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2話 誰でもいいから早く(ヒロインを)攻略して!

 私は今、教室の掃除用具入れの中にいる。時間帯は放課後になって大分時間がたっており、部活中だったり、暇潰しに街に繰り出していたり、家で過ごしていたりして、回りには人がいない。

 私もできることなら家に帰りたい。

 ここに入ったときは外も薄暗くなってきていたし、外はもう真っ暗かもしれない。

 早く家に帰ってまったりしたい。かわいいかわいい妹をいじくり回したい。だけど、最近避けられている気がする。何故だろう? まあ、この際こんなことはどうでもいい。家に帰れなければ意味がない話だから。


 男性なら誰でもいいから早く私を攻略して!


 なんて、思ってた私はなんと愚かだったのだろうか。バカだ、バカ。バカすぎる。誰でもいいわけないだろう。相手はしっかりと考えないといけなかった。主人公よりも最悪なやつを引っ掻けてしまった……。まさにorz 状態。


 とか思っていたら、バキッという何かが壊れた音と共に視界が光に包まれた。反射的に目をつむる。視界を奪われ怯んでいる私の腕を、突然誰かが掴んできた。悲鳴をあげるようとしたが、驚きすぎたせいか声がでない。その誰かは私の腕を無遠慮に引っ張り、私を掃除用具入れから無理矢理引きずり出した。

 やっと光に慣れて視界が開けたさきにいたのは、私が一生懸命逃げていた相手。

 とうとう捕まってしまった。

 相手の横を見ると、無惨に壊された掃除用具入れの扉が投げ捨てられている。

 こうなることが今までの経験から残念ながら分かっていた私は、学校の備品を壊すなよ、とどこか冷静にその扉を見つめた。


「まだ分からないんですか? あなたは私から逃げられない」


 声をかけられたことで、相手を見る。口調から性別の判断はしにくいだろうが、相手は男だ。


 彼はクウォーターで髪の色素 が薄く、瞳は綺麗澄んだ青色。顔の彫りは深いためパーツ一つ一つがはっきりしていている。目は二重で、まつげが長い。

 雰囲気を分かりやすく言うと、爽やか王子さま系の美形。


 そんな彼と私は幼馴染みという設定をもっている。それは設定だけで本当に幼馴染みというわけではない。私たちはゲームの中の人間だから、ゲームに関係のないものは排除されている。実際に私は子供の頃の記憶はないから、きっと私の子供の頃など存在しないのだろう。最初からこの年齢。同じ時間を何度も繰り返す無限ループ。

 時間は進まないから年をとることはないし、毎日同じことを繰り返しておけば、未来のことなど心配しなくていい。

 ゲームの世界というものはそういうものだと私は認識していた。


 だから、今までこの幼馴染みに何度言われてもテキトーに流してこれた。だけど……。



 何をどうとち狂ったのか、この幼馴染みは私に執着してしまった。


 私はただ、主人公に攻略されないように、名前がばれないように、目をつけられないように、――裏で暗躍していただけなのに。


 私に女性同士で恋愛などという特殊な嗜好はない。


 だから、ヒロインが私たち『モブキャラだけど攻略できるよ!』のメンバーに目がいかないように、主要攻略対象の相手だけで大変になるように行動してきた。あまりにもあっさり主要攻略対象全員を攻略されるとモブキャラへと触手が伸びてしまうだろうから、上手く攻略がいっているときは間違った選択肢しか選べないように正しい選択肢を排除してきた。バッドエンドフラグが乱立状態だ。

 でも、あまりにも攻略が難しくて、モブキャラをさきに!

 と、なってしまったら本末転倒なので、適度にパッピーエンドを向かえさせてきた。


 そして、ゲーム本編以外の普通の日常の時がとても重要だ。慎重に行動しなければならない。本編以外の時は皆、素に戻る。だから、その時にヒロインに気になる人ができるように、主要攻略対象たちをヒロインのもとに集める必要がある。この行動は私一人ではできないので、卯月と共同で行った。もちろん、私の幼馴染みも例に漏らさず、他の主要攻略対象たちと同じようにヒロインのもとに自然に出くわすように仕向けたよ。

 はっきり言って裏で行動とか面倒だったが、これを行わないと私に被害が出る。仕方がないと諦めた。

 あ、でも、この裏工作のおかげで卯月と仲良くなれたから、悪いことばかりでもなかったかな?


 そうだ。卯月について説明しておいた方がいいだろう。なんと言っても卯月と私は同志なのだから。いつも卯月には助けられている。本当、いい同志を持ったものだ。


 卯月涼はお父様が日本人でお母様はイギリス人のハーフで、パーツのはっきりした美形だ。目は切れ長のつり目ぎみ。黒髪で瞳の色は赤い。皆さんのお察しの通り、卯月は主要攻略対象である。

 卯月の設定は俺様な生徒会長だけど実は世話焼きで、家は由緒ある名家の御曹司、というもの。実際の性格は俺様が少し薄れているが、そこまで設定と差違はない。


 卯月との出会いは生徒会副会長を攻略中のヒロインを傍観しながら毒づいていたときだった。少し話すと自分達の願いが同じだとわかり、協力関係を結んだ。

 卯月はヒロインとは絶対に結ばれたくないらしい。理由はまだ言いたくないそうだし、私も特に興味がなかったから聞いていない。


 卯月が攻略されているときは、いつも消毒すると言われてヒロインにしたことと同じことを私にもされた。幸いなことに卯月は世話好きのお兄ちゃんのような性格で話が進んだため、過激なことはなかった。

 攻略対象にはもれなくキスシーンがある。

 つまり私にもある。最悪なことに。てか、それ以上のことの方が多い。エロ要員だから仕方ないが。

 だから卯月に『そんなんでキスなんてできるの?』と聞くと、『オレのスチルだけはオレの頭で唇がくっついてるのは見えないんだよ。だから寸前で止める。ちゃんと、ヒロインにも許可はとってあるから大丈夫だ』と言っていた。卑怯な。私と変われ。


 このゲームにバッドエンドは一人にたいして三つ。ノーマルエンドとハッピーエンドが一つずつで、一人に計五つのエンドが用意されている。

 卯月以外の人が攻略されているときはバッドエンドを主に向かえさせ、ヒロインが他に走ろうとするときにハッピーエンドを向かえさせていたが、卯月きっての願いで卯月のときは先にはハッピーエンドを迎えた。なんでも、嫌なことは先にするタイプらしい。

 その後はノーマルエンドをそつなくこなし、バッドエンドは見ていただけの私でさえトラウマになりそうなほど酷く振っていた。

 他の人は何回もバッドエンドを迎えていたが、卯月の攻略だけが最小の五回で次の人に回った。さすがに酷い振り方だったから早めに終わってよかったと思ってしまう。敵に同情してしまうなんて!


 と、まあ、こんな感じで『誰でもいいからヒロインを攻略して!』と、躍起になっていたわけだ。


 あぁ、だけど、このときの私をぶん殴りたい。私のアホ! ボケナス! ヒロインは大切な餌だ! それなのに何てことをしてくれたんだ! ヒロインとくっつけるべき相手はちゃんといたのにっ!!






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