金もなった。教師時代、教頭・校長時代のトラブルも無かった。なら、“通り魔的殺人”だろうか?

 迷宮入り?

 しかし、それは許されなかった。マスコミが騒ぎ立てた。教え子の市民が次々と問い合わせてきた。中には“陣中見舞い”といって飲み物まで持ち込む人までいた。

 また、M市長が「早急に先生を殺した犯人を捕まえて欲しい! 」と署長に電話してきた。


 署長がわめいた。「勿論だ! おれも津田先生にはお世話になった。犯人は死刑にしてやる! 」


ヤフーブログに再投稿予定です。

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