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19話:三種のパンツ、三つ巴。



 一本筋が通ったように凜とした……だが、その中にも若干の棘が含まれている……そんな声音だった。


 三人ほぼ同時に、声のした方へ顔を向ける。

 殺風景な倉庫のほぼ中央に……一人の女性が手を腰に当てて立っていた。


「あなたが、『フジョー・C』のリーダー……富条腐玲ね?」


 僕とみちるから一歩前に出て、ふーこちゃんが尋ねる。


「ええ、そうよ。貴女たちはその制服からして、隣町の学園生かしら。この場所がわれたということは……あの二人、しくじったのね」


 これはあとでお仕置きね……。

 そう唇を怪しげにひと舐めする女、富条腐玲。


 長身。隣町の学園の制服をキッチリと着こなす姿は、あの金髪不良たちとはまるで対照的だ。

 そしてさらに目立つのは、メリハリのある肢体。薄明るい倉庫内でもきらめくブロンドの長い髪。

 不良どもが“お嬢さん”と言っていたのも頷ける……それほど上品な印象だった。



 ただ一つ。


 ……その頭に被る、白いものを除いていえば。



「富条腐玲……やはりあなたもパンツ異能者なのね!」


「やっぱりそっちに向かうのかっ!」


「ふふ、ご名答。そう……このワタシこそ、兄パン異能“TYPE=(ブリーフ)”の申し子……富条腐玲よ!」


「そっちも随分ノリ気だと……!?」


 頭に白ブリーフを被る不良グループのボス……富条腐玲は、顎に手を添えてふんぞり返っていた。


 容姿、オーラ、声……。そこから発せられる美貌がその一枚で一気に崩壊している。

 まさにコント番組にノリノリで出演する雑誌モデルのような感じだ。


 まさか、みちる以外にも異趣向な少女がいるとは……。しかも、富条とふーこちゃん、今日だけで二人も出会った。


 だが、なぜだ?

 なぜ、パンツを被るんだ?

 もしかして僕が知らないだけで、実は今、女子中学生や女子高校生の中では流行ってたりするのか? パンツ被り……。


「兄さま。実はわたしたち、今後のトレンド先取りかもしれませんね」


「こんなトレンド実に嫌だわぁ。というか、みちる……。なんでお前、僕のトランクスを持ってるんだ?」


「いやはや、バレましたか」


「バレたかもなにも、あからさま過ぎるだろ……」


 ニヒルに笑むみちる。

 いつのまにかその手には、僕のトランクスが持たれていた。


 そしてそれは、プレミアムエディション……『春は曙』。

 ウグイスを思わせるくすんだ黄緑色の地に、薄い桜色のドットが柔らかく映える……まさに春の訪れを感じさせる、僕のトランクス史上至極の逸品だ。


「いつのまに盗ったんだみちるよ……」


「ふふふ……兄さま。今回のように、いつ能力を発揮する機会があるやもと思い、事前に拝借しておりましたのです」


「それは知らなんだ……」


 これはあとでお仕置きだな……。

 僕の心は不本意ながら、金髪二人組に対する富条の心情と重なってしまった。


「これで、三種のパンツ異能者がそろったわけね」


 みちるの持つパンツを捉えたのか、富条はニヤリと悪役全開な笑みを見せる。


 瞬間、この場の空気がぐっと引き締まった。

 その凍えるような空間に針を通すように、ふーこちゃんが澄んだ声で富条に問う。


「金髪さんたちから、あなたがブリーフ以外のパンツを滅ぼそうとしていると聞きました……。それは本当ですか?」


「ええ、その通りよ。この町の秩序(パンツシェア)をブリーフ一色で染め上げる……。それがワタシも目的なの。だからね……その目的遂行に、トランクスやふんどしはとっても邪魔なわけなの」


 そう言って、細身の刃のように目を細める富条。

 相手はこちらに静かな……でも確かな殺気を向けている。そう直感した。


 富条はそれまで頭部に装着していたブリーフをずり下ろし、顔面に覆い被せる。

 両足の出る穴から両目が出るように……てか、よくもまぁ恥ずかしげもなくそんなことできますね? あなたの過去にいったい何があったのかな?


 対するふーこちゃんも、額のハチマキ(婉曲表現)を締め直す。

 てかこの二人、エラい動きがサマになってるな……。今までのみちるの奇行すら子どもの悪戯みたいに思えてくる。


 そんなことを思いながら見ると、みちるもみちるで、僕の隣で『春は曙』を頭上に掲げていた。


「やっぱり、お前も参戦するのか……みちる」


「ええ、勿論です」


 即答だった。

 なんの迷いもみえない良いお返事だな、みちるよ。


「ところで、兄さま? 兄さまは、わたしがただ変な趣味に走ってしまったと……そう思っていますよね?」


「ああ」


「えっ!? そ、そこはちょっと否定してほしかったですが……ごほん、まぁいいでしょう。……でもですね、実はそうじゃないのです」


「そうじゃない?」


「ええ。わたしは、パンツ好きのただの変態ではない。その証拠をこれからご覧に入れましょう。わたしの本当の力……兄パン異能“TYPE=T”の力をっ!」



 そうして、それっぽくタメを作ったあと、みちるは『春は曙』をその栗色の髪に被せた。





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