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5話 誰でもいいから(二度目だけど幼馴染みを)攻略して!

 引っ張り出されたときに胸に抱き止められたので、上に位置するスーパーマンの顔を仰ぎ見る。見えた顔は私が普段よく見る顔だった。その顔を見たら、睦月に抱きしめられたときに嫌悪感で立った鳥肌が治っていく。


「隣の席の山田太郎くん! 君はスーパーマンだったんだね!!」


 スーパーマンは私の言葉に、一瞬グッと回された腕に力が入った。ビックリしてつい力が入ってしまいました、という感じで。


「……はぁ、お前ってヤツは、何でそう……」


 助けてくれた相手にもたれかかったまま、顔を覗きこんでいると、相手にまたも呆れられた。おい、あからさまにため息をつくな。私のガラスのハートにヒビが入ったかもしれないだろ。まだ傷一つ付いていないきれいなガラスなのに。

 そういえば似たような展開のときに、この台詞を実際に声に出して卯月に言ったら『お前のはガラスはガラスでも防弾ガラスだ』って言われた。私はいったいどれだけ神経が図太いと思われているんだろう。殴り飛ばすぞ。


「オレは山田太郎じゃなければ、スーパーマンでもない。それにお前の隣の席はたしか永富進だっただろ?」


 続けて、相手は私のボケに対して冷静に正す。ボケを普通に返すなんて……。酷い。ちょっとくらい、ボケに付き合ってくれてもいいじゃなぁーい!

 ちなみに、今の心境は、仕事の忙しさを理由に夫に全く構ってもらえなくなった結婚三年目の妻のつもりだ。『たまのお休みくらい構ってくれたっていいじゃなぁーい』みたいな。


 さて、こんなどうでもいいことはさておき、私が今やるべきことをやろう。

 四苦八苦しながら身体ごと助けてくれた相手に向き直る。動き出したのに気づいただろうから、腕の力を抜いてくれたらよかったのに……と、少しじと目で見てしまったのはご愛敬。ばれないうちに、すぐさま顔を笑みに変えた。


「ありがとう、卯月。危うく人生最大の汚点を抱えるところだった」

「いや、無事でよかった」


 助けてくれた相手、卯月にお礼を言うと、卯月は先程のビックリして力が入ってしまったときとは違い、今度は安心したようにぎゅっと抱きしめてきた。やっぱり、睦月のときとは違い、卯月に抱きしめられると安心する。助けに来てくれてありがとう、という気持ちを込めて、私も卯月の背に腕を回し抱きしめ返した。

 卯月とそんな風に無事を喜ぶ抱擁をしていると、イラついたように睦月が私を取り戻そうと腕を伸ばしてきた。


「卯月、私の橋架さんを返してください」

「いやだ」


 卯月はそういうと共に、睦月の腕が私に届く前に、私を庇うように私の身体を後ろに押しやり、睦月と距離をとる。それに対して睦月は舌打ちをして伸ばしていた腕を下げた。

 人をもの扱いするな。そんなに踏み潰されたいか。それに、もの扱いのことは百歩譲ったとしても、いつの間に私は睦月のものになったんだ。絶対に嫌だ。たとえ嘘でも嫌だ。折角治まっていた鳥肌がまた立ったじゃないか。


「卯月、邪魔をしないでください。これは私と彼女の問題です」

「そうだな。確かに今のオレには関係ない」

「今の……?」


 睦月が怪訝そうに眉を潜めて、卯月に問いかける。

 卯月はニヤッとでも効果音が付きそうなほどムカつく顔でほくそ笑んだ。私に向けられているわけでもないのに、私もちょっとしイラッとしちゃったっ。てへっ。一回、土に埋めてもいいかな。頭を下にして。

 そんなムカつく笑みのまま、卯月は口を開く。


「将来的にはオレも関係してくる予定」

「……させませんよ」


 睦月は言葉の意味を正確に理解したようで、睦月の回りの温度が五度くらい下がったような気がした。本当に下がるわけはないけど、それぐらい今まで以上に殺気立っている。

 私もなんとなく卯月が発した言葉の意味が分かったが、考えないことにした。今はまだ、心の安定のために。


 そういえばこの状況、私は『私のために争わないでっ!』とでも言うべきなのだろうか。さっきも演じてみたら、助けが来たのだ。なら、ここもやるべきだろう!

