14話:パンツの法則と謎の人物。
「吉川……お前、大丈夫か? ヤラれたのか?」
「あ、ああ……」
半脱ぎのズボンを軽く押さえながら立ち上がる吉川。幸い目立った傷はないようだった。
「いてて、いきなり金髪ギャル二人組に絡まれてさ……。気づいたらズボンずり下ろされてここに寝転がってたんだよ」
そして、その下半身にはしっかりとパンツが着用されていた。
さっきの話を裏付けるように……“ボクサーブリーフ”だ。
「アイツらたしか、隣町の不良グループの一味だ。オレ、隣町に友達がいてさ。話に聞いたことあるんだよ」
ソイツらは隣町ではわりと有名なワルらしい。
名前はそれぞれ……下須野キワミと木築野ショウコ。
双子のように似通った風貌で、常に二人つるんで行動しているらしい。
「いきなりオレのズボン脱がしてきて、『コイツちげ~わ、トランクスちげ~っつぅの~』とか言って……気づいたら腹に一発喰らって、このザマだよ……」
「いかにもギャルっぽい口調なんだな……」
でもどうやら、ヤツらの狙いはトランクスであることに間違いはなさそうだ。
そういえば、吉川はつい最近トランクスからボクサーブリーフに乗り換えたんだったな。
「それって、オレがもしトランクスだったら、パンツまで脱がされてたってことだよな……? 不幸中の幸いっていうか、今回ほどトランクスじゃなくてよかったって思ったことないよ……」
「もうおちおちトランクス穿けないなぁ……。また襲われたらたまんねぇし」などとボヤきながらチャックを上げる吉川。
それを聞いてハッとなる。
反射的に隣を見れば、みちるも何か感じ取ったのか、同じようにこっちを向いていた。
「兄さま……。もしかすると、これが不良たちの狙いなのでは?」
「さすがは我が妹だ。僕もちょうど同じことを考えた」
お互いに目と目で頷き合う。
こういうところは、やっぱり兄妹なんだな。
おそらく不良どもは、トランクスフェチ……ではなく、むしろその逆。トランクスに対して良からぬ感情を抱いているのだと思う。
それで、こうして無差別に男子を襲ってトランクスだけを強奪し続けた。
自分たちがトランクスを狙っていることを暗に示すことで、トランクスを穿くことの恐怖を被害者の心に植え付けるのだ。
そうして最終的には、この町のトランクスユーザーが徐々に減っていく。
つまり……『トランクスユーザーの駆逐』がヤツらの狙いなんじゃないかと、僕とみちるは考えたのだ。
もちろん確証はないし、なぜこんなことをする必要があるのかはわからない。
だがもし、この考えが当たっているなら……。
「兄さま! このままだと、このまちの ぱんつの ほうそくが みだれます !」
「なぜそんなレトロに危機感を表現したのかは知らんが……これは予想以上にオオゴトかもしれないな……」
このままだと、この町でトランクスを穿く男子が一人になってしまう(一人というのは当然僕)。
その結果、トランクス文化そのものが衰退してしまうかもしれない。
それは非常にマズい……!
「やはり、その不良たちは早急に始末しないといけませんね!」
「なんていうか、お前の善悪の概念ってシッチャカメッチャカだな」
やることは正義、言うことは悪って感じだ。
でもみちるの気持ちはわかる。
わかるが……。
「やっぱり、相手は不良……それに、二人だ。こっちもそれなりに対策を練ってからの方が良いかもな」
「う、う~ん……たしかにです。いくらわたしが兄パン異能の使い手とはいえ……不良相手には厳しいかもです」
「いつからそんなビックリ設定あったんだっ!?」
そんなけしからん異能、お兄ちゃんは知らないぞ?
「……あ、そうだ」
と、吉川が会話に入ってくる。
そういえばコイツがいたっけ……。事件の当事者なはずなのにすっかり存在を忘れてた。
「なんだ吉川?」
「あのさ、オレが下須野たちにヤラれた後、もう一人怪しいヤツを見たんだ……」
「怪しいヤツ?」
「ああ。二人が去って少ししてから、寝転がるオレの近くに来たんだ。深刻そうな顔でブツブツ言いながら、不良の後を追いかけてった。……見た目は真面目そうなヤツだったけど、もしかしたらそいつも不良グループの仲間かも……」
「じゃあ……相手は二人だけじゃないってことか」
「たぶんだけどな……。だから、もし何か調べるなら十分気をつけろよ?」
そして吉川は、その怪しい人物について見た限りの詳細を教えてくれた。
「そいつも女の子だったんだけど、実はうちの制服を着てたんだよ……。うん、たしかに、うちの中等部の制服だった。長い黒髪で、眼鏡をかけてて……そこまではまぁ普通なんだけど、印象的だったのは、頭に赤いハチマキみたいなのを巻いてたんだ」
「ハチマキ……それはちょっと普通じゃないな」
それとも……受験生か?
いや、それでもハチマキを巻いたまま外には出ないだろう。
「……そ、それって……」
「ん? みちる?」
吉川から一通りの特徴を聞き終え、ふと見ると、なぜかみちるがその顔色を変えて目を大きく見開いていた。