8話:中等部、三年教室で。(2)
こうして、お昼休みのあいだ、わたしはあかりちゃんとパンツ談議に花を咲かせていました。
あかりちゃんは、赤みがかったショートの髪を揺らして、ちょっぴりはしゃぎ気味です。
「まさかみちる、お兄さんのパンツを学校に持ってきちゃう変態だったとはね! 意外だったよ!」
「ふふふー、ま、変態ではないのですけどね」
「おやおやぁ? 澄ましてるねぇ~。いやぁでも、この二年ちょっとのあいだ全然気づかなかったよー!」
「ふふふ-、ま、わざわざ暴露することでもないですからね」
今回は自分自身のミスから兄パン好きが知られてしまったけれど、相手が親友のあかりちゃんで良かった。
「あ! もしかして……実は今、お兄さんのパンツを穿いてたりしてっ?」
「あはは、それはありえないよあかりちゃんー。兄さまのパンツは被るものであって、穿くなんてあるわけないよー」
「……え?」
「……ん?」
「……え、っと……。ま、またまたぁ~。じゃ、今はみちる、どんなパンツ穿いてるんだよ~ぅ!」
「レースつきの紐パン」
「んなっ!?」
「……紫色のね」
「ま、マジデ……!?」
「しかもTバ……」
「ちょっと待ったらんかいタメゴロォォォォー!!」
「あいたーっ」
「はっ!? ごめんみちる! つい興奮してチョップしちゃった……!」
「うう~、今日はよくチョップされる日だ~」
「ご、ごめんね……! でも、本当にティ……てぃ……レースつきなのっ? 証拠見せてよぉ!」
「証拠? うん、ホラ」
「ぎゃーす! ガチでしたかっ!!」
「こんなことで嘘つかないよー。そーいうあかりちゃんは、どんなパンツ穿いてるのぉ?」
「……普通の……パンツだよ?」
「お、怪しい反応だよあかりちゃん? どれ、このみちるに君のお召しになったものを見せてごらんなさい?」
「ひ、ひぃぃ! 無理矢理はダメだよぅ!」
「むー、じゃあ自分で見せてよ」
「うぬぬ……、じ、じゃあ……ほんのちょっとだけだよ……?」
そうして、あかりちゃんは顔を真っ赤にしながら、上目遣いでこっちを見つつ、スカートをたくしていきます。
「ちょ、ちょっとだけだからね……! ……ちらり!」
こっちにだけ見えるくらい控えめに、あかりちゃんはスカートの端をめくりあげました。
ふむ……。
なるほどね……。
「み、見た……?」
あかりちゃんは恥ずかしそうに尋ねてきます。
「うん見たよ! あかりちゃんにピッタリのもこもこ白パンツだった!」
「ちょ! そんな大声で!」
「お尻のプリントも見えたよ! 青リンゴの絵が可愛いね!」
「そんな殺生な!」
それはそれは、小柄なあかりちゃんにピッタリな可愛いコットンパンツでした。
「みちる! 殺生だよ! あたしもう、もこもこパンツの子って思われちゃうよ!」
「いいじゃんー、そんな可愛いの、大人になったら穿けないんだしさー。あ、でもあかりちゃんなら似合うかも?」
「んなこたないよ! それにみちるだって、あたしと同じくらいの背なのに紐パンなんて、ハレンチ過ぎるよ!」
「……橘さんたち、そろそろお昼休み終わるから、机戻してください……」
「「あ」」
あかりちゃんとのパンツ談議がヒートアップしかかったところで、クラスの委員長……ふーこちゃんがやってきました。
無口で、人見知り。
黒髪を後ろで三つ編みにまとめ緑色の縁の眼鏡をかけた、いかにも委員長な女の子です。
「わかった。ありがとうねふーこちゃん」
「あ、そうそう! ふーこちゃんは今どんなパンツ穿いてるのっ?」
ふいに、赤い髪の猛者が委員長に向かって爆弾を投げつけました。
「……」
「もしくは、どんなパンツが好きかなっ?」
「……」
しばらくの沈黙。
ふーこちゃんはしばらくあかりちゃんを見つめたあと、くいっと眼鏡のズレを直し……。
「……ふん……」
そう言って自分の席へと戻って行きました。
「鼻で、あしらわれちまったよ……」
「うん。あかりちゃん……委員長を敵に回したね」
「どどど……どうしよう……! あたしがもこもこパンツなの、先生にチクられたら……」
「そこなのっ!? いや、さすがにそれはないよ……。あったらセクハラだから、ね?」
ビビるあかりちゃんをなだめつつ、わたしは後でふーこちゃんに謝ろうと思いました。
……紐パンであることをチクられるのが、怖かったのです。




