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そんじょそこらの英雄たち  作者: 柿ノ木コジロー
中編その1 ヒールもヒーロー
8/18

悪の仕込み作業

 リトミックマンと戦う悪の化身、『マックラーれん』の作成に入ったのはお盆過ぎ。


 ヤマベはこのイベントにかなり乗り気なようで、自分が若かったらリトミックマンと戦ったのに、とまで言いながら準備のために体育館使用許可や材料調達を積極的に手伝ってくれた。

 だったらヤマベ先生が戦ってくれればよかったのに、心の中で密かに毒づきながらも基本的には控えめな性格のマサヨシはただ黙って、ムシムシする体育館を思い切り開け放し、大きなウレタンを型紙に沿って慎重に切っていった。


「マサせんせ」可愛い声が、がらんとした館内に響く。はっと顔を上げると、入り口に影が二つ。

「ヤマベ先生に言われて、お手伝いにきました」見ると、一人は同じクラスの担任、42歳になるミズモリヨウコ先生、もう一人、クラスは違うが同じ学年の担当、大学を出たばかりだがまだ正式採用とはなっていないキシガタニスミレ先生だった。


 マサヨシ、胸の鼓動がひとつ飛んでしまった。スミレ先生、どうしてここに?


「あのさあ、マサ先生案外不器用だから家庭科得意なアタシら行って指導してやれってさ」 ヨウコ先生は相変わらずがさつな笑い方でずかずかと中に入ってきた。


 見た目も男性的で体育会系にみえるが、学校一手先が器用だという噂がある。着ている服から仕事用のバッグももちろん、学習発表会での子どもらの衣装なども誰かがアイディアを出すとだいたいその通りに作り上げてしまう。

「助かります」マサは少し泣きそうな声になった。

「何かすでに間違えて切ったような気がしてて」

「あーホントだ、あり得ない形」いきなりダメ出し。「ちょっとどいて」


 魔法使いと化した手さばきでヨウコ先生がウレタンを切る間、彼はスミレと並んで惚れぼれとその様子を眺めていた。


「スミレ先生も、家庭科得意なんですか」話の接ぎ穂にドキドキしながらも聞いてみる。同学年でも近くに寄る機会がなかなかない、この場に感謝だった。

「うん……実は少し苦手ですけど」


 笑い方も可愛い。こちらを見つめてほしい、いや、見つめないでくれ。


「本番の時に脱いだり着たりのお手伝いが一人欲しいって。だから今見とこうかと」


 こんな可愛らしい口から『ぬいだりきたり』なんて、あり得ない、いや、あり得んのは俺の邪念の方だ。マサヨシは暑さ以外が原因の汗を拭きまくる。


「……そうですか」

「それに」こちらを見た、息がつまる。

「本番の時、ケンジローくんにつくのも私が」

 あっ、とそこで胃がストンと沈み込んだ。


「そうですよね」小学部の子どもは保護者の同意があれば一応全員出席となる。もちろん、ケンジローもその場に居合わせるだろう。

 今までケンジローの担当をした教諭は何人か当校にも残ってはいたが、他学部に行った人もいたりであてにはできない。それに、何でも今までの中でマサヨシが一番「彼と仲がよい」と言われていた。


 そんなマサヨシが撮影でどたばたしていたら、ケンジローは一体どうなってしまうんだろうか。そんなことまで気が回らなかった。


「でも、大丈夫ですか? 彼、力もありますし」小柄な体をいたわるように見下ろすと、にっこり笑ってこう言った。

「実は学生時代、ボランティアで何度かケンちゃんと遊んだことがあるんです」


 またまた驚きの事実。

 そう言えば、母親が以前ちらっと言っていたような気もするが失念していた。


「学校でも会うと、頭突きしたりつねりに来てくれるんですよ」あはは、と明るい笑い方。わかるわかる、とマサヨシも笑う。彼、親しくなるとまず接触するんですよね、距離感掴むの苦手だから、そんな『触り方』になるんでしょうが。


 そこでふっと、階段での彼の様子を思い出す。ケンジロー、実はみすずのことを『クラスの友だち』として認めようとする、その過程であんな風に『触ろうと』したのだろうか。


 何となく佇んでいる彼らの足下で、魔法使いヨウコの手元からどんどんと衣装が出来上がっていった。


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