2話:ダイニングで。
蔑みと哀れみの視線飛び交う第82回家族会議、その翌朝。
スズメのさえずりが聞こえる爽やかな月曜日。学園での新たな一週間がこの日からまた始まる。
「ふへーい。おはよ~」
「おう、みちる。おは……て、おいおい」
朝食を済ませ登園準備をしつつ、そろそろ起こしに行こうか……というところで、当の眠り姫のご登場だ。
ただ、その様子は可憐なお姫様とはほど遠い。朝の光に惑う、行き場を失いさまよう死者のそれだった。
ちんまい体を包みこむパジャマは“凱旋”という二文字を連想させるほどにヨレヨレ。
いつもは大人しい黒髪の頭は、これでもかと言わんばかりにアホ毛のオンパレード。
「どうしたみちる? なんでそんなゲッソリしてるんだ?」
「ふへーい、兄さまー。わたしは睡眠不足なのです-。一睡もできなかったのですー」
「たしかに頬はやせこけ、頭は苔むし、昨日の夕飯は茶碗むしだったが……」
「朝っぱらからしょーもない韻踏まないでください。そして苔生してませんー」
「……ツッコむ気力は残っているようだな。ところで、何か眠れない事情でもあったのか? 期限が今日までの宿題を忘れてたとか、先日忘れた宿題の罰として出された課題をし忘れていたとか、それとも夜中になって宿題を忘れるというテーマについて思い悩んで……」
「兄さまの中でわたしどんだけ宿題忘れてるんですかー。わたしは宿題忘れたことありませんし、成績も結構やんごとないですー」
「やんごとないのか。じゃあ、なんで寝不足なんだ?」
「昨晩、兄さまのナンバー3を入手しそこねたので……」
「あの白黒か。……ん? それが眠れない理由とどう関係が?」
「悔しさのあまり一睡もできなかったのです」
「……。それほどまであの縞々に固執してたのか」
「未練たらたらです。そして夢の中で、それはそれはおぞましい声で語りかけてくるのです」
「何が?」
「何がって、今の流れでおわかりでしょう?」
「…………縞々が、か」
「そうです。わたしを被れ~、置いてくな~って……。ヤバイでしょう?」
「ヤバイな。色々ヤバイが、一睡もできてないはずなのに夢を見るってところがまじヤバイ」
「なので昨日は八時間しか眠れませんでしたー」
「兄以上に寝とるやんけ!」
「アンタら何やってんのよ。さっさっと学園行ってきなさい」
ズビシッ、とツッコんだところで母親からの一声。
もうそんな時間だったのか。
「ふぅ、兄さま……茶番は終わりにしましょうや」
「どっちかっつうと僕被害者ぁー」
そうして僕たちはそろって学園に向かう準備を始めた。




