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7話 攻略されました。

「ねぇ、主要攻略対象だった睦月和哉が行方不明なんだって! 知ってた!?」

「ああ! 知ってる知ってる!! 自分から失踪したのか、何かの事件に巻き込まれたのか、まだよく分かってないって話だよね!」

「そうそう。なにか手紙が残されてたわけでもないし、他に失踪した人もいないし、本当にどっちなのか分からないよねー」


 あの、卯月の告白から一週間がたった昼休み。 屋上に行く道すがら、耳を済まさなくてもこのような会話がいくつも耳に入ってくる。


 私の幼馴染みであり、私に執着していた、――睦月和哉が失踪した、と。

 何故失踪したのか、今何処にいるのか。失踪したのが一週間前だということ以外は何一つわからない。

 睦月に最後に会ったのは、間違いなく私たちだ。睦月が失踪したのは私が原因……?


 ……やめよう。私は被害者だ。私はただ、卯月と逃げただけ。こんなことを考えるべきではない。折角今から卯月に会うのだから、もっと別のことを考えよう。


 昼休みは屋上で卯月と一緒に昼食を食べたりお喋りしたりして過ごしている。

 クラスに私の居場所がないから。

 睦月が失踪したため、クラスメートたちとも話せるかと思っていたが、そうはいかなかった。いまだに学校の関係者たちは私を怯えた目で見てくる。睦月が失踪したことも尾を引いて、世良川橋架と関わると消される、という噂が出回っているらしい。消す人間はもういないはずなのに……。

 だから、私は学校で卯月と会う場所は屋上だけだと決めた。屋上は一般生徒の立ち入りが禁止されている。私と卯月以外は人がいないのだ。他の人たちに怯えられることも、可哀想なものを見るような目で見られることもない。なにより、屋上は一番大切な場所だから。


 あの日から五日後、つまり、今日から二日前、また夜に卯月から屋上に来るように呼び出された。





  *





「どうしたのー? 夜に呼び出すなんて。ここに来ると告白されたときのことを思い出すね。星空のしたで告白、なんて、卯月は意外にロマンチストだったんだねー」


 私がニヤニヤと笑いながら言った言葉に、『何だよ、悪いか』とムッとしたのか口を尖らせる卯月。なんだか、その予想通りだった反応が予想以上に可愛くて、私は壮大に吹き出した。

 笑われたことでますますむくれていた卯月だが、私があまりにも笑っていたからか、フッと笑みを漏らし、星空を見上げた。


「星空ならどこでも観れるけど、ここで観たかったんだ。ここは、オレたちの初めての場所だから」

「……あぁ、屋上は私たちが初めて逢った場所だものね。その後も会うのはここだったし、一番思い出が詰まっている場所、だね」

「じゃあ、その一番思い出が詰まっている場所に、もう一つ思い出を入れてもらおうか。目、閉じろ」

「え?」

「ほら、早く」

「あ、うん」


 卯月が近づいてくる気配がする。キス、されるのかな……?

 そんな淡い期待を胸に目を閉じていると、卯月の手が首を伝う。『はぁ……』という妙に色っぽい声が耳にかかり、熱い感覚が背筋を這い上がる。

 首の後ろで何やら作業をしているみたいだが、なかなか進まないのか苦戦しているようだった。幾分たった頃、『よし、できた』という声が聞こえ、ようやく長かった格闘も終わったようだ。

 卯月が私から徐々に離れていく。少し残念に感じてしまった自分が恥ずかしい。もう目を開けてもいいだろうか。


「目、開けて――あ、やっぱりまだダメ」


 卯月に言われ、開けようとしていた目をもう一度閉じる。卯月はいったい何をしているのだろう。

 離れていた卯月の顔がもう一度近づいてくる。


「期待させたみたいだし、彼女の期待には彼氏として応えないとな」


 私の唇に卯月の柔らかいそれがそっと重なった。触れるだけの優しいキス。ついばむように何度もされ、チュッ、チュッ、と可愛らしいリップ音が静かな夜空に響きわたる。目を閉じているせいで感覚に意識が集中してしまい、焦らされているようでくすぐったい。

