11話:事件についての話でガス。
毎日のように、それこそ朝から晩まで。
僕とみちるのパンツ攻防戦(僕のに限る)は繰り返された。
そして、家族会議も記念すべき第100回を迎えたその翌日。
朝のホームルームを皮切りに、とある事件が幕を開けたのだ――。
♂ ♂ ♂
「え~、今日はみなさんに注意事項があります」
いつものように出欠をとり終えたあと、担任の三好先生(二十代前半:♀)が若干表情を引き締めながらそう言った。
「知ってる人もいるかもだけど、最近、この学校の生徒が何者かに襲われる事件が発生してるの」
いきなりの物騒な話題に、教室が少しざわつく。
「命に関わる事態は、幸いなことにないけど……軽いながら怪我人も出てるわ」
怪我人、か……。
言われてみれば最近、手や顔に絆創膏を貼った生徒をよく見かける。
あれは担任のいう事件で負ったものなんだろうか。
「今のところ、被害に遭ってるのは男の子ばっかりなんだけど……女の子も十分注意して。それから、事件は決まって夜中に起きてるから、夜は大人しく家で過ごしてくださいね」
注意事項を一通り説明したあと、担任は教室を出て行く。
そのまま入れ違いに一限目の教師が入ってきて、さっそく授業が始まった。
それにしても、物騒な事件だな。
今のところ女子が狙われてないと言ってたけど、わざわざ女子よりも比較的力のある男だけを狙う犯人、か……。
なにか理由があるんだろうか。
「犯人は男に恨みでもあるのかなぁ……」
「実はですね兄さま」
「うおっ!? み、みちる!? お前いつのまにっ?」
いきなり隣から妹の声。び、ビックリした……。
見れば、いつもは山下が座るはずの場所にみちるがいた。
さも当たり前のように。……そしてなぜ正座?
教師に気づかれないように、ひそひそ声でみちるが話す。
「実はHR前からここにいたでガス」
「マジか……」
今初めて気づいた。
「あれ、じゃあ山下はどこに?」
「山下先輩には、ちょっと席を外してもらっているのでガス。今この話をするにあたって、彼は超絶お邪魔な害虫的存在でしたので」
害虫的存在て。すごい言われようだな山下……。
発信源が我が妹ながら、それを考慮してもちょっと哀れだ。
「あ、もちろん直接、バクテリア以下のゴミ虫先輩とは言ってないでガスよ? ちゃんと正当で巧みな交渉術で退席していただいたのでガス」
「さらにひどくなってるっ! さすがに山下が可哀想だ! ……て、巧みな交渉術?」
「ガスガス。『後でパンツあげるからどっか行って』と言ったら、ホイホイ出ていったでガス」
「山下ぁぁぁあ――――!」
やはり山下は馬鹿だった。
ちょっとでも可哀想とか思った自分が恥ずかしい!
それよりも、人の妹のパンツに色気づきやがって……。
「コロス。ヤマシタコロス……ブッコロス」
「でも勿論あげませんけどね。入れ食いとはこのことでガス!」
ガースガスガスと笑い、ふんぞり返るみちる。
ようは山下を自分のパンツで釣って追い出したのか。
「ともかく、今は兄さまにお話があって来たのでガス」
「なるほど……。それは、さっきの事件のことか?」
「ガスガス。ちょっと小耳に挟んだ情報があるのでガスが……」
「あ、ちょっとその前に、ひとついいか?」
「? どうしたでガスか兄さま」
「今日はお前、ずっとその語尾で過ごすのか?」
「……」
普通に話が流れてったのでそのまま放置してたけど、さすがにツッコんでおいてやるか。
だってさっきから、少しずつみちるの目がじわじわと潤みはじめてるのだ。
「……あと一回スルーされたら、今日は早退して部屋のベッドに潜り込もうかと思ってました……」
「すまん……お兄ちゃん、いじわるだったな……」
なんとかギリギリのところで妹の心を折らずに済んだようだった。