 橋架、いっきまーす!!


「二人ともやめて! 私のために――、あ、いや、私の前で抱き合わないでっ!! 背景に薔薇の花が咲いてるよ!」

「は?」

「え?」


 ……ふっ、やりきったわ。美形二人が争っているのだもの。言わなきゃ損だ。余は満足じゃ。私、今回は上手くやれた自信がある。物凄く感情込めたもの。少し前の棒読みから多大な進歩だ。


 私が達成感にしばらく浸り、満足してから睦月の方に目を向けると、ピタリと石像のように固まっていた。

 よしっ! 戦闘不能にしてやったわ! はぁーはっはっはっはっ!! ……あ、私、悪者っぽい。

 だけど、今が逃げるチャンスだ。早く逃げよう、そう考えて逃げようとしたのに、私の背に回された腕によって動けない。腕の持ち主である卯月を見ると、まさかのこちらも固まっていた。


 何で君も固まってるのさぁぁあああ!!


 私が卯月の腕をバシバシ叩いたおかげで、睦月より早く回復した卯月は『抱き合ってないし。変な妄想は止めろ』と私の頭をスパーンと容赦なくはひっぱたいてきた。

 止めてください。痛いです。女子に暴力を振るうなんて、男として恥ずかしくないんですか?

 みたいなことを言ってやりたいが、言ったら確実に私を放置して帰るられる自信がある。だから、私は口を紡ぎましょう。ふふふ。私、やればできる子だもの。

 やればできるなら、最初からやれ。といつも言われるが、やる気が起きないんだからしょうがない。


「橋架さん。戻ってきてください」


 私が叩かれた音で復活してしまったらしい、睦月が私に懇願するように呼び掛けてきた。


 あ? てめぇ、喧嘩売ってんのか? 私がどこかのお花畑にでもいっているとでも思ってんの? バカじゃないの? 戻るもなにも、私はどこにもいってないし。むしろ、いっていたのはてめぇだろ。


 と、一瞬思ったがどうやら違うみたいで、睦月は先程の私の演技は無視する方向に決めたようだ。私の神がかった演技を無視するなんて、いい度胸だな。足の小指をタンスか何かにぶつけてしまえ! ……あれ、痛いよね。私もその痛みの餌食になったことがあるからわかるよ。あんな思い、もうしたくない。

 あ、やべっ。また思考がそれてる。修正しないと。


 睦月が言いたかったことは、『また私の腕の中に戻ってきてください』と言うものだったらしい。誰が行くかバーカ。と言ってやりたいが、いったら確実に私の未来は真っ黒だ。だけど、ここで私が何と言っても私には死亡フラグしか立っていないような気がする。

 仕方ない、ここは……。


 私は卯月に視線を送った。調度卯月も私を見ていたようで、私の意思を読み取ると頷く。

 それを視認して、私も卯月に頷き返し、今度は睦月の目をまっすぐに見る。


「睦月、私は人を殺すような人と恋愛するつもりはないよ。私は諦めない。あなたから逃げ切って見せるから」


 そう言うと卯月は私を抱き上げ、駆け出した。逃亡だって立派な戦略だ。卑怯なんかじゃないぞ!? それにもとから逃げるきでいたしね!


 あぁ、本当に誰か睦月を攻略してくれないだろうか。今なら、食堂の激ウマおばちゃんスペシャルの一年分の食券を奢ってあげるから。

 本当に美味しいんだからね!? おばちゃんスペシャル!!

 ……さすがに一年も食べ続けていたら飽きるかもしれないけど。そこまでは面倒見切れません。自分でどうにかしてください。




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