 そんなキスも次第に熱をおび、深くなる。卯月の舌が口を割って口内に入り込んできた。

 歯列を丁寧に舐め回し、私の舌と絡ませる。卯月の唾が私に流れ込んできた。私のとも卯月のともつかない、飲み下しきれなかった唾は口の端から溢れ、追いかけるように卯月の唇が舐め取る。

 キスに慣れていない私は苦しくなり、卯月の胸を軽く叩き催促すると、それに気づいた卯月は唇に吸い付くと名残惜しそうに離れていった。


 私は目を開け息を整えると、卯月が何やら作業をしていた首に手をやる。

 そこにはシルバーのチェーンがあり、胸元には繊細に掘られたセンスのいい指輪がぶら下がっていた。どうやら、ネックレスを私に着けてくれていたらしい。


「えっと、これは?」

「婚約指輪。指にはめると、学生だし色々と邪魔だろ?いつも身に付けてて欲しいから、チェーンを付けてネックレスにしたんだ」


 卯月は妖麗に微笑むと、私の左手を取り、目をまっすぐに見つめながら薬指に口づけた。私の顔が一気に耳まで赤く染まる。


「――っ! ……婚約、指輪?」

「オレは、お前と結婚したい。オレたちは高校三年生だから、式は無理でも籍はいれておきたいんだ。高校生が何を言っているんだって思われるかもしれないけど、オレたちは終わらない一年間を六十回も繰り返してきた。バッドエンドで一年を過ごさずに終わったこともあったけど、それでも普通なら余裕で成人はしている。それに、精神年齢を言えば大分上だ。早まっている、とは思わない。……橋架、オレと結婚して欲しい」





  *





 最初は誰でもいいから攻略して欲しい、と願っていた。だけれど、卯月と過ごすうちに卯月に攻略されたい、と思うようになっていた。むしろ、卯月じゃないと嫌だ、とも。


 今現在、睦月は行方不明だが、生きている限り彼は私を追い求めるだろう。それほど睦月の執着は異常だ。

 私のもとに睦月が来たとき、その場に卯月もいれば確実に何か事件が起きる。

 もしかしたら生死をさ迷うことになるかもしれない事件に、卯月を巻き込んでしまう私の向かう先には何があるのか、幸か不幸か分からない。

 それでも、私には卯月さえいればいい。たとえ、向かう先が地獄であろうとも、卯月が私といてくれるなら……。

 だけど、逆に言えば卯月がいなければ生きていけない。卯月がいないなんて考えられない。

 そう思ってしまう私は睦月のことを言えないくらい、狂っているのだろう。


 ごめんね、卯月。あなたがどんなに望んでも、あなたを離してやれない。

 大好きなの、狂おしいほどに……。




 なーんて、ね。こんなことを思っていたら、また卯月に叱られてしまう。前に謝ったときは、『オレが望んで巻き込まれてることだ。お前に謝られるためにしてる訳じゃない』と怒られたのだ。卯月は私に謝れることをよしとしない。

 だから、私が言うべきことは感謝だ。


 私のことを好きになって、私を攻略してくれてありがとう。あなたに攻略されてよかった。

 あなたが望んでくれるなら、私も残りの生涯をあなたと共に歩みたい。

 あなたのことを、愛しています。


 結婚、という人生を左右する大きな出来事だから、卯月は考えるための時間として高校卒業まで待つと言ってくれた。だけど、私の意志はもう固まっている。私の気持ちを包み隠さず卯月に伝えよう。卯月は喜んでくれるだろうか。

 あぁ、早く卯月に会いたい。


 私は卯月に会うため、屋上へと続く扉を開けた――



これで主人公視点は完結です。

後一話だけありますが、そちらは甘い(?)雰囲気のまま終わりたい方は読むことをおすすめしません。また、

『ヤンデレ大好きっ!!』

『今までの話の展開なんて壊れても全然平気!』

この二つに当てはまらないの方もあまりおすすめしません。


今までの読んでくださりありがとうございました!

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