12話:それがパンツァーとしてのモットーです。
「どうやら今回の事件の犯人は、ギャル風の女二人組らしいのです」
教室の最後部。
一限目の授業が進んでいくなか、僕はみちるのひそひそ声に耳をそばだてていた。
「ギャル風の女?」
「ええ。二人ともよその学園の制服を着崩した、いかにも不良っぽい方だったらしいのですよ」
……不良、か。
最近では、隣町の不良グループが悪さを働いているという噂もちらほらと耳にしていた。
もしかしたら、そのグループの一味の仕業だったりするのだろうか。
「……というか、どうしてみちるがそんなことを知ってるんだ?」
うちの担任の話もそこまで踏み込んだ内容ではなかったはずだ。
「それは、うちのクラスに被害に遭った子がいて。今朝、HRの前にその子の友人たちに話を聞いたのです」
「ああ、なるほど」
当事者の関係者なら、先生たちが今伏せている部分も知っていて不思議はないのかもしれない。
「で、わざわざHRを抜け出してまで教えに来てくれたのか」
休み時間や放課後にでも良かったのに。と、そういうニュアンスで尋ねてみる。
「あ、はい……。そこ、なんですが……」
すると、みちるは伏し目がちに俯いて、声をしぼませた。
「なんと言いますか、急に心配になって……。狙われるのが男性ばかりだと知って、もしかしたら兄さまも、って思ったら……」
そう切れ切れに話すみちる。その幼顔にはどこか焦燥に似た感情が浮かんでいるように見えた。
みちる……。
そこまで心配してくれているのか。
事件の噂を聞いていてもたってもいられず、ここまで来たと……。
「兄さまのパンツも狙われるんじゃないかって……すこぶる心配だったのです」
「やはりお前はそっちか! 我が妹というやつぁよ!」
どんだけ兄のパンツが大事なんだコイツは!
というより、優先順位がパンツより劣る兄の存在っていったい……。
……うん、考えるのはよそう。虚しいだけだ。
それに、パンツが大事なのは僕も同じ。パンツに罪はないのだ、うん。
「というか、さすがにパンツは今回関係ないだろうに……」
「いえいえ。実はそんなことはないのです。むしろ密接に関係しているといっても過言ではないでしょう」
ずいぶん丁寧な口調だが、内容がパンツなだけにどうにもしまらねぇ……。
「……つまり、どういうことだ?」
「はい。実はこの事件、一度たりとも金目の物が奪われたことはないそうで。つまり、犯人の狙いはお金ではない……。そのかわり、被害者の男性はみな例外なく、あるものを奪われていた……」
「なるほど。嫌な予感しかしない」
「はい。残念ながら、おそらく兄さまの予想どおりです。奪われていたもの……それはまさしく! 彼らお召しになっていたTHE・パンツなのです!」
「……」
僕は二の句が継げなかった。
答えがあまりに予想通り過ぎて……。
その言葉が、凄惨なはずの事件とはあまりにも似つかわしくなく……ぶっちゃけアホくさくて、言葉が出てこないのだ。
パンツのことが絡むせいか、呆然とする僕にお構いなくみちるは興奮気味に話を続ける。
「ということはです。このままその不良どもを野放しにしていたら、いずれ兄さまのパンツまで危険に晒される恐れがある……。ならば、その前にそいつらを見つけ出し、とっ捕まえないといけません! ヤラれる前に殺る……それが、兄さまパンツァーたるわたしのモットーなのです!」
「あ、熱い……! それに最後の方は完全に意味不明だ……!」
兄の想像のさらに先をいくヒートアップぶりだなみちるよ……!
「……ということで。その『不良どもをぶっ潰せ計画』の詳細は放課後にお話しますゆえ」
そのままみちるは厳かに、されどお淑やかに挙手。「せんせー、トイレ行ってきまーす」と言いながら教室を出ていった。
……今のが自然な退出方法だと思ったら大間違いだぞ、みちるよ。
すでに近くの席からは「今のって、中等部の制服じゃなかった?」とか「あれ、山下は?」とか、ひそひそと騒がしくなりはじめていた。
それはともかく……なぜかその日から、僕とみちるでこの事件を追いかけることになったのだった。