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1話 誰でもいいから早く(私を)攻略して!

 おかしい。なんで?

 なんで、こうなるの??

 違う、違うよね。だって、こんなこと知らない。

 お願い。早く、誰でもいいから早くっ!



 ――――早く攻略してっ!!






  ※






「瑞穂!」



 知っている名前が呼ばれた。たくさんの生徒が学校が終わり好き勝手に行き交うなか、校門付近を歩いていた一人の女子生徒がその声に反応を示した。その女子生徒は動かしていた足を止め、声が聞こえた方に振り替える。

 女子生徒の漆黒の髪は腰近くまであり、風に優雅になびいている。美しい彼女のその様子は一枚の絵画のようだ。可愛い、と言うよりも綺麗な顔立ちの美人。今は少し幼さが残っているが、きっとあと数年もすればその幼さも抜け大人な女性になることだろう。


「え? あ。葵くん。どうしたの?」

「どうしたの、じゃねぇよ。一緒に帰ろうって言っただろ! なに先に帰ろうとしてんだよ!!」

「あ、そうだった。ごめん、忘れてた」

「……なんだよ。楽しみにしてたのは俺だけかよ……」


 葵と呼ばれた、天使も裸足で逃げ出しそうなほど可愛らしい容姿をした男子生徒は、拗ねたようにぼそぼそと呟く。

 それを正面から見て聞いた女子生徒は動きをピタリと止め、肩をふるふると震わせたかと思うと、男子生徒に勢いよく抱きついた。


「キャー! 何このツンデレ! 可愛すぎる!! 葵くん! 私も葵くんといられるの嬉しいから! もう、大好きっ!!」


 抱きつかれた男子生徒は、大好きと言われたこともあり一気に顔を赤くし、ぎこちなく女子生徒の背に手を回した。


 あー、くそっ。惚気るなら人の目がないところでやれよ、バカップルが。

 私は私の今までの頑張りを見事に握り潰してポイ捨てしくれた、校内で有名なヒロインカップルに毒づいた。ヒロインカップル、というのは比喩ではない。言葉のまま、事実だ。


 この世界はなんと、まさかの乙女ゲームの世界なのだ。頭がいっちゃってるわけではありません。だから病院への通院を勧めないでください。ささやかだけど傷つきます。


 ちなみに、この乙女ゲームの題名は『十二人十二色〜あなたの好きな性格の人がきっといる〜』だ。ふざけてるの? このゲームの発案者をぶん殴ってもいいだろうか。もちろん全力で。女子だからってなめるなよ。卯月に『怒らせるな危険』って危険人物に認定され、かつ、私と関わることになる人みんなに『絶対に怒らせたらダメだ! 地獄を見るからな!』と言って聞かせて回るほどなんだから。


 なにも、私が題名だけでこのような暴挙に出ようとしているわけではない。他にも理由はある。が、しかし、今はまだこの理由は置いておく。まずはこのゲームの世界観を説明しよう。


 この乙女ゲームの世界背景は現代日本のどこにでもある普通の私立高校という設定になっている。攻略対象も普通の美形な高校生。美形が十二人もいるのに普通……? 美形なのに普通……? と言うツッコミはこの際無視をしていただきたい。

 種類豊富な数多な性格の人々を攻略できることを売りにされているだけはあり、ツンデレにヤンデレ、鬼畜にショタに俺様などなど、十二種類の美形たちが用意されている。しかも、ここからが重要なのだが、なんと名前を知ることができればモブキャラすらも攻略できてしまのだ。攻略できるならモブキャラって言わずに、隠しキャラと言うべきだと思うあなたは正常だと私は思う。しかし、名前を知らなければ普通にモブキャラとして生活している。モブキャラだから簡単に恋に落ちる、 というわけではなく、ちゃんと筋の通った物語になっていてる。まあ、大変さを言うなら名前を知るまでの関わりが一番大変だろう。何と言っても相手はモブキャラなのだから。


 あ、そうだ。この世界の人たちはここが乙女ゲームの世界だということを認識している。自分がなんの担当なのかもちゃんと理解している。さっき校門前でイチャイチャしていたバカップルの女子生徒はヒロイン。その相手の男子生徒はショタ系純情天使の後輩という設定の主要攻略対象。ちなみに私は、 爽やか系敬語男子で『何処の王子さまですか?』と問いかけたくなるような容姿をしている主要攻略対象の幼馴染み、という設定を持つモブキャラだ。


 モブキャラはモブキャラで彼女たち主要人物の恋愛物語を傍観したり、モブキャラ同士で恋愛したりと、この世界の生活を各々満喫している。私も、もし普通のモブキャラなら傍観を決め込んでニヤニヤと笑いながら、過ごしていたことだろう。


 『もし、○○○ならば』の『IF』だ。ここに先程、私が激情した理由が隠されている。私は、『モブキャラだけど攻略できちゃうよ!』のメンバーの一人を任されてしまっているのだ。

 ……もう一度確認しようか。ここは乙女ゲームの世界。だからもちろんヒロインは女子。そして、わかってると思うけど私も女子。

 私は……。私は、百合要員の攻略対象なのだぁぁ!

 ふざけんなぁぁぁあああ!! 私にそんな特殊な嗜好はないっ! 私は至ってノーマルだ!!

 いや、同性愛がダメだと言っているわけではない。私の友人にも腐女子がいる。よく男性同士の交じり合いの良さについて力説されるが、別にその友人を軽蔑しようとは思わない。人の嗜好にとやかく言うつもりはないのだ。その人が好きならそれでいいと私は思っている。

 でも、私のこれは違う。私は女子が嫌いと言うわけではないが、恋愛対象としては見れない。そんな私が、どうして攻略対象などにならねばいけないのだ! その道の人とやれ!

 友人エンド、とかならまだ分かる。微笑ましい、と思うだけだ。なのに、何が悲しくて情熱的なエロい熱愛を女子としなければならないのだ!!

 そう、エロい熱愛! 危ういところまで話は進んでしまう。しかも、私は受け。

 『やぁぁん!』とか、『あんっ!』とか、羞恥で死ねるレベルの、言葉と言っていいのかも定かでないものが私の口から飛び出して来るのかと思うと悪寒がする。うわぁ、今ので吐き気がしてきた。ちょっとトイレに行って吐いてきてもいいですか?

 あんな綺麗な顔して攻めとか! しかもSより。詐欺だ、詐欺っ!!


 ヒロインなんかに攻略されてたまるかぁぁあああ! 新たな扉なんか開けたくない!! 私は普通に男性と恋愛がしたいのだ!


 男性なら誰でもいいから私を攻略してっ!!




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