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そんじょそこらの英雄たち  作者: 柿ノ木コジロー
短編その1 駐車場のヒーロー
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駐車場のヒーロー

 その主婦は、語り始めた ――



 その日プリンタが壊れてしまい、私は近くの量販店に新しい製品を買いに出かけました。

 年賀状の印刷のためには、至急どんなものでもいいから、必要だったのです。


 大売り出しということもあり、駐車場はものすごく混んでいました。

 裏口から入り、ぐるりと一周、表側道路のほうまで回ってみたのですがどこも一杯です。

 あきらめてまた裏口の方に戻っていくと出口から3台目、左側からちょうど一台、白い車に若い男性が乗りこんだのが見えて、私あわてて声をかけました。

「あのぉ、出ます?」

 はあ、と彼はうなずいて、ちょっと待ってるように片手をあげてからさっそうと車に乗り込みました。どうもすぐに発進させてくれるようです。


 ほっとしながら、少し後ろの左側に車を寄せ、彼の出て行く様子を見守っていた私でしたが、ふと気が付くと、いつの間にか私のすぐ後ろに黒い乗用車が一台。それも後尾にぴたりとつけているのです。

 脇を通り抜ければ駐車場から出られるのに、どうしたんだろう? と、いぶかしみつつも、前の白い車が出かかったので少しだけ私も車を前に出しました。するとどういうことか、後ろの黒い車がゆっくりと間をつめて、私の車に迫ったのです。

 私が少し出る、すると詰める、また少し出る、詰める……どうも、私をその貴重な空きスペースから追い出そうとしているようです。白い車はもうあらかた出かかっているのに、私はすっかり後ろにヘンなヤツがくっついてしまい、スペースに入ることができません。明らかなイヤガラセにしか思えなくなりました。

 でも、ここでつまらないトラブルを起こしたくありません、はっきりとは確認できなかったものの相手は男性のようだし、下品なパーツで飾り立て黒光りさせた車の仕様からしてもかなりイケスカナイ感じ。

 私はじろりとバックミラーごしにその車を睨み、ハンドルを切って白い車の男性に手を挙げて礼だけ示すと、そのまま泣く泣く駐車場を出ました。当然のように黒い車は空きかけた所に入って行こうとするのが、サイドミラーからも見えました。


 ムシャクシャしたまま近くを流していたのですが、そうだ、少し間があけば他が空いているかもしれない、と思い直し、私は先ほどの店に戻って行きました。

 今度は表から入り、ずっと見渡しました。が、やはり空きはなし。

 仕方なくまた裏手まで車を進めると、何と言うことでしょう!


 さっきの白い車と若い男性が、自分の車を半分を出しかかった状態のまま、外に立って待っていてくれたのです。私の車をみつけると、ぱっと笑顔で手を挙げ

「よかった、とっといたから」

 それだけ言うと、すらりと車に乗り込み、そのまま滑るように去っていきました。


 まるで、白馬に乗って、姫を助けて去って行く王子様のようでした。


 もちろん、黒い車はもう影もかたちもありませんでした。

 私はいつまでも、その白い車影(かげ)を目で追い続けていました……





 この話は9割以上実話ですが、更にかなしい事実変換が必要な方には一つだけ追加情報を。


 待っていてくれたのは、白い軽トラック、そして乗っていたのは推定50前後のオッサンでした。首の手ぬぐいが眩しかったわぁ。


 それでも、どんな人にもヒーローの兆しあり。ほら、私の傍らのあなたにも。





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