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13話:狙われしパンツとは。



 ……そうは言ってみたが。


 “放課後から夜にかけて”という、事件が起こる大体の時間だけは予想できるが、それがどこで起こるかなんてわかるわけもなく……。

 結局、元々知っている以上の情報は大して得られないまま、時間だけが過ぎていった。


 そんなある日の放課後。

 ここ数日間と同じように通学路の範囲を一通り調べたあと、僕たちは帰路についていた。

 初夏といえども、午後五時を回ると町はほんの少し黄色に染まり、やんわりと夕方の気配だ。


「やっぱり、二人だけじゃ無理があるなぁ……」


 僕はつい零してしまいハッとなる。そのまま、隣を歩くみちるの様子をうかがった。

 動機はともあれ、今回の事件を解決しようと頑張っているみちる。

 今のは、そんなみちるの行動を否定するような言葉だったかもしれない。


 そんな心配をよそに、みちるは顎に手を添えなにやら思案しているようだった。


「でもですね、兄さま。ほんの少しですけど、犯人の狙いが掴めてきましたよ」


「ああ、不良どもの狙いがパンツだってことはわかる」


 例の不良グループが狙ってるのは、どうもやっぱりパンツらしい。

 どういう理由かはわからない。だがここ数件の事件でも、被害に遭った男たちは当然のようにズボンを脱がされた状態で発見されていたそうだ。


 ただ……情報を聞く限りでは、その犯人の行動には、ほんの少しだが違和感もあるのだ。


「あと、“全員が全員パンツを奪われてるわけじゃない”ってことだな」


「そのとおりです。被害者の中には、無事パンツを奪われずに済んだ方も数名いるのです」


「襲われてる時点で無事とは言いにくいけどな……」


 ちゃっかり路上でズボンを引っこ抜かれてるわけだし。


「ところで、兄さまはお気づきですか? パンツを奪われた方々の、ある共通点を……」


「共通点? ……ズボン以外に外傷がなかったとか?」


「ブヒブヒ~。残念です兄さま」


 両手人差し指で×印をつくるみちる。どうやら間違ったらしい。

 てかなんだブヒブヒって……。

 なんかバカにされたような感じだなオイ。


「不正解の兄さまには、罰としてPPPを10差しあげます」


「……」


 なんだか謎のワードが登場したぞっ?


「それに、くれるのか? しかも10も。てか、PPPってなんだ?」


 聞くと、みちるは両手を腰に当ててにやりと笑う。


「PPP……それは、『パンツ・プレゼント・ポイント』の略です。合計100ポイント貯まったあかつきには、兄さまはわたしにパンツを一つ贈呈する義務が与えられます」


「やっぱりそんなこったろうと思った!」


 やっぱり損なことだった。


 まったく……さもこっちに有利な言い回ししやがって……。内容は完全にみちる得の僕損だ。

 それなら最後のPも『プレゼント』じゃなくて『ペナルティ』のPでいくない?


「そのPPPは、わたしの気分次第で貯まっていきます。もしご自身のパンツを守りたければ、わたしの期待に添った働きをしなくてはいけません。どうです、悪くない話でしょう?」


「う~ん、まぁ、たしかに悪くな……って悪いわ!」


「あいたーっ」


 みちるの両肩にチョップを喰らわせる。ツッコミ連動式の、渾身のモンゴリアンチョップだった。


「そんなお前しか得しない制度は却下だ却下」


「うう、いたい~……。冗談ですのに~。もぅ、兄さまは可愛い妹にチョップばっかりかます鬼畜さんなんですからぁ~」


 両肩を押さえながら上目遣い・ふくれっ面で抗議してくるが、明らかに僕は悪くないはずだ。

 だからそんな目で見るな、みちるよ。

 なんか僕が悪いことしたみたいな気持ちになるじゃないか……。


「ともかく、共通点ってのはいったいなんだ?」


 なので無理矢理話を戻す。

 まったく、脱線しすぎだ。


 僕が軌道修正すると、ボケっ娘なようで実はちゃんと空気を読めるみちるも改めて本題に入ってくれる。


「ごほん……そうですね。実は、パンツを奪われた方々はみな、共通して『トランクス』を着用していたそうなのです」


「そうなのか?」


「はい。今のところ例外はないようです。それに、今まで犯人が『ブリーフ』を奪い去ったこともないそうでして……」


「なるほど……じゃあ、その不良どもはトランクスだけ(・・)を狙ってるってことか……」


「そう思います」


 うん。

 なら…………どういうことだ?


 その不良どもは、みちると同じようにトランクスにご執心なのか?

 ……ここで我が妹を比較対象に挙げるものなんだか複雑だが。


 それとも逆に、トランクスを穿く人間に怨恨でもあるのだろうか。


「……あれ? ……あ、ああっ!? ちょ、兄さま兄さまっ!」


 少し思考に入りかけたところで、急にみちるの叫び声。

 相当な慌てっぷりのようで、肩甲骨のあたりをバシバシ連打してくる。


「痛い痛いっ。地味に痛いぞみちる……っ。どうしたんだいったい……さっきのチョップの仕返しか?」


「違いますよ! ほら、あそこです!」


 みちるは遠く、ここからまっすぐ向こうを……ちょうどT字路になった場所あたりを指さしていた。


「あれって……まさか……!」


 そこにはたしかに、一人の男が座り込んでいた。

 両手を身体の後方の地面について、くたびれたような格好だ。


「あれって、うちの学生服ですよね?」


「……ほんとだな」


 それは、うちの学園の高等部の制服を着た……男子生徒だった。

 その彼は、ぼんやり遠くを眺めるような眼差しで呆然としている。


 ……ん?

 というか、あれって……。


「あいつ、うちのクラスの吉川じゃないか……?」


「え? 兄さまのクラスメイトの方なんですかっ?」


 そうとわかって、思わず彼……吉川らしき人物の方へ駆けだしていた。

 そして、顔がハッキリとわかる距離まで近づいて、やっと確信した。


「やっぱり、吉川だったか……」


「あ! ……って、橘? ビックリしたぁぁ~。またなんか来たのかと思ったよ……」


 どこか安堵した様子の吉川。


 その彼のズボンはやっぱり……というかなんというか、豪快に脱がされた状態だった。





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