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運命の赤い糸  作者: 頭山怛朗
10/21

私は人を殺した……

<7>


 私は“殺人”の誘惑に我慢できなくなった。


 柳田四郎のことをL亭で色々聞き込んでせめて一ヶ月は待とうと思ったけれど、我慢できなくなり四月の最初の土曜日、“連続殺人”の最初の殺人を決行することにした。事前に柳田四郎の住む地域の郵便配達の時間を住民を装うって調べた。殺しの現場を郵便配達に見られては不味い。一人殺す予定が二人になっても別に構わないが、現場を見られた郵便配達に逃げられては困る。

 幸いにも配達予定時間は「午後二時ごろ」とのことだった。

 全てが私の最初の殺人に好都合だった。

一、柳田四郎は老人の一人暮らし。

二、家が集落から一軒、ぽつり離れている。

三、家の前の道路にはほとんど交通量がない。

 私は無神論者だが「神」に感謝した。


 私は早めに昼食をすませ、午後一時には柳田四郎の家を見下ろせる神社の境内にいた。

 午後一時五十分ごろ、郵便配達が現れ郵便受けに手紙を入れた立ち去った。予定時間より十分でも早く郵便配達が終わったのは私にとって好都合だ。

 

 午後二時三分、柳田四郎が家から出てきた。

 連続殺人の最初の殺人の時が来たのだ。

 私は期待で興奮した。こんなに興奮したのは久しぶりだった。“何時以来だろう? ” 私は自問した。私が一生でただ一度だけ、たった一人愛した女にプロポーズした時以来だ。あれ以来、私は誰も愛したことがない。何かに興奮したことも、何かに感動したこともない。結婚はしたが上司(今は部下だ)の紹介だったし、男の生理的現象を解消するためだけだった。でも、それは直ぐに破綻した。妻が別の男の所に走ったのだ。「分かれて欲しい」と、妻は言った。「あなたとの生活をこれ以上続けられない」とも言った。私はあっさり同意した。こちっも妻との生活にうんざりしていた。子どもがいなかったのが幸いだった。妻の裏切ったのだから“慰謝料”を請求しても構わなかったが、私はしなかった。弁護士に任せればいいのかも知れないが、それすら面倒だった。要するに私は妻を少しも愛していなかった……。

 私は指紋を残さないために手袋をし、殺人現場に髪の毛を残さないために帽子を被った。


「大津卓郎でないか? 」 私が道路から柳田邸の庭にあがると柳田四郎が私に言った。殺人者が獲物に機先を制されてしまった。

「先生、お久しぶりです」私は気を取り直して言った。

「本当、久しぶりだな。三十数年ぶりだな」津田四郎は黄色の菊を右手に持ち言った。

「そうですね。本当、お久しぶりです」

「元気にしてたか? 」

「はい、おかげさまで。菊ですか? 」

「私は菊が好きでね。それも黄色の和菊が好きだ。仕事をきっぱり辞めたから好きなだけ菊の世話ができる……。それで、K社の躍進の立役者、かつ、最年少役員か? 」

「はい」

「お前、抜群に頭良かったからな……。こいつは“物になる”と思ったのを覚えている。…で女房、子どもはいるのか? 」

「……。残念ながら、独身です。一度、結婚しましたが別れました。子どももいません……」

「そうだろうな」と、柳田四郎が言った。

「……」私は思わず柳田四郎を睨んだ。

「お前は頭が良いが自分しか愛せない可愛そうな欠陥人間だ。こんな男と結婚しても幸せになれないことくらい頭のいい女なら結婚する前に分かる。頭の悪い女でもしばらく一緒に生活すれば分かる」

 私は怒りに燃えた。私はこれまでずっと、皆に一目置かれたきた。こんなに侮辱されたことはなかった。私の中で何かが切れた。私は柳田四郎の首を必死、全力で閉めた。獲物は不思議と全く無抵抗だった。獲物の目が恐怖に震え、慈悲を求めるのを期待した。私はそのために人を殺そうとしているのだ……。しかし、そこにあったのはそれらでなかった……。そこにあったのは“歓喜”だった。


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