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そんじょそこらの英雄たち  作者: 柿ノ木コジロー
中編その1 ヒールもヒーロー
9/18

善悪の直接対決

 本番当日。


 細切れの撮影は無事に終了。リトミックマンと悪役『マックラーれん』との戦いと邂逅シーンも支障なく撮れた、と現場指揮のヤスイが嬉しそうに報告した。

「では、まず子どもたちを襲うシーン、次にみんなでリトミックをするシーン、最後にリトミックマンがマックラーれんをみんなの前で投げ飛ばそうとするシーンを」


 当初の打合せ通り、子どもたちが併せて120人ほど体育館に入ってきた。出演希望者が多く、小学部全体の2/3以上は参加している。もちろん、ケンジローも。


 今日はスミレ先生の肩にしっかりすがるようにして、一番最後に体育館に入ってきた。しかしやはり通常とは違う雰囲気に、指示された場所まで進めず、体育館のマットが積んである隅の方に座り込んで、そのまま落ちついてしまった。


 ヤマベがちら、とそちらを気にするように見たが、すぐに

「いいです、始めましょう」と声を発した。


 子どもらが入った撮影は順調だった。ここ一週間以上、各学年ごとに似たようなヒーローもどき(もちろん中身は学校の先生)とリトミック体操や逃げ回る『練習』を積んでいたため、いざ本物の『リトミックマン』が現れても、大人が期待する以上に的確な動きをみせてくれた。


 マサヨシ扮する『マックラーれん』も本気になって彼らを追いかけ回し、悪の限りを尽くした。3人ほど、大泣きした子がいたがそれは各担任に任せ、悪の化身は心の中で詫びながらも「げっへっへっへっへ~」と縦横無尽に走り回る。ヨウコ先生の仕立ては完璧だった。


 走り回る際に、片隅のケンジローがちらりと視界の端に入った、が、スミレ先生がしっかりと守ってくれていたので安心して悪役に徹していた。


「待て!!」凛とした声が体育館一杯に響く。

 はっ、と止まった所で「はい結構です~~」いったんカメラが止まる。


「マクラ先生、すごーくよかったですよ今の」すでにスタッフからマクラ呼ばわりされているマサヨシ、ぜいぜいと息を切らしながら体育館中央の立ち位置につく。


 いよいよ残った最後のシーン。子どもらの前で、リトミックマンと『戦って、敗れる』場面。すでにおおかたの戦いは子どもら抜きの場所で撮影済みなので、ここでは一回、投げられるフリをするだけだった。


 リトミックマン・鵜飼が傍らに立ち、子どもらに背を向け、おじぎをしないで怖い顔のまま小声で言った。

「では宜しくお願いします。子どもらの前ですので先生も悪役の顔のままでいて下さい」

「はい」

 マサヨシも表情をこわばらせたまま、小さな声で応える。


 この俳優、やはりプロだ。マサヨシにも急に闘志が湧いてくる。


「ではいきます!」監督の声が響く。指を一つずつ折り、途中から声が消えた。

「5、4、(3、2、1)……」ぱっと手を振ると、いきなりリトミックマンが叫ぶ。

「とうとう見つけたぞマックラーれん! 子どもたちを脅し、無理やりに寝かせるとは酷いヤツだ」

「何をコイツ!」

 マサヨシ、柔道の組み手の要領で片手を相手の胸元に出す、そこを払うリトミックマン。そして、だっ、と一歩大きく踏み込み彼の腕を取ろうとした、そのとたん


「あああーーーーーーーーーーーーーっっっっっ」


 サイレンのような大音声が迫り、どん、と胸元に何かが激しくぶつかった。

「っ!」思わず息が詰まる。

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