4話:校門前で。
「では兄さま。また後ほどです」
「ああ、またな」
学園の門をくぐったところでみちると別れる。
トテトテ。中等部の校舎へと走っていくみちるのうしろ姿は、まさに眩しいほど普通の女子中学生だ。
「おお~? 誰かと思えば、橘じゃないか」
「ん?」
すると、後方から声をかけられる。そこには僕より少し背の高い男子生徒がいた。
天然か人工か。ウェーブのかかったショート髪は赤みのある茶色で染まり、どこか人を見下すような細い目はやや吊り上がっている。
「逆に口元はムッツリと笑みを浮かべていて、それはそれはイヤらしくスケベ丸出しな……」
「ちょっ!? そこだけ口に出すってどういうことっ!? てか、ムッツリっていう卑猥な擬音っ!?」
片足を上げてビシッと指さしツッコミをする彼は、僕のクラスメイト。
隣の席の山下和斗だった。
「ふ……まぁ、そうやって嫉妬する気持ちはよくわかるけどなっ。俺の顔に免じて許してやるぜ……」
サラリと髪をかき上げ、決めポーズ。そのまま眩しそうに太陽を眺めて手をかざす。
こいつはいわばナルシストなチャラ男。=自分大好きな変質者なのである。
「というか、橘は何を見てたんだ?」
「いや、ただ妹を見送っていただけだ」
「お前は相変わらず妹好きだねぇ~。ま、お前の妹小動物みたいで可愛いもんなぁ。ちょっと俺好みかも?」
「……」
「なぁなぁ、妹さんってさ、今、彼氏いんの? なぁなぁ、もしいないんなら俺のこと紹かぶるほぅぁっ……!?」
何やら話してた山下はいつしか校舎の壁に激突していた。
コンクリートの壁に、人型の穴ひとつ。
「あ、すまん。つい手のひらから波動が……」
「う……うぅ……、ちょっとからかっただけなのにぃ……」
ヨロヨロと戻ってくる山下。何かと頑丈なヤツだ。
「ぐふ、お前は妹のことになると熱くなるよな……。一瞬どこの格闘家かと思ったぜ……」
わかってる。コイツがこの手の冗談を言ってくるのはいつものことだ。
でも、勝手に拳が唸りを上げるんだから仕方ない。
「ふふ、でもイケないぜ~。そんなすぐ手をあげちゃ、妹さんだって怖がっちまう……。なんなら俺が、兄の手から彼女を守るナイト様になってやろうかぶるふぁ――――……」
「あ、すまん。つい足から竜巻旋風が……」
♀ ♀ ♀
――中等部。橘みちるが所属する二年Bクラスの教室。
「ああっ! みちる! 見て見て!」
「ん? どしたの、あかりちゃん」
「ほら! 窓の外! 竜巻だぁ!」
「ほんとだー。すっごいねー」
「うん! でっかいね! それにアレ……中に人、いるよねっ?」
「ほんとだねー」




